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第91話 ビアンカ皇王陛下、コンスタン王国外務卿と会談す

 数時間後、アリア王宮。


「以上、我が君ステファン・ゲオグリス・コンスタン陛下からの親愛の証にございます。つきましては、国交の樹立に向けてどうかお取り組みを加速いただきますよう、伏してお願い申し上げます」


 アリア王宮は、史上初めて東側の人間…。

 それも、外務卿クラスを受け入れるという歴史的な面会の最中であった。


「モーリス・ド・タレーラン卿。ステファン陛下からのお心遣い、誠に感謝申し上げます。有難く頂戴いたしますわ。国交樹立の条件についても、概ねアルプミティより伺っております。ところで、最重要課題として挙げられていた、我が国の自然哲理技術の供与ですけれど…どのあたりをお考えなのかしら?」


「聡明なるビアンカ陛下に申し上げます。我が国は長らくビザンティオン王国、およびグレキア王国の圧力下にございました。このままではいずれ併合、吸収の憂き目に合わぬとも限らず…。現在、我が国では皇太子たるアレクセイ・ゲオグリス・コンスタン殿下の元、国の改革に務めておりますが、貴国の優れた科学技術を吸収し、加速度的な進化を遂げんと切に願っております。具体的には農業科学、航海術、冶金技術、そして近代工学にございます」


「善処いたしましょう。無論、限度がありますが…。その見返りとして、なにをご用意頂けるのかしら?」

「我が国は鉱物を多く産出いたします。鉄鋼、石灰、ボーキサイトの類など。また、未だ活用方法を見出してはおりませぬが、『燃える水』などもあり」

「『燃える水』…」

「黒き粘性の高い液体にございます。火を点けると立ちどころに燃え上がり、その火力は石炭をも越えるとか。アリアの科学力であれば何か使い道があるのではないかと」

「不勉強で申し訳ございませんわ。ですが、いずれ適切な使い道を見出すことでしょう。我が国と貴国が手を取り合い、世界を正しく導いていくことを切に願っておりますわ」

「まっこと同意にございます。ぜひ、ビアンカ陛下に置かれましては我が国にご行幸賜りますよう、伏してお願い申し上げます」

「ええ、いずれ、近いうちに。タレーラン卿に置かれましては、ぜひアリアの風俗をご堪能頂きたく存じますわ」

「恐縮至極にございます」



 まずは無事に終わったわね。はぁ、疲れた。正装って肩がこるのよね…早く略装に着替えたいわ。結局アレフをリュンヌで一泊するどころかデートすらできていないし、フランソワにも会えていないし。第一予算案が承認される気配もないし。あと三週間と少ししかないわ。皐月祭のうちに準備をして、来週早々には通さないと…流石に不味いわよね。

 はぁ、のんびりできるのは六月くらいかしら。

 内心に愚痴をつらつらと綴ったビアンカが私室に戻ると、先客がいた。アキテーヌ内務卿である。


「あら、どうしたの。何かあったかしら?」

「ふぉっふぉっ、ワインでも頂こうと思ってな」

「よく言うわ、余程の緊急事態でしょう?」

 ふぅ、と溜息。この人は本当に食えない人ね、と思う。

「着替える余裕はあるかしら?」

「五分で終わるぞ」

「じゃ、聞いてあげる…嫌な話ね?」

 そうじゃ、とアキテーヌ内務卿が声をひそめた。


「聖典保守党がなにやら怪しい動きをしているようじゃ」

「聖典保守党が? …怪しいのはいつもじゃない。机上の空論ばっかり述べて、反対反対ばかりなのだし」

「それなら可愛いもんじゃがの、どうもシルバからマクシミリアンを呼び寄せているようでな」

「マクシミリアン…記憶にあるわ。グルンクルス会戦で大負けした大将じゃなかったっけ」

「その通りじゃ、陛下。そのマクシミリアンと、王立学院のロッサムが暗躍しているようでの」

「どうして?」

「決まっとるじゃろ。フランソワ嬢じゃよ」

「フランソワ…まさか」

「その『まさか』じゃ。やつらフランソワ嬢への異端審問を開催するつもりじゃ」

「ふざけてるわ。予算案すらまともに議論しないのに!」

「これが政治、という魔物じゃ、やつらは予算案を人質にしておるんじゃよ。じゃがな、アリアもまだ捨てたもんじゃないぞ。コルベールから具申があってな」

「コルベールは…瓶詰工場の総監督よね」


 コルベール・ド・ヴァレンヌ。内務省の産業振興局長であり、アキテーヌの右腕とも言われる中堅職員である。

「今日は視察に行っていたようじゃ。ほれ、先客が待っておる。ヒルダ、後は頼んだぞ」

「承知いたしました。ビアンカ陛下、まずはお詫びを申し上げなければなりません」

「どういうこと、今日は一体なにが起きてるのよ」

「いえ、私の失策にございます。本日、王立学院よりギリアム・ランス・ド・プロヴァンス様とエラリー・ド・シャトーブリアン様がご来訪、フィヨルド遠征の報告と慰労を行う事、すっかり失念しておりました。深くお詫び申し上げます」

「ギリアムとエラリー…フランソワの友人だったわね…。わかったわ。場所は?」

「桃の間をご用意しております」


 密談ね、なるほど、機密情報…。

「ヒルダ、女官長たる貴女がスケジュールを漏らすなどあってはならないこと…。十分に戒めなさい」

「はい、誠に申し訳ございません」

「早速向かいます。すぐに準備を」

「承知いたしました」

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