85.戻れる場所
シンファルの先導で私たちは春子とエイタ君が特訓を行った海へ向かった。
「シンファルさん、徹夜とかしてませんか? 昼間の寝る時間とか私たちが奪った形になってませんか?」
私はシンファルに訊ねる。
シンファルは笑顔で、
「大丈夫や。わては夜寝とるからな。個人経営のちっこい宿とは違って、うちはちゃんと儲かっとるで夜中対応用の従業員も部屋掃除用の従業員も雇っとるから心配いらんで」
と親指を立てて私たちに見せた。
どうやら心配は無駄だったようだ。安心した。
シンファルは道中、当時の春子とエイタ君の話をしてくれた。
「ビックリしたで、最初。異世界からこの世界に召喚された言うてな。そんなシステムあるなんて、わて知らんからさ。でもまあ、サンバチスト様ならできるかあ、て納得したんやけど。おたくらも召喚されたん?」
「いいえ、私たちは召喚されたわけではなく、竜巻に巻き込まれてしまって、この世界に落ちてきたというか」
シンファルは目を丸くして驚く。
「竜巻に巻き込まれた?そんなんで生きとるなんて奇跡やな」
そこにマルセルが口を挟んだ。
「落ちてきた場所に偶然ウィザード・マルセルがいらっしゃって、空から落下してきた彼女たちを宙に浮かせたために墜落が免れた形です」
それを聞いてシンファルは丸かった目を更に丸くして私たちに言ってきた。
「そりゃあ幸運やったなあ」
遥は「はい、幸運でした」と返す。
「ほな、おたくらは何かやらなきゃならんような強制されてるみたいなことはないんやな」
シンファルの言葉が引っかかった。
「勇者と人魚は強制されていたんですか?」
私が訊くと、シンファルは頷いた。
「そやで。魔王軍が攻めてきた時のために強くならなきゃならん、言うてな特訓に励んでたんや」
ヤニックが不安そうにシンファルに訊く。
「魔王軍が攻めてきた時のため?サンバチスト様がそのために勇者と人魚を召喚したということですか?」
「らしいで。自分たちはそのために召喚された言うてた。サンバチスト様は自分が消えることを予見しとったんやろか。あん時の勇者はまだちっちゃくてなあ。こんな子供が『自分がこの世界を守らなければならない』なんて言うとるもんやから、なんや不憫に思てな」
私はシンファルに訊いてみた。
「ハッシュでは、妹が、人魚が『この世界で生きていくにはやるしかなくて』と言っていたと伺ったのですが、シンファルさんにも似たようなことを言ったりしましたか?」
「ああ、そんなようなことを言うとった気がする。わてがハッキリ覚えとるのは、元の国に帰りたいけど帰れん、帰ったら死ぬだけや言うてたことや」
「帰ったら死ぬだけ?」
「そうらしいねん。自分たちは海に足を取られて死んだ思たらこの世界にワープした言うねん。ほんで、サンバチスト様に元の世界に戻してもらうことはできたらしいねんけど、戻る場所は直前までいた場所やいうて、そこは海の中やから戻ったところで死ぬだけや言うて」
今、重大なことを聞いた気がする。元の世界に戻れる場所は直前までいた場所?
遥も同じことを考えたようで、私に言ってくる。
「ねえねえ、夏ちゃん。つまり、私たちが戻れるとしたら竜巻の中ってことになるの?」
「話の流れのままだとそうなるね」
「え~、でもそれだと私たちも戻ったところでTHE ENDじゃん」
「だから『この世界で生きていくしかない』と話していたかもしれない」
マルセルが私たちの肩をポンポンと叩いた。
「それはまだ分からねえぞ。この世界に来て数日が経過してる。海の中の場合は基本的に場所は変わらないが、竜巻は同じ場所同じ時間に毎日発生しているものではない。この世界に来た日のその時間に戻れるわけでもない限り、竜巻の中に戻ることなんて不可能だ。だから、戻れるとしたら何かしら別の手段が出てくるはずだ」
遥はハッとしたようにマルセルを見る。
「確かに同じ竜巻は存在してない」
「だろ。今は帰れることを信じて進むしかない。あとシンファルさんがウズウズしながらこっち見てるぞ」
とマルセルは顎で前方を指した。
前方にいるシンファルが更に前方を指して言った。
「着いたで」
そこには一面海が広がっていた。




