カースナイト戦
カースナイト、それは呪いによって生まれた騎士というが……呪いが騎士として形を保っているのか、騎士が呪いという能力を持っているのか、どちらかは分からない。
カースナイトの呪いは個体によって性質は全く違い、様々な種類があると言われている。
一説によると感情が関係しているともいわれているが、真実は定かではない。
ただ、極稀に強力な呪いを持つ突然変異種もいるから注意が必要である。
カースナイト系は見つけ次第すぐに討伐するのではなく、攻撃する前に一度本国に知らせるようにご協力をお願いする。
彼らは下手に刺激してしまってはいけないのだから……。
――CGBSワールド『異形怪物書 カース系』より
黒いスライムが爆発したと思ったら、出てきたのは漆黒の鎧を全身に纏った騎士だった。
普通、騎士の鎧にはどこの国に所属しているのかが分かるように必ず所属している国の紋章を付けているのだが……。
紋章らしきものがどこにもないということは、魔物であるということだろう。
「なあ、こいつってもしかしたら、依頼に書いてあったカースナイトじゃないのか?」
「多分そうだと思う。 でも何でスライムの中から出てきたんだろう?」
「収納系か、空間系のスライムなのかもしれない。 多分その中にいたんだろう。」
収納系は確かに中に何かを入れているときは不安定だ。
攻撃したことによって衝撃が中に伝わり、崩壊してしまった……と考えれば確かにスライムから出てきたことを説明できるだろう。
だが、収納空間が崩壊したという話は聞いたことがないし、見たこともない。
しかも空間系なら、崩壊時空間が歪むような感じがするはず……でもそれが無かった。
「ねえ、こいつ本当にスライムか、カースナイトなの?」
「分からん。 こいつがなんだって、どうでもいい。 今はこいつを倒すことだけ考えるぞ。」
「いや、その前に少しだけ作戦会議をしようよ。」
私たちが話していると、カースナイトは剣を構えて切りかかろうとしていた。
先ほどの攻撃で私たちを脅威と判断したのか、私たちに相談しあう時間を与える気もないようだ。
「どうやら、相談している暇も無いみたいだ。 来るぞ、構えろ。」
カースナイトがフレイムに向かって走り、剣で叩き切ろうとした。
フレイムは剣で攻撃を受け止めようとしたが、カースナイトの剣が彼の頭に直撃した。
その時、とても重い音がしたと思ったが……軽くぶつかったような音だった。
「っ! 痛った! あー、ゲームの時に痛覚機能付きでやっていてよかったー。 あれなかったら絶対痛みで悶えていたって。」
「そ、そうか。 あまり攻撃に当たるなよ、この世界で蘇生できるのか分からないからさ。」
「気を付けることにするよ……。 にしても思ったより強くなさそうだな。」
痛覚機能はゲームの中で、死なないし痛くもないからって勝てない相手に無理に挑んで死んでいき、無理やりクリアするプレイヤーどもを、減らすために追加された機能だ。
現実での痛覚と非常に似るように作られている為、死ぬときには激しい激痛が来るようになっている。
結果、そのようなプレイヤーが減ったのはいいが、それと同時に自殺しようとする変態も増えた。
そんな機能である。 まあ、痛みはなれたら痛くないけどね……。
フレイムは落ち着いた様子でカースナイトの剣を奪い、それをカースナイトに刺そうとしたが避けられた。
そして、剣を掴まれ……カースナイトに回収された。
「あ、結構いいところまで行ったのになー。 剣を回収されちまったよ。」
「いや、その剣はもともとカースナイトのだろ! 自分のものに勝手にするな!」
「でも、盗ったのは自分のものでいいんだよね?」
「んなわけ無いだろ! 盗ったとしてもそれは他人のものだ!」
そんなことを話しながら、カースナイトの体力を順調に削っていった。
剣と剣がぶつかり合うと思いきや、剣と体がぶつかり合う音だったが……。
体で攻撃を受け止め、その間に自分の刀で切りつけていくスタイルで闘っていた。
(痛くなかったからって、体で受け止めるんじゃない! お前は馬鹿か!)
