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86.特訓した海での話

「ここで勇者と人魚は特訓してたんや」


 シンファルは言った。

 手前にあるのは砂浜ではなくゴツゴツとした岩場だ。


「あそこの遠くにある岩あるやろ」


 シンファルは、沖合500mくらい先だろうか、海の中にある二つの岩を指した。


「あれ、元は一つの大きな岩やったんや。それが勇者の攻撃のコントロールの練習をやった結果、真ん中に穴が開いて二つの岩に分かれたんや。今は『勇者の二ツ岩』て言われとる」


「あれを的にして練習してたということですか?」


「そやで。最初は全然当たらんくてな。まずはあの岩に当たるようになるまでで1ヶ月くらいかかってた気ぃするわ」


「毎日朝から晩まで練習してたんですか?」


「毎日っちゅうわけやなかったけど、これくらいの時間から日が落ちる前くらいまで練習してた感じやな。ほんでコントロールが出来るようになってから海に出るようになったんや。ここから勇者は人魚に抱えられて、海の中からだったり空からだったり海の魔獣討伐に向かっとったんや」


「人魚に抱えられる?」


「赤ん坊を抱っこするときに前向き抱きするやろ。外を見さすために。あんな感じや。人魚はその状態で空を泳ぐんや」


 遥は頭の中で想像したようで、その結果、


「え、どういう状況…」


 と理解できないようだ。

 かくいう私も同じである。人を抱えながら海を泳いだり空を飛んだり?海を泳ぐのは浮遊力が働くから百歩譲ってできるとして、空は重力がそのままかかるから抱えるのが例え子供だとしても腕力がかなり必要だし、抱えられてる側の勇者は腹の辺りを抱えられているとしたら足も手もぶらんという状態になっているはずで、その状態で海の魔獣を討伐?相当な筋力が要りそうだ。目撃していたシンファルはさらっと言っているけれど、想像することがとても難しい。

 マルセルもヤニックも同様に勇者を抱えて空を泳ぐ姿の想像が難しいようだ。


「勇者は手足がぶらんとしてる状態ですか?」


 私はシンファルに訊いてみた。


「そやで。こう、腰のところを支えられて」


 と自分のお腹の辺りに右手の前腕を当てた。

 その様子を見る限り、私の想像は大きくずれていないようだ。当時は子供だったから辛うじて成立したとして、今も同じなのだろうか。エイタ君は15歳になっているはずだから、身長は春子をすでに超えている可能性もある。思春期の男の子が、母親代わりに抱っこされるのは抵抗があるのではないかという心配すらしてしまう。情報にあった『勇者が反抗期に入ってしまった』という状況の原因がこれなのでは?と私は思い当たり、


「だからか」


 と思わず口に出してしまった。

 遥とマルセルとヤニックは一斉に「何が?」と訊いてきた。


「いや、エイタ君、反抗期に入った勇者が勝手にパーティ組んでしまった理由は人魚に抱っこされるのが嫌だったからじゃないかと想像しただけ」


 遥とマルセルとヤニックは同時に「あ~」と納得してくれた。

 シンファルだけが「もう勇者は反抗期に入る年齢になったんかあ」と一人感慨深げだった。そしてシンファルがアルノルドのように手をパンと叩いた。


「そうや、人魚が言うてたこと思い出したわ」


「人形が言っていたこととは何ですか?」


「人魚は勇者の特訓が終わった後も醤油や味噌作りのためにハイリスに定期的に来てくれてたんやけど、醤油が完成したくらいの頃やったかな。4~5年くらい前や。エンガ王国に行くことになった言うてな。魔王国の魔素が強まっていて地中に流れ込んできて強い魔物が現れるダンジョンが増えてしまっているから、サンバチスト様の命で整理をしなければならなくなったと」


「サンバチスト様の命で?」


「そやねん。そん時にな、勇者が空飛んで移動するのを嫌がっている言うてな」


「嫌がってる?」


「そやねん。だから、醤油や味噌作りは人魚しか来てくれんかって。勇者はこの世界の味に馴染んどるから日本の味を欲してない言うてな。もしかしたら、空飛んで移動するのが嫌やったんやなくて、抱っこされんのが嫌やったのかもしれんな」


 エイタ君が4~5年くらい前から思春期始まっていた可能性は高そうだ。

 「ああ!」とシンファルが言った。


「もう一個思い出したわ。わては勇者と人魚が異世界から召喚されたってのに驚いたんやけど、この世界はもっと驚く人がおるらしいで」


 シンファルは私たちを順番に見た。


「聞いたことあるか?タイムリーパーっての」


 ヤニックが私に「タイムリーパーとはなんですか?」と訊いてくる。


「簡単に言うと未来から来た人」


 私はそう答えたが、本当にそんな人がいるんだろうか。私はシンファルに訊いた。


「それは本当ですか?」


「本当なのかは分からんねんけど、わても会うたことはないからな。でも、おるって話や。人魚が言ってたんや。ほんで、サンバチスト様の命でエンガ王国のダンジョンの整理をせんといかんくなったちゅう話やった」


 タイムリーパーが本当にいるのだとしたら、その人は何をしている人なのだろう。サンバチスト様に近い場所にいる人であることは間違いなさそうだ。

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