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輝鑑 後世編纂版  作者: 担尾清司
第二部第二話:垣屋続成、丹後への援兵作戦で八面六臂の活躍をするのこと
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第參悟(53)章:朝儀 03

「……理由を、聞いても良いな」

 政元をすごい目で睨付ける義政。一方の政元は自身の情報を信じる限りでは今京洛で襲う必要性を感じられなかったのだから、当然と言えよう。

「京洛は、守るにあまりにも不利。そして、京洛を出ても合戦を強要する場は存在致します」

 京洛が守るに不利。それはもはや常識以前の軍事的知識といえた。無論、それは垣屋続成にとっても同様であるのだが、この場合防衛側になるのは十中八九幕府であった。この京洛という地形条件は、攻撃側に百倍する守備兵を備えたとしてもひいき目に見て互角、はっきり言って百倍する守備兵を備えたとしても守備側の方が不利といえるほどの地形条件であった。それは首都で皇居が存在するからなどというものではない、純粋に山城盆地という地形は、否、盆地という地形は平野と違い、防衛上非常に不利な地形なのだ。

「ええいっ、まさか垣屋はそれを知ってこのような行動を起こしたとでも!?」

 今度は伊勢が声を荒げ始める。彼は政所執事であったが、同時に武士であった。武士である以上、軍才のあるなしは重要である。そして、上流階級である以上最低限の軍才は存在し得た。生まれ持っての才覚というよりは、英才教育によるものであったのだろうが、この際基礎的な教養という意味ではどちらでも近似値は求められるだろう。

「赤松政則を討ち取った軍才は、酔狂ではないと思われます」

 一方で、盟友赤松政則を討ち取られたことをここで証拠として出す政元。彼としても忸怩たる思いはあったろうが、そうではなかったとしても赤松政則暗殺劇や軍才高い浦上則宗をよりによって本拠地である備前国内で撃破したその戦績は、確かに垣屋続成という人間の高い軍才を意味していた。まあ尤も本人にそれを聞いたら、「俺は知識を有効活用できているだけ、才能は無いよ」と否定するのだろうが。

「……然らば、何処で決戦すると申すか」

「勝竜寺に敵を誘い込み、城兵と併せて挟み撃ちに致します」

 勝竜寺、すなわち久我畷の途上にある要所であり、要所なだけあって畠山義就が郡代のための拠点として構築した砦が存在した。とはいえ、城と呼べるほどの城砦は今なお存在していない。

「勝竜寺?」

「ははっ」

「斯様なところに、城などあったか?」

「まあ、お聞き下され」

 そして、細川政元が語った軍略は、以下のようなものであったとされている。

 1.西国街道を帰るであろう垣屋続成を勝竜寺側に寄せるため、「凶兆」を仕立て上げ、同時に自身が囮となって挨拶に伺わせる

 2.勝竜寺の郡代役所に垣屋続成を一泊させ、油断させると同時に勢子に扮した城兵で囲ませ、接待を行う

 3.細川政元自身は所要があると厠にでも出ておいて、垣屋続成が訝しむ前に殺害、護衛兵を城兵諸共にでも構わないので焼き討つ

 ……全てが巧くいけば、確かに垣屋続成はここで落命してもおかしくない計であった。そう、「全てが巧くいけば」。

 とはいえ、細川政元も次善、三善の計は用意していると同時に、垣屋家に紛れ込ませた草に勝竜寺に畠山義就の陣所跡が存在することを吹き込ませており、垣屋続成が前評判通り西軍に思い入れがあるならば立ち寄るだろう、という計算のもとに成り立たせた詭計であった。

 そして、それを聞いた義政は……。

「……政元よ」

「はっ」

「おぬし、うつけではなかったのだのう」

 はっきりとした感想を言い放った。それは、細川政元をがっくりさせるのに充分な、呆れた感想であった。

「……そ、それがしをなんだと思っておいででございましたか」

「その歳で娶らぬのは修験道にはまったと聞いておったが……」

「……近々、公家より養子を迎える手筈になっております、家督の件に関しては、心配せずとも……」

 この時期、既に公家の九条政基より養子を持ってきて家督に据える政治的工作が細川政元の手で行われつつあった。それも当然のことで、武家とは大規模な経営者の側面もあり、それはすなわち血統による社長という形で財産相続の許された会社とも言えた。すなわち、応仁の乱とは(結果論とはいえ)山名家が運営する会社と細川家が運営する会社が後世の会社の戦いである財力ではなく「実力」、つまり軍事力で戦ったといえるものであった。

「いやいや、そうはいうが実子に勝る後継者なしじゃぞ、政元」

「……しかし……」

「では此度の計、失敗すれば罰を与える。……娶れ」

「は……ははっ」

 ……結果の成否は記述することを避けるが、細川政元の血統が残存していることを物証としたい。

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