第8話 公爵令嬢は鬼教官!? 拝謁特訓と『超えらい人』への口上。
取り急ぎ、今すぐ研究というわけにもいかなくなったわ。
「シオン、礼節は学んだ!?」
「いや?」
「でしょうね! 参ったわ、先週言われていたのに…」
「えっと、皇王様に会えるってこと?」
エラリーが首を傾げた。
「そういうことよ、いえね、ビアンカは細かいことは気にしないのだけど、随行員が誰かわからないから、少なくとも口上くらい言えるようにならないと…。シオン、今から特訓よ!」
「なんで!」
「なんでも! 退学とか嫌でしょ?」
「そりゃ困るけど、横暴じゃないか」
「わがまま言わない! 私も同席するから、お願い、最低限だけは覚えるようにして!」
「ええ…」
「今度ご馳走するから!」
私もね、引け目があるの! なにしろ前日まで忘れてたんですから。学院長先生、もしかして不安になって来られたんじゃ…。いいえ、絶対そう、ああ、公爵家として恥ずかしいわ! せめて、せめて恥をかかないようにしなくちゃ…!
「まぁ、美味いものが食えるなら」
シオンが単純で良かったわ!
「いいこと、シオン。まず、皇王様は他の貴族とは別物です。天上人です。雲の上の人です」
「…超えらい、ってことでいい?」
「……いいわ!」
良くないけど、今はアリア皇国史を語る暇がないの。
「いい、覚えておいて。まず、シオンからの発言は許されません。直接会話するのもダメです」
「どういうこと!?」
「超えらい人に直接会話するのは恐れ多い、とかまぁ色々あるの! ともかく、正式な謁見なら、随行員がいるはずよ」
ああ、随行員がアレフなら良いのだけれど! 公式行事だし、侍従長、もしかしたら典礼官が同座する可能性もあるわね。典礼官ってカスティリオーネ伯爵よね…厳しいのよ、あの人。私もビアンカと一緒に何度か雷を落とされたわ! もう子供じゃないんだし、完璧な作法をお見せしないと…。
「なんでフランソワが真っ青になってるの?」
「過去のトラウマよ! ともかく、ビアンカ皇王の隣におっさんが立ってるから、彼が何か言うまではしゃべっちゃダメ! あと、ビアンカ皇王を直接見ちゃダメ!」
「なんだよそれ、天井でも見上げてればいいのか?」
「皇王様より上を見るなんて許されないのーーー!」
「難しすぎだろ」
「とりあえず、靴、もしくは膝あたりを見て、ビアンカの! ちがう、ビアンカ皇王様の! 多分座ってるから!」
「多分って…」
「いいから、私を皇王だと思って、直立不動!」
「…こんな感じか?」
「ふらふらしない!」
「ええ…」
「重心は真下、真下よ! 右や左に偏っちゃダメ!」
「面倒だな…」
姿勢だけで三十分かかったわ。
「…休憩しない?」
「し、仕方ないわね…」
私も疲れてきたわ。リンダにお茶をお願いする。コーヒーは「ここぞ!」という時に取っておきましょう、高いし。
お手洗いとお茶を済ませて再開よ。
「いいこと、シオン。おっさんがこう言うはずよ『ビアンカ皇王様は恐れ多くも貴殿に興味を持っておられる』、そうしたらこう返して『シオンと申します。ビアンカ皇王陛下、拝謁の光栄に感謝いたします』って!」
一番簡単なやつにしたわ!
私だと、そうね。
「アリア皇国が至宝、ビアンカ皇王陛下。拝謁の光栄、身に余る誉に存じます。 シャルロイド公爵家は長女、フランソワ・アリエル・ド・シャルロイドにございます。 太陽の如き陛下の御前にて、言葉を捧げるお許しを賜りましたこと、深く感謝申し上げます」
くらいは言わないと「公爵家の令嬢は作法も覚束ないらしい」くらい言われるからね!
なのだけれど。
「えっと…シオンと申します、ビアンカへい…か? はい…感謝します」
「全然ちがーう!」
今度は二時間かかったわ。
「し、シオンと申します。ビアンカ陛下。拝謁に感謝します」
…もっと短くしたわ。これが限界よ。
「つ、次は想定問答…なのだけれど…」
「…腹減った」
「そうね!」
夕食の時間ですしね! 続きは夜!
「あふ…むにゃ…」
「フランソワ、フランソワ!」
「ふえ?」
エラリーに小突かれて目が覚めたわ!
「フランソワ君?」
「は、はい、何でしょう教授!」
「この古文をだね…」
「えっと、『天なる父よ、我らが犯せし過ちを赦したまえ。至高なる御子の御盾によりて、御国の門は開かれん』でしょうか!?」
「…その通りだ。今度は寝ないように」
バレてたわ!
何って、翌日よ! ビアンカの巡幸よ! 私としたことが講義中に寝るなんてありえないわ…。そりゃ、古文のカスパー先生、ちょーっとボソボソ話すし、私にしたら知ってる内容ばっかりだから退屈、ってのもあるのだけれど、あいにく必修科目なのよね、ロスタリア古語。
それは脇に置いておいて。
「で、シオン君の特訓はどうだったの~?」
無事に? 講義が終わった後に、エラリーに尋ねられたわ。
「…何とかするわ」
何とかなったわ、ではなく、何とかするわ、で察して頂けるかしら?
口上はどうにかなった…なった、という事にしましょう。
問題は想定問答よ、というか問題しかないわよね。シオンったら、すぐに「あー、知らねぇ…いてっ、し、知りません…」とか、「いや、俺にも…痛いって! お、お、俺…じゃなくて…わ、わた、わたくし、存じて…存じ…おり…ませぬ! です?」なんて状況で!
ちなみにシオンが痛がっているのは私が定規(教鞭の代わり)で叩いたからよ。
「シオン君、良く逃げなかったね…」
「それだけは褒めてあげたいわ」
今度、本当に美味しいものをご馳走しましょう…。何が良いかしらね。あの子、お肉ばっかり食べるし。少しは野菜も食べさせないと!
「お母さんかな?」
エラリー、流石にそれは無いわ。
公爵令嬢のスパルタ教育(一夜漬け)の成果はいかに!?
…これ、科学小説のはずなんですが。どこ行ったのかしら。
どうでもいいけど、シオン君よく耐えますね。僕なら拗ねます。
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※本作は「カクヨム」および「アルファポリス」にも掲載しております。




