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魔力塔の姫君  作者: 夢子
魔力塔

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1/5

目覚め

 『彼女』が目覚めると知らない場所にいた。


 辺りを見回せば、真っ白な壁に窓のない部屋。

 天井はとても高く、上へ行くほど細くなり煙突のように細長く尖っているように見える。


 そして灯りがあまりなく薄暗い部屋の中央には巨大な水晶のような物が置いてあり、その中には金色の液体が浮かんでいて、その液体は砂時計を逆さにしたように天井へと向かっているようだった。


(あれは何? そもそもここはどこ? 病室じゃないみたいだけど……)


 『彼女』は病気で入院中だったはずだ。

 病気が分かったのはちょうど一年前、学校に入学する春先だった。


 両親は「すぐに良くなるから」と『彼女』に言ったけれど、二人の顔を見れば自分の病気がもう治らないものだと『彼女』は理解できた。


 最初は通院だった病院通いも、半年も経てば入院となり、その数か月後には個室へ移され、そして食事も満足にできなくなり、だんだんと弱っていき、最近は意識も朦朧としていて両親が見舞いに来たことも気づかない程だった。


 だから知らない場所に移された『彼女』は、てっきり『自分は死んだ』とそう思った。

 けれど動かせるその体が『彼女』が生きていることを実感させる。


 体には満足に力が入らないけれど、それでもここ数日よりもずっと体が軽くて、手足も動かせる。

 何よりも体には感覚があり、普通に考えることもできる。

 だからベッドに横たわっている自分が分かるし、息をしている自分も分かる。

 それに目も動くし、手のひらでシーツに触れることも出来る。


 だるさだけで痛みのない久しぶりの感覚に『彼女』は興奮と困惑を覚えた。


(天国じゃない、はず……だったらここはどこ? 特別室?)


 首を動かし部屋を見回せた『彼女』は、今度はゆっくりと手を動かしてみる。

 ちょっとだけだるい以外に違和感はなく、『彼女』は勇気を出し起き上がってみた。


 体を起こせば自分の姿を見ることが出来て、着ているものが目に入った。

 以前とはちょっと違うけれど、今着ているものはどことなく病院のパジャマに似ている。

 でも生地の素材が違うし、病院のパジャマは緑色だったけれど、今着ているものはクリーム色でワンピースに近い形だ。


(息が全然苦しくない、でもなんだか変な感じ……ゆっくり献血されてるみたい)


 病気になったころ『彼女』は良く貧血を起こしていた。

 薬を飲むようになってその症状は落ち着いたけれど、今の状態を表せばまさにそんな感じに近い。


 グーパーと手を動かすと、また違和感を感じる。

 自分の手がこれまでと違う、それが分かった。


 色が白く、そして今までよりも小さく可愛い手。

 爪も手入れがされていて、サロンにでも行ったみたいに綺麗で入院中の自分の手とは全く違う。


 サラッと髪が肩から降りてきて『彼女』はなお驚く。


 黒髪だったはずの髪は色が変わり、黄色のような見事な金髪になっていた。


「えっ……えっ? なんで?」


 声を上げればその声が自分のものとは違いまた驚く。

 甲高くどう考えても子供の声だった。


 じっくり自分を見てみれば体全体が縮んでいるのが分かる。

 もう『彼女』ではない、これは別人だ。

 『彼女』はそう理解した。


(もしかして私、死んだの? えっ、てことはこれが有名な異世界転生?)


 入院中よく読んでいた小説を思い出し、そんなバカげた答えに行きつく。

 鏡があれば、と周りを見てみたがどこにも鏡はない。


 重い体をどうにか動かし、ベッドから立ち上がる。

 ゆっくりだが部屋の中を歩いてみると、自分の置かれた立場に対しまた違和感を感じた。


(体は綺麗に整えられているけど、牢屋に閉じ込められているみたい……トイレはあるけど他には何もないんだよね……ノートとか鉛筆もないし、子供の部屋にあるようなおもちゃも何もない……)


 奴隷だとしたら自分が身綺麗すぎる。

 だけど貴族だとしたらあまりにも部屋が質素すぎるし、着ているものも可笑しい。

 平民の子?

 それでも違和感がある。


 部屋の中を探ってみて分かったけれど、入り口は一つだけ。

 その上その扉には鍵がかかっていて中からは開けられないようになっている。


(この子誘拐された?)


 そう感じる一番の理由が『彼女』の足に付いている鎖だ。

 細く折れそうな足首には金の輪っかが嵌められていて、そこに鎖が付き、中央にある水晶へと繋がっている。


 時折クラッと貧血のような症状が出るのはこの鎖のせいかもしれない。

 水晶の中の液体が揺れるたび『彼女』の力が抜ける、そんな感覚が体を走るのだ。


(やっぱり奴隷なのかな? もしかしてこのままこの部屋にずっといるのかも……)


 これでは入院中と変わらない。

 いや、体が動いてもずっと酷い状態だ。

 点滴が足の鎖に変わっただけ、自由は何もない。


(聞ける人がいればいいけど……誰もいないんだよね)


 部屋の中には全く人の気配がなく、『彼女』が一人きりだと分かる。

 誰かに話を聞ければいいが、今この空間には『彼女』しかいない。


 大きな声を出せば誰かが答えてくれるだろうか?

 けれどもし自分が奴隷だったとしたら、ここで大きな声を出すことは悪手でしかない。


 ベッドに戻り、だるい体を横たわらせると『彼女』は小さく呟いた。


「ステータスオープン」


 異世界の定番的言葉を呟いてきたけれど、残念ながら何も起こらない。

 魔法がない世界なのか、それとも現実ではなくここはやはり夢の中なのか。


 小さな溜息をつき、眠くなる意識に身を任せているとウトウトと意識が遠のき始める。

 水晶の中身が動くたびエネルギーを持っていかれる、そんな気持ち悪さを感じ力が抜けていった。


 ふと、頬に空気が動く気配を感じた。

 少し目を開ければ扉が開いていないのに人が入ってきたことが分かった。


 置物状態の『彼女』がいるのに、入ってきたその人物は気づいていない。


 『彼女』の持ち主や家族だったら『彼女』の存在に気づくはずだ。

 ということは第三者なのだろうか?

 そんな疑問がわく。


 薄っすら目を開けたままそっとその人影を見つめ続ける。


 その人は中央にある水晶を見つめると厳しい顔を浮かべていた。


(声を掛けるべきだよね? 黙っててもそのうち気づかれそうだし……)


 『彼女』は自分の置かれた立場が知りたかった。

 それに入ってきたその人物に興味があったのも確かだった。


 喉が鳴り、口の中がからからに乾き緊張しているのが自分でも分かる。

 でも『彼女』は勇気をもってその人物に声を掛けた。


「……こ、こんにちは……」


 『彼女』がこの場に来て初めて会った人間に声を掛けると、その人は驚き『彼女』に振り返る。


 そして『彼女』を見て目を見張る。


 何故こんなところに人が?


 彼の瞳がそう言っているのが分かり、『彼女』も目をぱちくりとさせた。


「あの、ここはどこでしょうか?」


 首に巻いたスカーフで顔を隠す青年はとても怪しい。


 だけれど不思議なことに、『彼女』は彼に怖さを何も感じなかったのだった。


こんばんは夢子です。

新作を始めます。

宜しくお願い致します。

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