そんなことを思いながら私たちは数十分間、闘った。
カースナイトは『重力魔法』で地に沈み、『浸蝕魔法』によって鎧を崩されながら、フレイムに剣を振るった。
カースナイトの剣は『浸蝕魔法』によって内部まで柔らかくなっていたのかは分からないが、フレイムに当たったとき崩れ落ちてしまった。
自分の剣が崩れて無くなったことに驚いたのか、その場で固まってしまった。
「なんか、この状況はさすがに申し訳ないと思ってしまうな。」
「そうだね、相手の攻撃手段を半強制的に奪ったようなもんだからね。」
「かわいそうだし、もう終わらせてやるか……。」
「そうと決まれば、早速あいつに止めを刺してやるか。 『極光剣』」
私は自分の剣に光を纏わせて、相手をたたき切る……わけではなく。
光を纏った剣先から、極太の光を放った。
『極光剣』はカースナイトの体に吸い込まれるように消えていき、内部から切り刻んでいった。
「毎回思うんだけどさ、これって名前に剣が付いているのに全く関係ないよね。」
「確かに。 何かを纏って放つだけなら剣以外でもいいよね。」
「そして、無駄に威力がすごい……。」
「いちいち剣に光を纏わせないといけないから、面倒だけどね。」
カースナイトは重い音を立てて地に倒れた……のだったら良かったのだが。
ふらついてはいるが、まだ己の足で立っていた。
「意外としぶといな、こいつ。 G級にしぶといんじゃない?」
「ここで○キ○○をだしてくるんじゃない! あいつは結構凄いからな。」
「なぁ、あいつなんか様子がおかしくないか?」
フレイムに言われてカースナイトのところを見たら、もうふらついてはいないが小刻みに震えていた。
その行動が恐怖から来た震えではないことはなんとなく分かった。
しばらくしたら、震えが治まったみたいだが……今度は微動だにしなくなった。
「なんかヤバそうだな。 早急に倒したほうが良いんじゃない、あれ?」
「だね。」
何かが割れる音が響いたと思った瞬間、カースナイトから黒い霧が隙間から出てきた。
そして鎧が割れる音は続き、胴体のところまでひび割れたらどす黒い液体と血みたいなのが出てきた。
兜の部分からはどす黒い光が漏れていた。
黒い液体はカースナイトを外界から一時的に遮断して、赤い血はカースナイトを覆った。
「なあこれ、第二形態に移行しているパターンじゃね?」
「うっわ、絶対面倒くさいパターンだ。 どんなステータスなのかかくに……。」
「ゥ、ウウ……ウガガアアアアァァァ。」
カースナイトは声を上げ、鎧が急速に崩壊していき、そこからは触手がでてきた。
兜の右半分はどす黒い液体によってできた剣みたいなのがでていた。
兜の左半分は隙間からどす黒い光があふれ出ていて、目の部分からは赤い光が出ていた。
全体的に大きくなり、3メートル近くに変化し、血でできた剣とどす黒い液体でできた剣を1つづつ持っていた。
「キモッ! なにあれ、めっちゃ化け物じゃん。 カースナイトじゃないでしょ、絶対にあれ。」
「確かに気持ち悪いねー。 特に顔の部分が……。 アンデット枠じゃないのあれ。」
「鑑定必須だな……流石にこれは。『鑑定』。」
鑑定してみると、カースナイトのステータスが大体表示された。
寄呪騎士パラレティック・デクレライ Lv:971
スキル:死闇魔術 闇血剣 腐敗魔術 瞬剣技 死呪??? 41957171
は? なんだ、この狂ったレベルは……。 900超えっておかしいでしょ。
これ、倒せるの? めっちゃむずそうなんだけど。
今のレベルで900超えを倒すなんて普通は無謀な行為なんだが……やるしかないよな。
「今までで一番激しい戦いになりそうだな。 死ぬなよ?」
「ああ、絶対なんか死にそうな気がするんだが。 死なないように気を付けるとするよ。」
そんなことをフレイムと話して、当初依頼で討伐しようと思っていたものとは全く違ったが、絶対に倒してやると私たちは思いながら、カースナイトに向かって駆け出した。