埋めに行こうよ
普通とは何か。
その基準は、人によって違う。
人間じゃないものが、人間に“人間”を教える話。
「おはよう」
「…」
「みて、くっついた」
「…そうか…」
「でもね歯医者嫌い」
「ガキみたいなこと言うな…」
「触ってみてよ」
「……歯を?」
「うん」
「……いや、なんで俺が」
「だってちゃんとくっついたか確認したいじゃん」
「鏡見ろよ」
「見てもわかんないよ、鹿ならわかるでしょ」
「だからなんで俺なんだよ」
「鹿ならわかるでしょ?」
次の瞬間、
悠が鹿の手首を軽く掴んだ。
「おい――」
そのまま、自分の口元に引き寄せる。
「ほら」
鹿の指先が、悠の歯に触れる。
指先に、硬いものが触れた。
じんわりと、人の体温が伝わる。
鹿はぱっと手を引く。
「……もういいだろ」
「どうだった?」
クラスメイトが聞いてくる
「鹿ってどっち方面から来るん?」
「コンビニ方面」
「今日さ、裏門方面から行ってる時にさ…猫の死体あって…」
「やめろよ…今飯食ってんだよ」
「なぁ?悠」
「猫って美味しいのかな…」
「…」
喉の奥が、わずかに反応する。
悠は少し首を傾げる
クラスメイトが気まずそうに
「あ、あはは…」
視線が泳ぐ
「見に行こうよ」
「……何を」
「裏門の方」
「やめろ……行かねぇよ」
「なんで?」
「……普通いかねぇだろ」
「…それも鹿の普通?」
「……」
「……じゃあさ」
「埋めに行こうか」
「………は?」
「それが鹿の普通でしょ?」
(なんで、着いてきたんだ…)
視界の端に、ずっと違和感が残っている。
(……近い)
喉の奥が、少しだけ重い。
呼吸が浅くなる。
「あ、あれじゃない?」
「あれ?鹿?着いてこないの?」
「どうしたの?疲れた?」
「いや…」
悠が一歩、鹿に近づく。
距離が縮まる。
「鹿、苦しいの?どこか痛い?」
悠の声は近い。
なのに、どこにも引っかからない。
ただ言葉だけが、そこにある。
「やめよう…こんなこと」
「なんで?」
「そもそもなんでそんなに見たいんだよ…」
「…なんとなく」
「…鹿、怖いの?」
「気持ち悪い」
「猫が?僕が?」
「……死体だよ」
「…そっか、鹿は猫が苦手なんだね」
「じゃあ、帰ろうか」
頷くことしかできなかった。
それ以上、言葉が出てこない。
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