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横になれば、心地よい眠気がやってくる。でも、今は寝てしまうのはダメ。せめて叶夜君が来るまでと、目蓋に力を入れた。
「何も……されてないか?」
声が聞こえ、視線を向けて見れば、窓から叶夜君が入ってきた。
何をそんなに心配しているんだろうと思えば、
「悪いが、今は黙ってオレと一緒に来てくれ」
必死な様子に、私もただ事じゃないと感じた。
頷くと、叶夜君は私を抱え素早く飛び出す。以前とは比べものにならない早さに、しっかり抱えられているってわかっても、怖さを感じてしまうほどだった。
「悪い、もう少し我慢してくれ」
気遣う言葉に、私は叶夜君の服をしっかりと掴んでいた。
連れて行かれたのは――叶夜君の家。
テレビでしか見たことがないような日本家屋で、部屋はもちろん畳。庭には余計な物がなく、砂利が敷き詰められた、まさに完璧な和風の家だった。
「ここに、座っててくれ」
そっと私を下ろすと、叶夜君は襖を開けた。何をするのかと思ったら、叶夜君は布団を敷き始めた。
「今日は、ここで休んでてくれ」
「なに、か――あっ、た?」
なんとか声を出して、質問した。
雰囲気からして、よくないことが起きたんだっていうのはなんとなくわかる。
「ミヤビと同じ種族が、人間から血を抜いたり、殺したりしているらしい。今あいつに連絡が取れないから、もしものことを考えてここに来てもらった。まだ雅がやったって証拠はない。だが――あいつは、過去に多くの人間を殺している」
途端、積み上げられた死体の上に立つ姿が頭を過った。
全身血だらけで、地面は血の海で――…。
「日向さん? 日向さん?」
「?――――あ、れ」
「悪い。体が優れない時にこんな話を」
今のは夢じゃない。
その出来事を知っていると、不安のような、なんとも言えない感覚がした。
「もう一つ。こんな時で悪いが――俺と、契約してほしい」
声はしっかりしているのに。私を見つめる瞳は、どこか悲しげに見えた。
「やり方は簡単だ。君はただ、俺の言葉に同意すればいい」
どうしてそんなこと――?
首を傾げれば、叶夜君は続ける。
「これをしておく方が、後々便利なんだ。君に何かあった場合、すぐに駆けつけることができる」
ふと、叶夜君の表情がやわらぐ。
途端、胸が締め付けられるような、不思議な感覚に包まれた。
「そうすれば、離れていてもわかる」
だから頼む、と叶夜君は再度言う。
そういうことなら、断わる理由なんてない。むしろこちらからお願いしますと、私の方からお願いした。
「なら――これから俺の言葉に、従ってくれ」
すぅっと、深呼吸をする叶夜君。
これからなにが始まるのかと、胸がドキドキと高鳴りだしていく。
「一つ目の誓いを、日向美咲に――我が真名を彼の者に晒す」
見つめながら発せられる言葉。すごく恥ずかしいのに、驚きの方が勝っていて……ただまっすぐ、私も叶夜君を見つめ続けた。
「我が真名はノヴァ。今この時より、我は彼の者に一つ目の誓いを行う。――許しを、いただけますか?」
……すぐに、返事ができなかった。
青く綺麗な瞳に魅入られたのか。しばらく、動くことができなかった。
「――許しを、頂けますか?」
もう一度、ゆっくり問われる。それにようやく、私は静かに、はい、と返事をした。
「では、誓いの刻印を」
すると叶夜君は、自分の指を口に当て、血を滲ませる。
驚く私をよそに、血で滲んだ指を私の手の甲当て、何か文字のようなものを書いていく。そして書き終えるなり、そっと、唇を落とした。
「っ! これ、は――?」
手の甲に書かれてた血文字が淡く光る。目を見開き見ていれば、静かに、光と共に文字も消えてしまった。
途端、体から徐々に力が抜けていく気がした。
「疲れさせてすまない。――ゆっくり、休んでくれ」
叶夜君がいなくなると、私は大きなため息をついた。
雅さん……大丈夫なのかなぁ?
もしかしたら、自分と同じように苦しんでるんじゃないかって。
感染の苦しさがどれほどなのかわからない。それを抑えるには、命華の血がいるって言ってたけど.……まだ、怖い。
助けたいって思うのに、血をあげる勇気が出ない。
前に、先生に聞いたことがある。血が必要なら、定期的に抜いたのを保存しておけば、感染者全員を助けることができるんじゃないかって。
でも、それはできないと言われてしまった。
いくら密閉しようと、体外に出た瞬間から劣化する。体力の回復をするには問題ないけど、呪いを解除するとなると、それでは純度が足りない。だから、私が言った方法で呪いをどうにかしようとした場合は、量をかなり必要とすると。
それだと、今の私に助けることができるのは一人だけ。
〝――――助けたい〟
頭ではわかってる。
ほんの少し。ほんの少し、勇気を出せばいいことなんだって。
〝――――助けたい〟
血をあげるなら――あげたい人は、決まってる。




