第69話 公爵令嬢、反乱軍に下賜を遣わす
「フィヨルド王はやはり逃げおおせたようです。見事な勝利にございました。ガストーネ『陛下』、フィヨルドの新王への即位、心よりお祝い申し上げます」
何の成果もなく、フェンリル・ベルク要塞へと帰還したガストーネを迎えたのは、引き続き帯同していたユンバスであった。
「勝利…勝利か…」
何の実感も湧かぬ。
我はただ、グルンクルス会戦の一度に勝利したのみ。その後は、全て負けた。
王に追いつけず、王女に翻弄され、アリアに出し抜かれた。
我は一体、何のためにこの極寒の地まで…。
「ガストーネ様、申し上げたき儀が」
将校の一人が申し出た。
「なんだ?」
「極寒の強行軍に、兵らが疲れ果てております。つきましては、地下倉庫にございました、珍妙なる瓶の使用を許可頂きたく」
「略奪は禁じておるぞ」
「は、ですが…その…略奪ではなく、下賜であると…兵らが騒いでおりまして…」
「どういうことだ?」
嫌な、予感がした。
「我が行く。案内せい」
案内された地下倉庫は、凍えるように寒かった。一室は古い武具の保管庫となっている様子。そして、もう一つの倉庫には。
綺麗に整頓された、ワイン瓶が並べられていた。
「はて…ワインでございましょうか?」
ユンバスが首を傾げる。
だが。
「ふ…はは…ははは…ふははははははは!」
ガストーネが笑った。
案内した将校が身を引くほどに、悲痛なほどに、笑った。
「わ、我は…我は負けたのだな! 戦術に勝って、王器に負けたのだ! ユンバスよ、今後二度と我を『陛下』と呼ぶことを禁ずる! 国王はやはりエドワルド王よと、そう言いたいのだろう、ヨハン! 貴様との決着をつけるまで、俺はこのフィヨルドを預かろう。今後は執政と呼べ、分かったな、ユンバス!」
その壁には、三つのメッセージが残されていた。
此度の極寒の遠征、誠にご苦労様でした。
これはエドワルド国王陛下からの下賜品である、『瓶詰』ですわ。
こちらで身体を温め、英気を養い、故郷まで気を付けて帰られますよう。
国王陛下の名代として、心よりお祈り申しますわ。
フィヨルド第一王女 フロリーナ・フォン・フィヨルド
これは私が発明した、瓶詰という世紀の発明よ!
ひと瓶を2倍か3倍の水と混ぜ、塩を落とした干し肉と一緒に煮込むの。
ちょっと匂いがきついけれど、慣れれば美味しく食べられるわ。
どうしても匂いが気になる方は、お酢を追加で混ぜてね。
逆に、酸味が強くて苦手な方は、重曹を入れて頂戴。味が中和されて、美味しくなるのよ。
最近気づいたのだけれど、重曹と堅パンを一緒に煮込むと、パンがもちもちして、独特の食感になるの! ぜひ試してみてね。
アリア皇国 シャルロイド公爵家
フランソワ・アリエル・ド・シャルロイド
ガストーネよ。
グルンクルス会戦の決着は、いずれつけようぞ。
今は我らが誇る「現代の女子ら」が用意した瓶詰を堪能すると良い。
それから、ベルク郷紳に尋ねよ。ワインのいくつかは祝い代わりに貴殿へくれてやる。
忠告であるが、ビザンティオンとつるむのも程々にせよ。
ビザンティオンにはこの瓶詰も、地平線まで裸眼のごとく見通せる『フェンリル型望遠鏡』も無かろうて。
フィヨルド王国辺境伯 ヨハン・フォン・フェンリルベルク
第二章 フィヨルド動乱編 完
第三章 異端尋問編へ続く
第2章までお読みいただき、本当にありがとうございました!
続けて第四章 異端尋問編は明日から本格スタートです。
(本日の夜は、第2章までのまとめを掲載します)
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