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 ざわざわ、ざわざわ。

 殺人事件があったにも関わらず、街を歩く人の数は変わらない。

 ざわざわ、ざわざわ。

 身近に起こった恐ろしいことなのに、むしろ現場を見ようと、人通りが多い場所さえある。


「――――見当たらない、か」


 木にもたれながら、行き交う人を観察する男性。つばの付いた帽子を深く被り、本日何度目かのため息をはいく。

 別に、男性は警察関係の人間じゃない。だが目的は警察と同じ――犯人の捜索だ。


「ニャ~」


 足下に、一匹の黒猫が擦り寄る。しばらくじゃれていたと思えば、黒猫は、男性の影に溶けてしまった。


「――――なるほど」


 情報を掴んだのか、男性はその場を立ち去る。何処に向かうのかと思えば、人通りが少ない裏路地。事件があった場所ではないが、差ほど遠くない距離で周りを見渡す。何か探しているのか。塀を軽々と越え、壁と壁の隙間を探りながら進んで行く。

 徐々に暗くなる裏路地。しばらく散策を続けていれば、街灯の無い暗がりに、光が射す場所に出た。




 〝――――どうか、幸せに〟




 立ち止まり、男性は空を見上げる。月を見るたび願う。自分の為ではなく、たった一人の為に捧げる祈り。こうして街をうろつくのも、全てはその者の為だ。


「――ご苦労様。収穫あったみたいね」


 背後から、少女が声をかける。存在に気付いていたのか、男性はそうだ、と短い返事を返すだけで、空を見続けた。


「死体の方は、全て処理を?」


「いや、さすがにそれはね。マズイものだけ処理しておいたわ。ま、他になにかあれば、あっちがなんとかするでしょ」


 余計なことはしないわ、と言う少女に、男性は納得した。

 元々、今行っていることは管轄外の仕事。本来の目的とは違い、それのついで、と言ったようなものなのだ。


「気配 は貴女の考えたとおり、〝境界の外の者〟だった。違う気配も感じたが、これはこちらに陣を構える者だろう」


「それだけわかればいいわ。――で? 契約は続行?」


 不意に、そんなことを訊ねる少女。なぜそんなことを聞くのかと、少女に視線を向けながら男性は首を傾げた。


「だって、もうホントの主は見つけてるんでしょ? 使い魔が居なくなるのはイヤだけど、それが契約だからね」


「――――いや。それは出来ない」


「なんでよ? 見つかったなら再契約しなさいよ! それがあなたの目的だったでしょ!?」


 何を熱くなっているのか、と男性は呆れにも似たため息をもらす。自分のことのように怒る現主に、お人好しだと、男性は言う。


「貴女が気にすることではないだろう? オレがこのままなら、貴女はむしろ喜ぶべきだと思うが」


「それはそうだけど……」


「それに――無理はさせたくないのでね」


 微笑む男性。とりあえず今は、彼女が見つかっただけでもいいのだと言う男性に、少女はため息意をもらす。


「まぁ、アナタの目的が果たせているならいいわよ。――私とも仲良しなんだから、傷つけたらお仕置きだからね?」


 さっと屋根の上に飛び上がるなり、早く行くわよと男性を急かし、二人は夜の街を駆けて行った。


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