88.料理教室
こうして、私は宿に戻るとそのまま調理場に入ることになった。遥、マルセル、ヤニックも助手として参加する。シンファルと調理担当の従業員はメモを持っている。
シンファルの話を聞く限り、片栗粉が存在していなさそうだったので、まずは片栗粉の作成から入った。生のジャガイモの皮をむいてすり鉢ですり下ろす。すり下ろしたものを布でくるんで水の入ったボウルの中で10分ほどしっかり揉む。布でくるんだジャガイモを外し、残ったボウルの中の水が澄んできたらう上澄みの方を捨てる。そしてそこに水を入れてかき混ぜて、上の部分が澄んできたらまた捨てる。それを繰り返すとボウルの底に白いものが溜まっている。
「これが片栗粉の元です」
私が説明すると、シンファルたちは目を丸くして「ほお」と見る。
「本当はこれを二日くらい放置して乾かして、それをすり鉢ですり潰したりして粉状にするんですが、今日はこれの一部をこのまま使います。余ったものは放置しておいて、カラカラに乾いたら粉状にしてください。保存できます」
私が説明すると、シンファルたちは「分かった」「はい」と言ってメモする。
片栗粉を作っている間に蒸かしておいたジャガイモを四つ切にしてマッシュポテトのようになるまで潰す。これに片栗粉と油を少量加えてさらに混ぜる。
「味を何種類か作ろうと思います。まず、このままのバージョンを作ります」
ジャガイモを練ったものを太さ5cmほどの棒状にする。
「あとは、ここにミルクを加えたバージョン」
残ったジャガイモの中にミルクを少量混ぜる。
「そして、このミルク入りバージョンを作ります」
ミルク入りジャガイモを練ったものを太さ5cmほどの棒状にする。
「この中にチェスパルティに使うようなチーズを入れても美味しいと思います」
と私が言うと、
「チーズ?フロジュですかね?あります」
と言って調理担当の従業員の一人がチーズを出してきた。見た目はモッツァレラ風だ。
「このチーズじゃなくてフロジュを包んで、小判状に丸く整えます」
私はチーズを包んだいももちをいくつか作った。
「これだけ丸くすんの?」
シンファルが訊いてくる。
「いや、他のも輪切りにして同じような形にします。そして焼きます」
「ほお、では、こっからはうちのにやらせてもらってええか?」
「はい、どうぞ」
宿屋シンファルの調理担当の従業員たちはとても手際が良く、小判型への成型から焼まで順調に進んでいく。焼き上がったものを一旦皿に乗せていく。
「ソースを作ります。醤油と砂糖とみりんを大さじで同じ量を入れて、そこに先ほど作った片栗粉を少量加えます」
私が言うと、調理担当の従業員たちは言われた通りに進めていく。この調子であれば、最初から私ではなく従業員の人たちに動いてもらった方が良かったのでは?という気持ちになってきた。
シンファルがみりんの代用と言っていたものはハチミツだった。イメージする味と少し違ってきてしまうけど、この世界の人の口には合うかもしれない。
目の前で順調にみたらしソースが出来あがり、
「ここにミルク入りの方を入れてソースを絡めます」
従業員たちは「いい匂い」とか「おいしそう」とか言いながらミルク入りのいももちをソースに絡めていく。そして、一通り出来上がった。
「こっちのミルク入れてない方のソースはどうするん?」
シンファルが訊いてくる。
「醤油で食べたり、あとは甘味噌を塗って焼いたり」
シンファルは「ほお!」と目を丸くして頷いている。
私は醤油を垂らす用の他に、調理担当の従業員に甘味噌の作り方を伝え、それを塗っていももちを焼くように伝えた。
そして出来上がったいももちが私たちの目の前に広がる。
「食べてもええか?」
シンファルがフォークを手にした。
「どうぞ、食べてみてください」
私が言うと、シンファルと調理担当の従業員、そしてマルセル、遥、ヤニックが一斉に群がった。彼らの反応はというと「旨い!」「醤油合うわ」「チーズ入りが好きやな」「みたらしソースええな」「味噌の焼けた感じも好きやわ」と概ね好評だ。
「これがいももちか」
マルセルがじっくり味わっている。
「私これ好きなんだよー」
遥がパクと食べる
「確かにこれなら海から離れた土地でも作れそうですね」
ヤニックが食べながら頷いている。
「こりゃええわ。ハイリスの名物になりそうやわ。醤油も売れるかもしれん」
シンファルが言う。
それに呼応するように調理担当の従業員が提案する。
「今日の夕食に出してみましょう」
「せやな。あ、今日の夕食は肉じゃがも入れてな。この子との約束やで」
「承知しました。ポテータ祭りですね」
こんな感じで私の料理教室は無事幕を閉じた。




