第29話 ハーベストムーンの日、グランド・ディベート開催! フランソワ、果たして間に合うのか!?
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9月20日 午後
レンズB、ザハリアス親方の検査。ニコラスとマルタに最終チェックをお願いして、私とエラリーは街に下りたわ。一応シオンも連れてきたの。ちょいちょい忘れるんだけど、一応護衛役だから。野暮用が、とギルテニアを一時離れていたノイエ・エーテル号も戻ってきていたわ。出航日の打ち合わせ。検査に今日一日…早くても明日の午前ね。
「ははは…フランソワのためだ、今日はゆっくり休んで、明日に備えさせて貰うよ」
本当、持つべきものは私みたいな我儘に付き合ってくれるお兄様よね。
英気を養うなら、『スチーム&モルト』がお勧めよ、って、宣伝しといたわ。
その後はエラリーと旅程の最終チェック。エラリーが動いていてくれたおかげで、綱渡りだけれどギリギリの旅程が組めたわ。
明日の午後出航、お兄様には申し訳ないけれど、夜通し駆けてもらって、ハーベストムーンの当日早朝にエヴェイユ港へ到着。シャトーブリアン商会系列の、川船の臨時便を用意しているの。川上りだから少し時間がかかるけれど…。そうね、二時間か三時間で王都に到着するかしら。
そこから、同じくエラリーが手配した馬車で猛ダッシュすれば、22日の午前中には学院に戻れるはず。
グランド・ディベートは午後1時。あとは神様に祈るしかないわね。
「じゃ、お参りしとく?」
エラリーの勧めで、ギルテニアの大社を訪れたわ。
これから精霊論を破るためのディベートをする、っていうのに、少し変な気持ちだけれど、アリア人にはこういう格言があるの。
『困ったときの神頼み』ってね。
9月21日 午前
レンズA、レンズB、共に完成したわ。
顕微鏡に装着…試験よ。とりあえず、水と酸化鉄の粉末で。
「すごい…」
思わず絶句したわ。今までの色のぼやけも、レンズのボケも全部無くなって、目の前にクリアな視界が広がっているの!
「これなら…これなら、行けるで、フランソワはん!」
「へぇ、姫さま! 顕微鏡の歴史が変わりやす!」
ザハリアス親方と、コレットに別れを告げて、インクラインで下山。本当にインクラインがあって良かったわ。足で下りていたら、追加で一時間は消費していただろうから…。
9月21日 午後
予定通り、午後にノイエ・エーテル号が出航。
セシルお兄様の魔法で、地中海をぶち抜いて行ったわ。
船室、ヨナスさんの研究室をお借りして、ブラウン運動の最終実験。
「…いけるわ!」
確信したわ。
油でも、ブラウン運動は起こる! これが船の揺れでないことを心から祈るけれど…でも、私の目には狂いが無いはず!
そして、9月22日。
グランド・ディベート当日。
「フランソワがいない?」
グランド・ディベート会場、王立学院のコロシアム。
正午を過ぎて、開始時間まであと半時間ほど。既に会場入りしていたビアンカ皇王は、その報に触れて眉をひそめた。
「まさか、逃げたのではありますまいな」
ロッサム教授である。
「本来であらば徹底的な理論で打ち破るつもりでしたが…不戦勝も止む無しですな」
相変わらず嫌味なやつ、とはいわず、ビアンカは尋ねた。
「セドリック教授。何かご存じ?」
「ビアンカ皇王陛下、フランソワさんは秘策を用意して参りますわ」
「秘策…?」
「ふっ、秘策など。我が理論に恐れをなしただけだろう」
「まだ、三十分あるわ」
ふー、とビアンカが息を吐いた。
「待ちましょう…アレフ」
「御意に」
アレフが警護を離れた。
「最早と思いますが、一分でも遅れた場合は…」
「皆まで言わなくて結構、教授。その際は精霊論の勝利となりましょう」
「御意に」
「馬を!」
近衛兵に用意された馬に跨る。セシルの奴、どこで道草食ってやがる!
グランド・ディベートの会場入りが直前になりそうだ、という話は聞いている。聞いているが、ここまで押すとは思ってもいなかった。エヴェイユ港から川上りし、王都経由で学院に入る旨は聞いている。聞いているが…。
懐中時計を見る。あと、20分。
空馬を一頭引いて、王都へ向かう。
「あと、15分…」
来ないのか。フランソワ。間に合わなかったのか?
つつ、とアレフの額に汗が伝わる。
その時だった。
水平線に、土ぼこり。猛烈な勢いで、馬車が一両。見る見るうちに距離を縮める。
「フランソワ!」
「アレフ! まだ間に合う!?」
「あと10分と少しだ! フランソワ、馬術はできるな!?」
「…! 分かったわ、皆は後で!」
「フランソワはん、顕微鏡は!?」
「ニコラスに任せる! とにかく、私だけでも会場に入らないと!」
空馬に飛び乗る。馬車より余程速い。というか。
「アレフ、この子、ビアンカのシルヴァよね!?」
まるで雪のような白い馬体が特徴の牝馬であり、ビアンカの愛馬でもあった。
「緊急だ、行くぞ!」
「シルヴァ、お願い! 全力で駆けて!」
ヒヒン、と嘶き、シルヴァが風のごとく駆けだした。馬車を突き放す。みるみる加速する。まるで風みたい!
学院が見えてきたわ。八月の頭から、もう二カ月近く。
色んな人の顔が浮かんだわ。
一緒に旅してくれた、ニコラス、エラリー、そしてシオン。
美味しい食事を用意してくれた、ジャコさん。
蒸気機関で、未来を見せてくれたゼンさん。
無理な旅程を嫌な顔せず実行してくれた、セシルお兄様。
測量術を教えてくれた、バルタザールさん。
北の大地で、誰よりも頼りになった、バルトロメ。
遭難の危機に助けてくれた、ハンス。
私たちを信じてくれた、フェンリル・ベルク辺境伯
蛍石の加工を手伝ってくれた、ヨナスさん。
私たちを送り届けてくれた、ノイエ・エーテル号のみんな
最後の仕上げをしてくれた、ザハリアス親方。
なにより、不眠不休で最後のピースを作ってくれた、コレット。
私は、たった二カ月で、これだけの大切な人と出会えた。
そして、みんなみんな、私のために送り出してくれた…!
私は、いいえ。
私たちは、絶対に負けない!
正門を超えた。
「あと、3分だ!」
アレフが叫ぶ。
「シルヴァ!」
シルヴァが、更に速度を上げた。
「やはり、来ないな。ギリアムも拍子抜けだろう?」
「いいえ、教授。彼女はやはり、期待以上の事をしてくれそうですよ」
ギリアムが口元を緩めた。
「それは一体…?」
コロシアムから、一頭の白馬。
そして、公爵令嬢が一人、馬蹄を響かせた。
「お待たせいたしましたわ! 馬上から失礼申し上げます」
堂々と、宣言した。
「王立イスタルシア学院は自然哲理学部セドリック特別研究室所属、シャルロイド公爵家長女、フランソワ・アリエル・ド・シャルロイド、只今参上いたしました!」
「王立イスタルシア学院は自然哲理学部セドリック特別研究室所属、シャルロイド公爵家長女、フランソワ・アリエル・ド・シャルロイド、只今参上いたしました!」
このセリフ超好き。ホント好き。書いててよかったって思うくらいしびれた。(自分で)
次回、ラストバトル開幕です!
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※この作品は『カクヨム』および『アルファポリス』にも連載しています。




