第21話 白夜ってどんな感じなんですかね。一回行ってみたい。ご来光は富士山で見れます。(富士山じゃなくても見れます)
…とても寒いわ! 8月なのに!
お兄様から色々荷物を渡されたのだけど、ほとんどが防寒具だったの。ウールのセーターに毛皮の外套。手袋とフードもあったわね。いくらなんでも大袈裟な、って思ったのだけど、正解だったわ!
しかも霧が出てきたし、頼りになるのはバルトロメの記憶と方位磁針だけ。もう3時間ばかし歩いているから、そろそろ日暮れのはずよ。このまま暗くなったら遭難しかねないわ!
で、やっとの思いで辿り着いたの。
…街道っぽいところに。
「ここ、どこかしら?」
とりあえずの人工物を見て安心したけれど、そもそも100メートル先が見えないのよ。案内板もないし、民家なんて影も形も無いわね。
「右か左じゃない?」
エラリーの言う通りね。ツッコミたいところだけど、それしかないんだもの。
「棒でも倒してみる?」
「そもそもこの街道、どの方位なんや?」
ニコラスに言われて方位磁針を見てみたわ。
「あっちが南西、こっちが北東。ちなみに私たちは北西から歩いてきた感じね」
「お嬢、フェンリル・ベルクは海沿いの要塞でさぁ」
なるほど。
「なら…南西かしら?」
海は西側だったはずよ。
「じゃ、行こうよ!」
と言う事で南西へ。平地だからかエラリーも元気で良かったわ。
日暮までに到着すればいいんだけど…。
なんて、思っていた時期もありました。
思い切り反対方向だったのよね!
そこから、さらに3時間ほど歩いたかしら? 炎系の魔導士を同行させるんだったわ…この際アシュレイでいいわ。詠唱も適当でいいから、とりあえず気温を上げてほしい。
それに、気持ち悪いのよ。いつまで経っても日が暮れないの。
「白夜というやつでさぁ」
とは、バルトロメ。
「本では読んだけれど…本当に日が沈まないのね!」
地球ってのは太陽に向かって真っ直ぐに自転してるわけじゃなく、23度ほど傾いているらしいわ。見たことないけど。もしこの目で宇宙に行けるならぜひ観察したいものね。
と言うことで、夏の時期、北極圏はずっと太陽に照らされている形になるのだけど。
「頭で理解しても、身体が理解できないわ」
「あっしはさっぱりで!」
「ね、白夜はいいんだけどさ」
エラリーがほう、と白い息を吐いたわ。
「なんでさっきより寒くなるの!? 太陽があるなら気温、下がらないはずじゃん!」
「わかんないけど…」
「日が弱いからだろ」
おっとシオン君。こう言う時に発言するのは予想外よ。
「どう言うこと〜?」
「太陽が直視できる」
「言われてみれば…」
「ご来光と日の入りの僅かな時間だけのはずだぜ、直視できるのは」
「つまりこう言うことやな! ワイらはずっと日の出前の一番寒い時間にいるようなもん、ってことやな!」
「無理じゃん、詰んでるじゃん!」
「そう言われても!」
やっぱり道を間違えたのかしら? かと言って今から戻るのも…。
「いや、そろそろのはずだ」
「何が」
シオンがじっ、と道の先をみたわ。
「そんな先を見ても…霧が…霧!?」
霧が薄れてるわ!
「夜は霧が晴れることが多い。逆に夜明けは霧が増える」
「な、なるほど…」
「バルトロメ、望遠鏡」
「おうよ」
バルトロメがお兄様からお借りした望遠鏡を右目に当てたわ。当然のようにザハリアス印よ。
「お嬢、シオンの言う通りだ! 街だ、街の明かりが見えるぜ!」
「や、やったわ!」
「どうにか生き残れそうやな!」
「早く行こう、もう凍えてしんどい!」
街までは意外と近くて、ものの30分もしないうちに到着したわ。ちなみに外には誰もいないの。時刻はニコラスの時計だと21時近いし、時間的には理解できるのだけど、私の脳は混乱してるわ。まだ明るいのに人っ子一人いないのはおかしい! って。そもそもこんなに明るくて、ゆっくり休めるのかしら? とまぁ、現実逃避はこのくらいにして。
「フェンリル・ベルクではないわね?」
貧相な丸太の柵が境界線らしいわ。要塞ではないでしょ。要塞たるもの、石垣の巨大で堅牢な建物でないと。
「宿はないのー?」
「野宿は勧めないな」
シオンに冷静に言われるとなんか腹立つわね。
「ちょいと当たりますわ」
「待ってバルトロメ、余計扉が固くなっちゃう」
山賊が襲いにきた、ってね。
そしたら、三軒目の家から男の子が出てきたのよ。
「まさかと思ったけれど…。聞き覚えのある声だったから」
「ハンス!!」
私は今、ハンスを救世主に認定するわ!
