エルドレッドの報告
「魔力塔に人がいただと……」
「うん、そう、小さな女の子がね。それも鎖につながれた状態でだよ」
「鎖で……?」
国へ戻ったエルドレッドは、そのままの足で雇い主であるフェリックスの元へ報告に向かった。
フェリックスはラスター王国の国王。
イェネーブル王国の魔法塔の破壊を依頼した人物であった。
そして前王弟の隠し子だとされるエルドレッドとは、従兄弟という関係でもある。
「まず魔法塔だけど、あれは壊すとこの世界が崩壊するほどの威力を持つ古代の魔道具だ。一人の魔道具師が作ったものでは無く、大勢の魔道具師、それから研究者、それに技術者……多くの者の命が使われた古代魔道具……とでもいえばいいのかな? 禍々しいともいえるほど恐ろしい魔道具だ。とてもじゃないけど人間一人でどうこうできるものじゃないね。ハッキリ言って壊す方が危険だよ」
「そうなのか……」
だからこそイェネーブル王国は強気で出るのだろう。
自分たちの国には魔法塔があると。
世界的に魔法使いが減り続ける一方で、あの塔があるということがあの国の守りも攻めも強固なものにしている。
魔力塔のお陰であの国は潤っているうえに攻守に長けている。
どんなことがあっても自分たちだけは大丈夫。
そんな考えがあるイェネーブル王国の王族は高慢的で横柄でどの国からも嫌われている。
魔力塔を壊したい。
そう思ったことがはある国はラスター王国だけではないだろう。
「そんなところに、何故子供が……?」
「これは僕の考えだけど……多分魔力塔の魔力はあの子が供給しているんだと思う……」
「はっ?」
「それも彼女一人でね……」
「……そんな……まさか……そんなことが出来るはずは……」
フェリックスが驚くのも無理がない。
あの魔力塔にある魔力球は、百人以上の魔法使いが毎日魔力を供給して何とかできるだろう器だった。
それをたった一人、あの小さな女の子が担っているのだ。
魔力球の魔力が、彼女の魔力色一色であったことがその証。
他の人間の魔力が混じっていれば色が濁る。
あの輝かしい黄金色の魔力はあの少女だけのもの。
きっと彼女が魔法の使い方を覚え魔法をちゃんと使えるようになれば、この世界など簡単に消すことが出来るだろう。
イェネーブル王国の王族はそれを知っているからこそ彼女を無垢なまま、何も知らせず教えず、物扱いしているのだ。
魔力塔には本もペンも紙もない。
そして塔の下に見張りという名の護衛がいる以外人もいない。
彼女が喋れたことが不思議なぐらいだ。
イェネーブル王国が意識的にあの少女に知識を与えないようにしているのが分かる。
人としての思考を奪っている状態だ。
まあ毎日魔力を搾り取られれば普通の人間ならば生きているのも無理だろうが。
「どうする? 彼女を始末する? そうすれば魔力塔への供給は止まる。まあ、イェネーブル王国が次の供給者を作る可能性は高いだろうけど、あれだけの魔力を集める器だ、そんなすぐに次をとはいかないだろうね」
「……」
彼女が死ねば魔力を持つ他の者が供給しなければならなくなるだろう。
それは魔力塔を管理している王族の誰かとなるが、あの王が自分の命を削ってまで魔力塔へと通う姿は考えられない。
きっと魔力を持つ誰かにやらせるだろう。
それも無理矢理にだ。
エルドレッドだけでなく当然フェリックスもその考えに行きついた。
少女を消せば一時はイェネーブル王国の国力が弱まる可能性はあるが、別の弱者を新たな犠牲者にするだけだ。
巨大な魔力が必要ならばその犠牲者は一人ではない。
そう考えればその少女を簡単に消すという判断を下すのは難しい。
こちらに奪えばあの国への牽制にもなる。
ただ彼女を奪う場合、足の枷を外せるものが必要となる。
