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 地面に接触する寸前。呟くと、体は真横に大きく跳ねた。転がりながら衝撃を最小限に食い止めると、美咲は静かに立ち上がる。空を仰ぎ、今自分がいることを体感する。

 体の感覚。

 風の感覚。

 夜の感覚。

 全身で、この世界そのものを感じていた。

 月灯りが、美咲の姿を照らしていく。

 まっすぐ月を見つめるその瞳は、徐々に、濃い紫色を宿していった。

 慌ただしくなる病院。だが、その異変に気付く者はいない。――いや。普通の人間には、と言った方がいいかもしれない。そこで起こっている異変は、人間には感知出来ないものなのだから。

 異変に気付いたのは、病院にいた上条。ガラスが割れる音を聞きつけ慌てて外に出れば――そこで見つけたのは、首にあざのある美咲の姿だった。


「日向、さん――?」


 いつもと違う。そう感じた上条は、ゆっくり美咲に近付いて行く。


「っ!? その、瞳……」


 色が違っているとわかった上条は、驚きを隠せなかった。

 本来、その色をする者は限られている。自分の考えが正しいのであれば、彼女は赤の命華というだけでなく――。




「――――本当に、私の」




 思わず、美咲を抱き寄せた。優しく、愛おしそうに抱きしめているというのに、上条の表情は、何処か辛そうだった。彼にとって、今目の前で起きていることは、受け入れ難いもののようだ。

 しかし、実際に彼女は存在する。自分がどう思おうと、それは疑う余地の無いで……。

 ぎゅっと、腕に力が入る。複雑に入り混じる気持ちの中、上条は腕を解き、美咲の瞳をじっと見つめた。




「■■■ーー!」




 沈黙を破る断末魔。

 声を聞き、上条は素早く美咲を背にかばう。

 入口には既に、美咲を襲ったであろう人物が、一人ぼーっと立っている。顔半分と腕が黒い人物を見て、上条はその者の正体を核心する。


「これは――彼等に処理を任せるわけにはいきませんね」


 手に、力を込める。

 叶夜や雅が来る前に事を済ませようと、上条は、瞳の色を輝かせた。


 ◇◆◇◆◇


 目の前には、桜色の空。またここに来たのかと、私は少し、悲しい気持ちだった。

 けれどそこは、以前見た悲惨な光景はどこにも無く、穏やかそのものだった。




 今度は……何があるんだろう?




 そんな考えを抱きながら、私はまっすぐ歩き始めた。しばらく進むと、幾つかの家が見え始めたけど――そこに人はいなくて、廃墟と化していた。

 更にそこから進んで行くと、少し周りより高い建物がある場所が見える。建物へ続く道が綺麗に整備されていたから、そこには誰かいるのかと思い、その場所へ向かって行った。

 着いたのは、三階ほどの高さの建物。誰かがいる様子は感じられない。それでも一応開けてみようと手を添えれば――扉は、いともあっさりと開いてくれた。

 お、お邪魔しまーす……。

 声を出したつもりだったけど、やっぱり辺りに響くことはなかった。


 「…、……!――」


 どこからか、音が聞こえる。それは上からではなく、自分が今いる場所から近いようだった。耳を澄ませ、音がどこから聞こえるのかを探せば――それは、下から聞こえているようだった。

 道はないかと探していれば、地下へと行ける階段が。明かりがなく、少し薄暗いそこは、思わず足がすくんでしまうような、嫌な雰囲気を感じた。

 きっと……見なくちゃいけないんだよね。

 前に、女の人が言っていたことを思い出す。これは現実で、私はそれを見なくちゃいけないんだって。

 意を決し、地下へと続く階段を下りていく。すると――。




「?――――っ!?」




 明かりが見えたことに、ほっとしたのも束の間。




 ……なに、これ。




 その光景に、目を疑った。

 鉄格子の中で鎖に繋がれている人。幾つもの管に繋がれ、もはや生きているとは言えないような状態の人。別な鉄格子の中を見れば、血を抜かれているのか、青ざめ痩せこけた人。そして狂ったように、もがき苦しむ人がいた。

 目の前の光景が衝撃過ぎて、私はしばらく、その場に固まっていた。

 時々、鉄格子の中から手や顔を覗かせる人がいたけど、周りの人は、私の存在に気付いていないようで。やっぱり私が見えるのは、あの時見た女の人だけらしい。


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