「ごめんね、出せるものがなくて」
年かさのメイドが用意してくれたのは蕎麦と山羊のミルク粥だったわ。
「いいえ、もう十分! こんなに温かいものを出してくれるなんて」
挽いた蕎麦をミルクで割ったものよ。アリアにも蕎麦がきという料理があるけれど、アレはお水とお出汁で割るのよね。ミルクだと独特のコクがあって美味しいわ。ほんのりバターの香りもするし、精一杯用意してくれたのね。
「いやぁ、ホンマ生き返るわ!」
「うまい」
シオンって食べるとき語彙が貧弱になるのよね。
「それで、どうしてこんなところに?」
「蛍石を探しに来たの」
「蛍石?」
「レンズの原料になる、らしいのだけれど…」
「ハンスはん、見たことないか? 緑色とか青色の鉱石なんやけど」
「紫水晶のこと…?」
「ハンス君、それ! このあたりだと紫水晶、って言うよね。割と高値で取引されると思うのだけれど」
このあたりはエラリーの得意分野ね。
「フェンリル・ベルクの近くに、採掘場がある…はずだよ」
「そうなの? それ、すぐ手に入るかしら?」
「紫水晶はフェンリル・ベルクの数少ない特産だから…輸送は厳格に管理されてるんだ…」
「そうなの?」
うん、とハンスが頷いたわ。
「それは困ったわ…何かいい方法はないのかしら?」
「どうしても…必要なら、フェンリル・ベルク辺境伯にお願い…してみる?」
「お会いできるの?」
「北の門番、と言われる厳格な人だけれど…とても民思いの、良い人だよ…」
「それならぜひお願いしたいわ!」
「ちょいまち、フランソワ。ハンス君、もう少し辺境伯の人となりを知りたいんだけど、まず一番大事なこと。ロッサム教授タイプ? それともセドリック先生タイプ?」
エラリーが身を乗り出したわ。
「その二人は…ちょっと極端だと思う…けれど」
そうだね、と少し考える様子。
「教義よりも、民の生活を考えてくれる…そんな人」
「なら、グランド・ディベートで使いたいと言っても理解してくれそうね。あとあと、私たちみたいな余所者にはどういう対応かしら?」
「うーん…辺境伯はフィヨルド王国でも重鎮だから…そうだね…フランソワが行けば、無下にはしないと…思うけれど…」
「権力に媚びるタイプ? それとも唯我独尊タイプ?」
「少なくとも、媚びるタイプでは…無いと思うよ…」
「お年は?」
「確か…五十を過ぎたくらい」
「生まれも育ちもフェンリル・ベルクよね?」
「うん」
そこまで尋ねて、エラリーが考え込んだわ。
「どうするの?」
「利で動くタイプではないわね。お金を積んでも無駄、むしろ悪影響」
その前に、積むお金を手持ちしてないわ。
「あと、公爵家を前面に出すのもNG。恐らくだけれど、フィヨルド王家への忠誠心も厚いんじゃない?」
「そうだよ…。二大辺境伯の一人だし…」
「二大?」
「北のフェンリル・ベルク、南のガストーネ辺境伯の二人…。重装で強靭なフェンリル・ベルクと、騎兵と機動力が売りのガストーネ…軍備が対照的なんだ…。ガストーネ領の方が温暖で、穀物がよく獲れるけれど…」
「フェンリル・ベルクの主産物は蕎麦なの?」
「うん…あと、少しだけど大麦も…。小麦は南の黒土地帯から買うしかないんだけど…。高くて、食べれるのは年に一度くらい…かな…」
「見えたわ、見えたけれど…アイディアがないなぁ」
「どういうこと?」
「つまり、フェンリル・ベルクの皆が豊かになる提案でもできれば良いのだけど」
「そりゃー、わいらの不得意分野やな。農業科学は誰も知らんで」
「そうよね…」
「あとは、そうね。何かお悩み事を解決! ができれば取引できるんじゃないかな。もう少し情報があればいいのだけど」
「どうするの、エラリー」
「一番の情報源、ってどこにあると思う?」
「分からないわ」
そこでエラリーがにっ、と笑ったの。
「本人の口!」
話変わりますけれど、富士山のご来光直前って滅茶苦茶寒いんですよ。真夏なんですけど。
ペットボトルの水が凍って飲めなかったことがあります。
最近行ってないですが、今も半袖半ズボンで登る外国人はいるんだろうか…?
※富士山は登る派の人、ぜひ応援ください! 見る派の方もブクマお願いします!
※この作品は『カクヨム』および『アルファポリス』にも連載しています。




