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「後遺症って……」


「うん、石碑でやったそれね。一時的に、美咲ちゃんの中にある命華の血が活性化してるんだと思う。――だからさ」


 さっと真横に移動するなり、雅さんはスマホを差しだしてきて、私のも出すように言う。


「念のため、交換しよう?」


「いいですけど……後遺症って、ずっとですか?」


「長く続かないから大丈夫。今は不安定なだけで――こう、いわゆるホルモンバランスが崩れた、みたいな状態? もしなにかあったら連絡して」


 無くても大歓迎だけどね! なんて笑いながら番号を入れると、満足そうにスマホをしまった。


「雅さんは、命華のことについて詳しいんですか?」


「そこそこってとこかな。――でも」


 ふっと口元を緩めたかと思うと、妖艶な笑みを浮かべならがら顔を近付け、


「二人が知らないとっておきの情報――だね」


 耳に、吐息と共に温もりを感じた。

 思わず体はのけ反り、何をされたのか未だ把握できないほど、心臓はバクバクと高鳴っていた。


「っ、……」


 うまく、言葉が出てくれない。

 ようやく回り出した頭は、今のことを整理し始めた。耳になにかされたのは間違いない。でも、息を吹きかけられたとかそんなレベルのものじゃなかった。痛みは無かったから、噛んだりはしてないと思うけど――。

 そっと、耳に触れる。すると微かに、湿っているように思えた。


「ははっ、さすがにやり過ぎたかな?」


「!? も、もう知りません!」


 立ち上がるなり、私は食堂から急いで出て行った。


「まったく、雅さんったら……」


 食堂で(外でも困るけど)あんなことするなんて!

 二人には多少免疫ができてるものの、完全にではない。それなのにあんな……耳を、舐められるなんて。

 顔がどんどん熱くなり、茹であがりそうな勢い。恥ずかしさで叫びたくなるけど、本当に叫ぶわけにはいかない。行き場のない気持ちを抱えたまま、私は教室へと避難した。




「――――?」




 入るなり目にしたのは、意外な光景。まだお昼休みも半分残っているというのに、叶夜君が席に座っていた。――正確には、机にうな垂れた状態で、だけど。

 いつも五分前にしか戻って来ないのに……具合でも、悪いのかなぁ。


「叶夜君? どうかしたんですか?」


 頭をゆっくり動かし、目だけで私を確認する。その瞳に覇気はなく、初めて会った時のように、虚ろなものとなっていた。


「薬、切れたんですか?」


 そばに近寄り、小声で訊ねる。すると叶夜立ち上がるなり、私の腕を掴んだ。驚いたのもつかの間。有無も言わさず手を引かれ、屋上へと連れて来られてしまった。


「一体どっ!?」


 扉を閉めるなり、私は壁に追いやられていた。左右を両手で囲われ、目の前には、虚ろな瞳の叶夜君がいる。

 …………こ、わい。

 感情が読み取れない。ただまっすぐに見つめられ、何があったのかと困惑していれば、




「その匂い……どういうことだ」




 険しい表情で問われた。


「へ、変な臭いでも……しますか?」


 おそるおそる聞けば、違うと言い首を横に振られる。


「惹きつけられるような……匂いがする。多分、命華特有のものなんだろうが」


「命華特有の、ですか?」


「おそらくな。もしそうなら、これはとても危険なことだ。王華はおろか、雑華やそれにより吸血鬼となった人ではない者を呼び寄せる可能性だってある。……オレも、正直辛い。本能が求めるんだ。君という存在全てを手に入れろと……頭に直接、命令される気分だ」


 ぎぎ、と歯を噛みしめる音がする。

 耐えているのか、叶夜君の表情は、とても辛そうに見えた。


「発症……していないはずなんだが……」


 苦笑いを浮かべ、情けないな、と呆れる言葉を発する。そんな自分が許せないのか、両手を勢いよく壁にぶつけた。ヒビが入るほどの衝撃。思わず、体が強張ってしまう。

 無言に見つめ合い、ぴんと糸が張ったような緊張感が、私たちを包んでいく。


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