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2話 クロエ、戦う

「……ただ暗いだけだったか」


 洞窟を抜けた先はただ木々が続くだけだ。

 洞窟を出るまで、何かに出会す事もなかった。それもあってか、クロエの表情は少しだけ和らいでおり、年齢には見合わない歪な笑顔を見せたのも仕方の無い事なのだろう。そんな事は気にせずに道端に転がる石を投げては収納を繰り返し、今の今まで暇を潰してきた。


「まずは……適当に印を付けておくか」


 何もただ石を投げ続けていた訳ではない。

 クロエが求めていたのは手元にある鈍い黒で光った欠けた石だった。黒曜石、その名前は聞いても区別が付く人はそういないだろう。同様にクロエにも他の石との区別など分かりはしなかったのだ。だから、投げた結果で区別を付けた。


 手にした打製石器で近場の気に傷を付けると指を軽く舐めて風の感覚を掴む。別にそこに対して意味なんて無いだろう。肌感からして右側こそが風上である事は分かっていたのだ。だからこそ、少しも迷う事なく足を進める。


「ここら辺、か」


 百歩感覚、歩幅は統一させてはいないが感覚としては十分だった。その感覚の中で近場の木々へ※印の傷を付けて同じ方向を進み続ける。そんな事を十回は続けたところで変な鳴き声が聞こえた。


「嫌な声……だなぁ……」


 ギャギャと騒ぐ声に軽く目を閉じた。

 だが、意を決したかのように手に持つ得物に力を込めて声のする方へ向きを変える。声からして人では無い事くらいは分かっていた。それでも微かな希望に賭けない訳にはいかなかったのだ。……だというのに、その足取りは重く緩やかだった。


 だが、それは間違いなく正しい選択だと言える。

 少しした先で見えたのは人では無い、緑色の気持ちの悪い小人達がいたのだ。臭く、醜く、それでいて人と呼ぶには明確な違いが直感的に感じられてしまう存在、ゴブリンが目の前にいる。だからこそ、クロエも迷いはなく小さく呟いた。


「収納」


 百にも及ぶ、拳程度の石がゴブリンへと飛んだ。

 いいや、近くに寄った事で分かった。ゴブリンではなくゴブリン達、同じ種族の存在が六体もいたのだ。それを理解した瞬間にクロエは軽く口元を歪ませたが気にした様子はなく向かった。片手にある得物を軽く回したかと思うと投げ付けて近場の敵の首元へと当てる。


「ギャギャ!」


 怒りに満ちた声、だが、気にしてはいない。

 ゴブリンに見付かった瞬間に殺しにかかってくる事は分かっていたのだ。そんな結果になるくらいならば殺しにかかる方がマシだろう。だから、新しい石器を取り出して次の得物に投げ付ける。


 そんな最中に一体目のゴブリンが立ち上がった。

 最初からクロエの力では倒せるだけの力は持ち合わせていなかったのだ。それに呼応するかのように今し方、首元へと石器が刺さったゴブリンが起き上がる。最弱の存在であるゴブリンにすら劣るような男、それはゴブリンからすれば愉悦に浸れるだけの結果だっただろう。


「馬鹿か」


 間違いがあるとすれば知能の差くらいか。

 ゴブリン達が停滞した瞬間、それでいて動かないという時間がクロエには欲しかった。遥か上空から落ちてきた大岩が七体のゴブリンへと降り注いで塵へと還す。そんな結果を見てクロエは静かに笑った。


「なんだ。雑魚でも価値があるじゃないか」


 記憶は無い、それでも結果が成果を示した。

 頭の中で響き渡るレベルアップの声に愉悦の笑みを浮かべながら手元に新しい石器を出す。そのままゴブリン達を潰した石を回収して、先程の道へと足を進め直した。どちらにせよ、結果は変わりはしないのだ。


 森から抜けたい、本音までは隠せはしなかった。

 だからこそ、その足取りを少しだけ早めて先程の道へと戻ってから進み直す。等間隔で傷を付ける事は忘れていない。そんな事を小一時間程度、続けた中で求めていたものが目の前に現れる。


「……はぁ、時間がかかったな」


 クロエの前に現れたのは済んだ透明な川だった。

 何事も水が無ければ上手くはいかない。だが、クロエが川を求めたのはそこでは無かった。試したい事があったのだ。革製の靴を脱いで冷たい水の中へと足を沈める。反射した顔はとても幼いながらに美しく「消〇力」等と歌っていそうな風貌だった。


「収納……おお、やっぱりか」


 川の水を取り込んで周囲を岩で塞いだ。

 その甲斐もあって、水を抜いたエリアに取り残された魚やザリガニ等がいた。それらの内臓だけを取り出してから回収する。それだけでは済まないだろう。何も川に来たのは食材を求めて、という事だけでは決してない。


「……川下に向かえばいいか」


 川の近くというのは人が暮らしやすい空間だ。

 少なくとも休むためには自身の固有スキルである【不労所得】を十全に発揮出来る場所に行く必要があった。それもあってか、未だにクロエは不労所得を使ってはいない。いいや、説明は見れたものの使い方が分からない、と表した方が正しいだけかもしれない。

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