第31話 精霊論の真打・ギリアム登場 そして歴史を塗り替える「真・顕微鏡」! 果たして勝敗の行方は?
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「発言の許可に感謝いたします、学院長。それではプロヴァンス家のギリアムがお答えさせて頂きます。まず、フランソワ殿」
軽く会釈。宣戦布告ね。
「素晴らしい論理だった。特に原子の衝突については非常に明快であったよ。確かに味の精霊やら香りの精霊なんてものは聖書のどこにも書いていないし、浅学ではあるが僕の知識をどれだけ漁っても出てはこないね。素晴らしい論理構築だった。すなわち、この大気は…それが原子であるのか、精霊であるのかはともかくとして、『何か』に満たされている。これには異論はないよ。大気圧、と言うのだったかな? パスカルという科学者が証明したはずだが」
同意を求められたわ。流石ギリアムね。科学知識も相当よ。
「ご認識の通りにございますわ、ギリアム殿」
「フランソワ殿が言うなら間違いは無いだろうね。だが、フランソワ殿。君は一つ、致命的な発言をしている…我々の身体だ。君はこの身体も原子の集合体、と申したね。一方で、原子は衝突するもの、とも。
では、どうして我々の身体は微塵の原子に分離せず、この一個として存在しえるのか? 原子論では証明できまいよ。すなわち、精霊とはこの身体を「このように」維持するために存在するものと考える。すなわち、人の体には人のアニマがあり、動物の体には動物のアニマがある…それにより、それぞれの生物の形を作っており、君の言う原子の特性、無造作に分離、衝突を行うことはない…。いかがかな、フランソワ殿?」
「そのお答えなら、先日の魔法大会にて証明されておりますわ」
よ、良かったわ! 一番の矛盾に対して、死ぬ気で考えておいて!
こう考えると船旅も悪くなかったわね…じっくり整理する時間があったもの。
「原子は、ある一定の条件下で結合する性質を持っているのです…少しお待ちを…ああ、いらっしゃった、良かったわ! バナード・アイアンサイド殿!」
しまった、とギリアムが舌打ちをしたわ。流石に気付いてるわよね? 彼の魔法の特性について。
「俺か?」
「その通りにございます。観客の皆様で、先日の魔法大会をご覧いただいた方はいらっしゃいまして? バナード殿の『シュタール・パンツァーガイスト』、私も震えるほどの素晴らしい魔法でしたわ! さて、私の見受けるところ、バナード殿の超魔法は、土属性の金属の粒子を『何らかの方法で固定』して、『プレートメイル状のもの』を作り上げていると見受けましたわ。いかがかしら?」
「秘匿事項ではあるが…」
同じ学院生なのに、辺境伯みたいな勿体ぶった話し方をするわね? 早く話してよ。
「概ね、事実だ」
「ありがとうございます、バナード殿! さ、ここで証明されましたわ。『原子は衝突するもの』であり、かつ『結合するもの』であるという事ですわ」
観客からどよめきが上がったわ。ロッサム教授の顔が苦虫モードに入ったわね。
あと、もう一押し…事実としてのエビデンスを提示することができれば!
「魔法は…魔法こそ、精霊を召喚するものだ。結合は精霊の力によるものではないか?」
流石ギリアムだわ。でも、もう大丈夫!
「待たせたわ、フランソワはん!」
ニコラスを先頭に、セドリック特別研究室の皆が、来てくれたから!
「結合についてはギリアム殿のご指摘の通り、まだ議論の余地がありますわ。ですが、原子が存在する、確たる証拠をご用意いたしましたの。ぜひ、ご覧になって」
エラリーとマルタが用意したテーブルの上に、布をかけた顕微鏡が置かれたわ。折角のお披露目ですもの、観客が感心するような演出をしましょう!
「この、真・顕微鏡で!」
布を引く。
陽光にキラキラと輝く、真鍮の顕微鏡が観客の大歓声に迎えられたわ。
「面白そうじゃ。使用を許可する」
学院長の正式な裁可を得て、顕微鏡の準備。
「これより、水の原子をご覧に入れますわ」
勿体ぶって、演技がかって。ここはもう、勝利を確信しまくってる感じで、ワザとらしい感じで行ったほうがいい…エラリーのアドバイスよ。
「ご用意いたしましたのは、水と花粉にございます。これは…?」
「金木犀にございます」
「皆様、先ほど香りをお楽しみ頂きました、金木犀とのことですわ。先ほどの心地よい香りを思い出しますわね。
申し遅れましたが、こちらに控えますのは我が友、シャトーブリアン男爵家のエラリー・ド・シャトーブリアンと申しますわ。本日は助手としてご協力頂きましたの」
マルタがステージ台を準備。ニコラスとマルタの二人は発言させないことにしているわ。相性が悪いのよ、二人の言葉遣いって、グランド・ディベートの場には。言葉遣いで判定が覆るとも限らないからね。ちなみにちょっと失笑が漏れたわ。エラリーは自虐ネタにしてるけれど、貴族からは評判良くないのよね。シャトーブリアン家って。金で爵位を買った、と言われているから…事実なのだけどね?