「その、少女に付けられた鎖は外せそうなのか?」
「うーん、僕の物理攻撃では無理そうかな? イェネーブル王国の研究室を調べてあの魔力塔のことをもう少し調べれば外し方が分かる可能性はあるけど……」
「そうだな、鍵があれば一番いいのだが」
「……うーん、そうだねー……」
魔力で出来た鎖と言えば奴隷に付けられるものや、魔法使いの犯罪者に使われるものなどがある。
そのことを知っているだけに鍵は簡単に存在しないだろうと二人には分かる。
その鍵自体が魔法を使って出来ている魔道具なはずだ。
古代魔道具の鍵と考えると、少女の足に枷を嵌めた人物は命を落としている可能性が高い。
そうなると彼女の枷は一生外せないものだ。
古い資料に何かしらの答えがあればいいと願う。
何も知らない少女の命を絶つことは出来れば避けたかった。
(フリージア……)
名付けた少女のあどけない顔を思い出し、エルドレッドの胸が痛む。
彼女の処分が最善であるのならば、それを選択するしかないだろうが、フリージアを消すことは出来れば避けたかったし、自らの手で行うなど考えたくもなかった。
こんな感傷的な気持ちになるなどエルドレッドは初めてだった。
闇ギルドの所属するものとして失格かもしれないが、フリージアを可愛いと思う気持ちは不思議と嫌なものでは無かった。
「じゃあ、取り敢えずまたイェネーブル王国へ行って魔力塔のことをもっと詳しく調べてみるよ」
「……ああ、だが、エルドレッド、お前は大丈夫か?」
「ハハハ、そんなの今更でしょう。それにあの国は思ったよりも防衛はガバガバだったよ。魔法があるからかな、心構えが甘いっていうか、攻められるだなんて全く思ってないって感じだったね。兵士も騎士も緩んでるし、魔法使いの横も通ったけれど、僕に気付く者はいなかった。あの国の魔法使いは優秀だとのたまわっているけど、実戦でどこまで魔法が使えるのか疑問に感じるぐらいだったよ」
「そうなのか?」
「うん、まあ、軽く見た感じだけどね。そこも今度は詳しく調べてくるよ。戦える魔法使いがどれ程いるかとかもね」
「ああ、すまんな……頼む……エルドレッド」
「ハハハ、うん、任せてよ」
これは依頼だ。
だから謝る必要などないのにフェリックスはエルドレッドに頭を下げる。
王弟の隠し子として生まれたエルドレッドに対し、フェリックスは負い目があるのだろう。
エルドレッドの出自が残酷なものだからかもしれないが、フェリックスが気にすることではない。
隠し子とはいえ王弟の子供が闇ギルドに所属しているのだ。
その可笑しさがエルドレッドの存在の歪さを物語っていた。
「謝らなくてもいいよ、僕、結構楽しみなんだ」
「……」
金色に輝く魔力球。
あんなにも美しいものをエルドレッドは知らない。
それにあの少女、フリージア。
無垢な瞳に見つめられ、笑顔を向けられた瞬間、エルドレッドはゾクリと体が震えた。
自分だけのひな鳥を見つけたような。
エルドレッドの世界に迷い込んだ子猫を保護したような、そんな不思議な感情を持ったのだ。
それは何も持たないエルドレッドだけの宝物を見つけたような感覚だった。
こんな気持ちは初めてで面白い。
愛でていたい、フリージアへの想いはそんな言葉が合っているだろうか。
だからこそまたフリージア会いたいとエルドレッドが思ってしまったのも、当然の流れだったのかもしれない。
「それじゃあもう行くよ、色々調べたいから、次回は少し長めかな」
そんな言葉を言い残し、エルドレッドは闇夜へ消えていく。
その顔には自然と笑顔が浮かんでいたのだが、それは誰にも気づかれず、本人さえも気付いていなかった。
こんばんは夢子です。
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