83.醤油を教えてくれた人
「どう?料理は口に合った?」
店主と思われる男性に訊かれて、私たちは全員「はい」と答えた。
「そら、良かった。生魚食べ慣れてない人は最初不快感あるようやけど、これは慣れやからなあ。慣れたら美味いんや」
「私は食べ慣れていたので、とても美味しくいただけました」
と私が答えると、遥も「私も」と答える。
その答えに店主と思われる男性は「食べ慣れていた?」と不思議そうに呟いてから、私たちの顔を見比べた。
「おたくら、日本ちゅうとこから来たとか、そんなことあったりする?」
と店主と思われる男性が訊いてきた。
私たちは全員「?!」という驚きの顔をしていたと思う。
その顔から悟ったようで、店主と思われる男性は笑って言った。
「ああ、やっぱりそうかい。前に知り合った勇者と人魚と同じ見た目やもんな。黒髪に黒い瞳に。この国だと浮いてるちゅうか」
私はマルセルに小声で確認するように「この方がシンファルさん?」と訊くと、マルセルは頷いた。
「どうや?日本ちゅうとこで出てた料理に似てたやろ?」
シンファルは私たちに訊いてきた。
「はい、とても似てました」
「やろー。生魚を食べる文化はハイリスには昔からあったんやけど、醤油ゆう調味料に漬けて食べるいう文化はなかったんや。人魚がよ、ここ来た時に『醤油で食べたい』言うてな。日本ちゅうとこでは大豆いう豆から醤油を作るいうてな、そこから2年くらいかけて醤油作ったんよ」
「醤油は最近出来たんですか?」
「そやで。最初の年は失敗してな。まずは麹を作らんといかん言うて、色んな豆で試したんやが、ほとんど上手くいかんくてな、ほいでさらに違う豆を探とる中で人魚がよ、元々油取る用だった豆をよ、これは大豆や言うて、これで試すべきやいうてな。試作を繰り返してやっとできた麹で発酵熟成させてな、ようやく出来たんよ」
「人魚が主導でやっていたんですか?」
「そらそうや。わてら醤油いうもんがどんなもんか想像もついてなかったしな」
遥が自分の好みに合わせて造った醤油だったから私たちの口と合っていたのだ。
「ほいで、この大豆は緑のうちに採って塩ゆでしたら美味い言うてな。ほいで試したんやけど青っぽくて食えたもんやなかったんやけど、畑の土に森の土を混ぜてたり、人魚の連れの魔術師に大豆の品種を変えてもらうとかしてな。ほいで、塩ゆでにしたら美味い枝豆ができてな」
「今日の料理も人魚のリクエストから出来たメニューだったりするんですか?」
「そやで。焼き魚以外は人魚に作ってって言われたところからできた料理や。元々、勇者が海で特訓するために一時期うちで暮らしとったんよ。ほいで、最初はうちで出す料理をそのまま食うてたんやけど、毎日食べてたら飽きたらしくて徐々にリクエストしてきてな。調理場入ってきて食材見て、そこから出来るやつを自分で作り始めてよ。ほいで、わてらもその料理を教えてもらってな」
こちらから求めずとも人魚エピソードがどんどん出てくる。
「すいとんも最初は醤油味ではなかったんや。醤油が出来てから醤油味も作るようになったんやで」
「『醤油味も』ということは、醤油味以外もあるんですか?」
「最初に作ったのが出汁に塩を入れただけのお吸い物バージョンや味噌汁バージョン」
私と遥は同時に「味噌汁!」とテンションを上げた。
シンファルは私たちの反応に対して嬉しそうに反応する。
「味噌汁好きか。実は醤油よりも味噌の方が先に出来たんや。味噌汁飲みたいか?」
私と遥は同時に「飲みたいです!」と答えた。
「そうか。明日が味噌汁の予定やったんや」
私と遥は同時に「明日も泊まります!」と答えた。
その答えにマルセルとやヤニックが「え?」と驚いた顔でこちらを見た。
「ほら、明日はエイタ君、勇者が特訓した海に行きたいし!」
私は強めにマルセルとヤニックに言った。
その言葉にシンファルは「なんで?」と口を挟んだ。
「私たち、勇者と人魚の跡を追いながら彼らを探してるんです」
遥がシンファルに答える。
その答えにシンファルは更なる疑問を持ったようで「なんで?」と訊いてきた。
シンファルの疑問に対して今度は私が答えた。
「私は人魚の姉なんです。そして、この子は人魚の娘で」
私の答えにシンファルは目を丸くして、
「ほお、そういうことかい!似とる思たけど、同じ人種なだけやと思てたわ。実際に繋がりがあったんやな。そら似とるはずやわ。ほな、明日わてが海案内しよか?」
思いもよらぬ提案に「お願いします!」と私と遥が同時に答えた。その後マルセルとヤニックに視線をやると、二人とも付き合いますという顔をして頷いた。
「ああ、ただ、朝はわては漁に出とるで。昼過ぎ位になるけどええか?」
「いいです!案内していただけるだけでありがたいです!」
こうして、私たちは明日、シンファルの案内で春子とエイタ君が特訓していた海へ行くことになった。