「さて、準備ができたようですわ。失敬…。ええ、問題はありませんわ。さて、このミクロの世界では不可思議なことが起きておりますわ。なんと、花粉は何もしていないのに、水の中を踊っているのです。これはすなわち、『水の原子』が花粉に衝突し、動かしている証拠にございますわ。よろしければ、ご覧になられて?」
ギリアムが少し、考え込んだわ。彼の事だから、ブラウン運動についても詳しいはず。少し見え見えだったかしら?
「ヴィクトール殿、事前打ち合わせの通りに」
「承知しました!」
あら、ヴィクトールが元気になったわ。という事は。
想定通りね。
ヴィクトールが顕微鏡を覗き込む。そして一笑したわ。
「このブラウン運動、とやら、確かに確認したが、これこそまさに精霊の証明! 水の精霊が花粉と戯れておるのだ! つまり、これは精霊による祝祭の踊りである!」
ギリアムがまた、眉をひそめたわ。
多分こうね。「祝祭の踊り」とか、余計なことを言うんじゃない、って。
「生憎ですが、ヴィクトール殿。そうおっしゃると思って、他の液体も用意したのよ」
「フランソワ殿、こちらはワインにございます」
エラリーの言葉で、マルタとニコラスが無言でステージ台を差し替えたわ。ニコラス、口を開きたくてうずうずしているのはわかるけど、我慢して。
「さ、ご覧になられて。ワインでのブラウン運動を」
「む…む!」
「いかがですの?」
「う、動いて…動いて、おる」
「ヴィクトール殿! ワインに精霊が存在するのは当然であろう!」
ギリアムの叱責。もう、余裕がないわ。
「そ、その通り! ワインと言えば父なる神による聖なる飲み物である! 精霊が存在して、当然であろう!」
「流石はヴィクトール殿ですわ。では、エラリー殿」
「承知しました、フランソワ殿。こちらは、『オイル』ですわ」
ギリアムは沈思したわ。ヴィクトールは覗き込むのを躊躇っている様子。
その時だったわ。
「ヴィクトール! 安心せよ、油ではブラウン運動は起こらぬ!」
まさかの、ロッサム教授だったわ。もう我慢できないみたい。ちらり、と学院長がロッサム教授を見たわ。
「…ヤジの一つとして受け取ろうかの。ロッサム君?」
「も、申し訳ございませぬ、学院長」
というか、ご存じだったのね、ロッサム教授って。
油ではブラウン運動は起こらない、って。
そう、『これまでは』
「で、では…」
ヴィクトールが、意を決して覗き込んだわ。そして、硬直したの。
「どうした、ヴィクトール殿!?」
ギリアムが声を掛けたわ。ヴィクトールが、ぷるぷると震えだしたの。
「どうかしら、ヴィクトール殿。『オイル』は、動いてまして?」
「う、動いて…わ、僅かではあるが…動いて…いる!」
バカな、と悲鳴。ロッサム教授だわ。黙っててくれない?
「よろしければ、ギリアム殿も」
「…わかった」
ヴィクトールを引き離して、ギリアムも顕微鏡を覗き込んだわ。そして。
「これが…これが、秘策…これが、本当のミリ以下の世界…!」
ギリアムも震えていたわ。どちらかというと、武者震いみたい。
「フランソワ殿、これは、一体、どんな魔法を…否、君の事だ、科学の力と言うのだろう? それにしても、このレンズは一体なんだ!? こんな、こんなクリアな視界…初めて見た…それに、確かに、油でもブラウン運動は「起こっている」…!」
観客から、大きなどよめき。
ざわつきが大きくなったわ。
「従来の顕微鏡では、恐らく色が混じり、景色がボケていたはずですわ」
「その通りだ…!」
「ですから、油での微細なブラウン運動を観察することが叶わなかったのです。この顕微鏡は、最高級と言われるフェンリル・ベルク産の蛍石を用い、ギルテニアの天才研磨士、コレット殿が丹精込めて磨いたレンズを使用しておりますの。元々はセドリック教授の私物ですわ」
セドリック先生、わたしやりました!
そう思って観客席を見たわ。先生、泣いてる…?
私もなんだか、目頭が熱くなってきたわ。でも、まだディベートは終わっていないから!
「さ、ギリアム殿、それにヴィクトール殿。油でもブラウン運動が起こることはお二方が目視されたはず…。ぜひ、浅学な私めにご教示頂きとうございますわ」
ここ、決めゼリフだから! って、エラリーに何度も念押しされたところ!
「油の精霊について!」
ギリアム君がねぇ、ホントギリアムが良いキャラしてるんですよ。第一部の時もそうでしたけど。
ちなみに今回の話は「油の精霊について!」という決めゼリフを言わせたいがために全部逆算してストーリー組んでます。思った以上に長くなりましたけれど。
という事で、次回第二部の最終話! ぜひ最後まで応援お願いします!
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※第二部『グランド・ディベート編』(このお話)の冒頭はこちら
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※この作品は『カクヨム』および『アルファポリス』にも連載しています。




