第10話 シオン君の過去が解き明かされる…と言うほどの情報ではないです。
※第一部『魔法大会編』はこちらからお願いします!
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「あはは! それはシオンも災難だったわね! フランソワの指導は間違っていないわ、まぁ、アタシを読み切れていなかったかもしれないけれど!」
カラカラとビアンカが笑う。お茶会よ。紅茶じゃなくてコーヒーだけど。
「もう、勘弁して、というかカスティリオーネ伯爵がいないならそう言ってもらえれば!」
ヤケ気味にスコーンを齧り付いたわ。クリームもジャムもたっぷり、なのが私流よ。ビアンカは厳格なクリーム派だけど。
「すんません、ミルクもらえます?」
シオンが挙手。
「ミルク?」
「そうなの、ビアンカ。コーヒーとミルクって相性がいいのよ!」
「それなら、試してみようかしら」
アレフが手を叩くと、静々と女官が現れてミルクを持ってきたの。ビアンカにしては珍しく文句を言わない女官長よ。よく気づくのよね、いろんなこと。ちなみにコーヒーは予想通りセシルお兄様が仕入れたモノらしいわ。一杯銀リブラ…いいえ、ここでは考えることやめるべきね。
「あら、美味しい」
「でしょ?」
「よく知っているわね。セシルはご存じ?」
「いや…知らなかった。向こうではそのまま飲んでいたからさ」
「向こう?」
「コンスタン王国だよ」
「お兄様、コンスタンに行ってたの!?」
えっと…コンスタン王国って、いわゆる「東側」、ルグ教徒の国だから国交は無いはずだけれど。
「お姫様の密命でね」
セシルお兄様が意味ありげにウインク。皇王な。アレフがぼやいたわ。アレフ、少しお堅くなったかしら?
「聞くところだと、向こうではコーヒーが一般的みたいね。シオン、もしかして東方の出身?」
「いや、その…実は」
「実は?」
「生まれ、よく覚えてなくて」
「そうなの!?」
私が素っ頓狂な声をあげちゃった。ビアンカがジト目で見たわ。
「友人じゃないの?」
「も、もちろん友人ですわ、ですが出自を深掘りするのはその…ほほほ」
ただの研究材料、とは言えないわ、流石に!
「仲良いんですね、二人とも」
シオンがいい感じに話題を変えてくれたわ。彼もあまり触れて欲しくないのかも。
「ええ、仲良しよ。昔からね。よくシャルロイド公爵家には遊びに行ったわ。フランソワと二人でイタズラしたり、アレフとセシルも混ぜて探検をしたり!」
「で、ローランお兄様に叱られるのよ」
「兄上は昔から厳格だからなぁ。公爵家長男ってのは大変だね」
「お前も公爵家だろ」
「アレフ、次男なんてのは気楽なもんさ。家を継ぐわけでもないし」
「そう言えば、ローランお兄様はお変わりない? 随分とお会いしてないわ」
「元気も元気よ、今日も判例集を片手にバシバシやってると思うわ」
ローランお兄様、王立学院の卒業後は法制局に入ったのよね。極めてお兄様らしいと思ったわ。
「この前仕事をぶん投げておいたけどさ、『セシル、お前も手伝え』なんて言われてさ。僕は法令より人情派、って逃げてきた」
「…今度王都に寄ったら、何か持って行くわね」
ローランお兄様の苦労が目に浮かぶわ。
「兄弟仲良くしなさいな。またすぐ出港なんだから」
「確かに、お兄様がアリアにいるのは珍しいような…」
「放蕩息子かな? 俺も一応官僚だからさ、色々あるんだよ」
「次のご出港はいつ?」
「八月の上旬かな、あいつらにも休みくらいやらないと。俺も欲しい!」
「あいつら?」
「乗組員さ」
「元海賊の、な」
アレフが毒付いたわ。
「と、雑談も楽しいのだけれど、そろそろ本題に入りましょうか」
このまま話し続けてたら夜になっちゃうしね。
シオンが少し緊張を見せたわ。
「さっき、出自を覚えていない、と言ったわよね。今はどこにお住まいなの?」
「シラカヴェルです」
「シラカヴェル…?」
「随分と辺境だな」
「知ってるの? アレフ」
「シュタイル島の北の果て、シラカ山脈のどこかに『ヴェル』という集落があると聞いたことがある」
※作者註:シュタイル島…アリア本島の東にある島。シャルロイド公爵領が位置する。
「随分と遠いところね! 一人で暮らしているの?」
「いえ、叔父がいて…叔父の話だと、両親は事故で亡くなって…俺が幼い頃に引き取った、とか。あいにく、まるで覚えていなくて」
「そうなの…苦労したのね。それで、叔父様に育てられたのね」
「そうっす」
「王立学院にはどうして?」
「叔父の勧めで…お前の魔力なら通じるはずだと」
「確かに信じられない魔力だわ。魔法の師はいるの? 叔父様?」
「叔父も多少、魔法は使えるけど、教えてはもらってないっす。自然にできたというか」
「なるほど…」
ビアンカが少し沈思したわ。
「それで、フランソワが調べてる、と」
「そうよ、でも、全然わからなくて。今のところ仮説も立ってないけど、そうね…シオンの魔法が特殊、なのはわかったわ」
「というと?」
「魔法大会で、気圧測定を行ったのよ。基本的に魔法が発動すると『加圧』されたわ。でも、シオンの魔法だけ、『減圧』したの。まるで質量を消しているみたいに」
「消してる…」
そこでビアンカの手が止まったわ。どうしたのかしら。
「なぁ、フランソワ」
代わりに、アレフが口を開いたわ。
「つまり、普通の魔法は『何かを加えている』、一方でシオン君の魔法は『何かを消している』ということか?」
「そうね、今手元にあるデータだと」
そこでパン、とビアンカが手を叩いたわ。こういう時のビアンカって、何か隠してるのよね…。何かしら。余程のことだけれど。詮索するのも野暮よね。一応、今は皇王様なんだし。
「面白いデータだわ、フランソワ! また、データが集まったら教えて頂戴ね。でも、安心だわ。これならグランド・ディベートでロッサム教授をコテンパンにできるんじゃない?」
そういえば。
「学院長も言っていたけど、グランド・ディベートって何かしら?」
「あら? セドリック先生から聞いてない?」
聞いてないわね!
ビアンカ皇王って何を考えたんですかね。やっぱり闇属性なんですかね、シオン君。
※本作は「カクヨム」および「アルファポリス」にも掲載しております。




