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 月が――夜空に輝く。

 今宵の月は、少し赤みを帯びた色を宿している。




「――――そろそろ、だな」




 高いビルの上。そこから、一人の男性が空を眺める。

 こういう日の夜は、闇が動くには適している。それは本能として、人成らざる者でも知っていること。




「――――臭う」




 風に乗って、血の臭いが鼻をくすぐる。何所かでまた、事が起きているらしい。

 その場を一蹴りし、遠くのビルへ跳ねる。臭いを辿って行けば、そこは人目に付きやすい電車が通る橋の下。

 複数の赤い目が、〝何か〟に群がる。


「……ッ、グチャ、ガ、……ッ――?」


 夢中で群がるそれらは、男性の気配を感じ、一斉に視線を向ける。

 それが群がっていたものを見れば――あるのは、小さな肉片と破れた衣服。人間を食べていたんだと、男性は容易に想像した。


「獣か……?」


 人のカタチを成していないそれは、犬のような、そんなカタチをしていた。

 赤い目をするそれらは、全て獣のようなカタチ。だが奥に、明らかに【人】だと思える存在を見つけた。


「これは――貴方の使い魔か?」


 静かに。けれども威圧するような声で問いただす男性に、奥の者は、高笑いを上げ始めた。


「はははっ! これがオレの使い魔? 冗談。頼まれたってイヤだね」


 まるで、自分は関係無いと言うような口ぶり。だが、この場にいてその身に危険が無いとなれば、関わりが無いはずがない。


「では、貴方はこの有様を、ただ傍観していたというのですか?」


 その問いに、奥の者は月灯りが照らす場所まで出て来る。


「半分当たり。――で、そういうお前はなんなの?」


 にやり口元を緩めるその者は、少年の姿をしていた。


「そっちの質問に答えたんだ。オレのにも答えて当然だよな?」


 笑顔で。けれど威圧的な眼差しを、少年は男性に向ける。


「――――いいでしょう。私は、簡単に言えば使い魔。ですが、そこにいる者たちとは違う」


「へぇ~。アンタも使い魔なんだ? じゃあなに。正体はこーいう獣なの?」


「答えてほしければ、私の質問に答えてからにしてもらいましょうか」


 途端、場の空気が重くなる。

 それを感じたのか、少年は一瞬、眉をひそめた。


「つまらないやつ。ま、別にいいけどね」


 目的は果たしたし、と少年は片手を上げる。すると、獣たちは一瞬にして、その場から消え去った。


「言っておくけど、邪魔したらアンタも〝アレだから〟」


 残った肉片を指差し、少年は怪しい笑みを見せた。


「それは私も同じこと。貴方が障害となるなら――容赦はしない」


 対して男性は、鋭い眼差しを少年に向ける。

 輝く男性の瞳。それを見て、少年は好奇の眼差しを向けた。


「へぇ~。左右違う色、か。青と緑。やっぱり、力もそれなりに強いってこと?」


「――――試してみるか?」


 いつでも戦えると言わんばかりの男性。でも少年にはそんな気が無いのか、今は遠慮しとく、と片手をひらひらさせる。


「ムダなことはしない主義なんでね」


 そんな言葉を残し、少年はその場から消え去った。後に残った残骸を改めて見た男性は、重いため息をはく。


「処理は……しなければならないだろうな」


 せめて死後、安らかになれるよう。

 残った亡骸を、男性は出来るだけ集め、弔うことにした。


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