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「…………だから嫌だったんだ」


 そう呟く叶夜君は、なんとも疲れた表情をしていた。


「叶夜君……これって」


「今は、何も聞かないでくれ」


 諦めたような表情を浮かべながら、叶夜君は髪をかき上げる。それがまた絵になる仕草で、周りの女子たちの反応は尋常じゃなかった。


「とにかく、ここから出よう」


「そ、そうですっ!?」


 言い終わる前に、叶夜君は私を抱え走り出す。置き去りになる杏奈に何も言えないまま、私たちは食堂から逃げ出した。

 どこに行くのかと思えば、叶夜君は周りの目を盗み、一瞬にして屋上へと飛び上がる。相変わらずすごい身体能力だなって感心していると、叶夜君はそっと、私を下した。


「――ここなら話が出来る」


 途端、今更ながら恥ずかしさが込み上げてきた。

 何で学校に居るの?とか。色々聞きたいのに、うまく言葉が出てくれない。


「えっ……と」


「とりあえず――座らないか?」


「あっ……はい」


 壁を背にして座る叶夜君の隣に、私は少し間を開けて座った。


「さっきのことだが……」


 申し訳なさそうに話す叶夜君。それに私は、真剣に耳を傾けた。


「オレの目……青いだろう?」


「はい。でも、それがどうかしたんですか?」


「さっきまでは、眼鏡で色を変えていたんだ。そうしないと、強すぎるからな」


 強すぎるって……光が、とか?

 私の疑問を察したのか、叶夜君は懐から眼鏡を差し出した。


「あれ? さっき取られたんじゃあ」


「これは予備だ。だからさっきのより、作りは悪いがな」


 手に取ると、付けてみなと勧められ、私は言われたとおり眼鏡をかけた。度は入ってなくて、色も特に変化など無く。どこにでもありそうな、普通な眼鏡にしか思えなかった。


「それ、ただの眼鏡とは違うんだ」


「でも……別に、変わった感じはないですよ?」


「おそらく、君は“魔眼”じゃないんだろう。仮にそうだとしても、オレとは違う部類だから、それだと変化を感じれないんだ」


「魔眼? だから色が違う、とか?」


「そんなとこだ。俺の目は……“支配の眼”なんだ」


「支配って……相手を思うままに出来るんですか?」


「力が強いとな。――ちなみに、あいつも魔眼だ」


「雅さんも、支配の眼なんですか?」


「普通は魅了だけが多い。だが、あいつが持ってる力を俺は知らないからな。何かが付いている可能性もある」


「じゃあ、さっきの騒ぎも……」


 言いたいことがわかったのか、それに叶夜君は、少し違うなと答えた。食堂での騒ぎは、確かに雅さんが持つ力ではあるが、それが直接魔眼と関係しているわけではないらしい。あれは、吸血鬼ならほとんど誰もが持っているとか。


「つまりは、相手を惹きつけるフェロモン的なのを出すんだ。それが人間にとったら、堪らないらしい」


「でも、私は平気ですよ? あ、そこは命華だからですか?」


「悪い。そこまではオレにもわからない」


「そうなんですか。じゃあ、もしわかったら教えて下さいね。少しでも、命華について知りたいので」


「わかることなら教える。今は、他に知りたいことは無いのか?」


「えっと……。じゃあ、叶夜君たちの目的が知りたいです」


 一瞬、叶夜君は顔を歪める。けどそれは、注意して見なければ気付かない程度の、ほんの微かな変化だった。


「――目的、か」


 考え込む叶夜君に、私は無理しないようにとお願いした。

 無理やり聞き出すのは気が引けるし、うまく説明出来ない事情だってあるだろうから。


「君には知る権利がある。――目的は、呪いの解除だ」


「呪い、ですか? どうしてそんなこと」


「俺も伝え聞いただけだから、詳しくは分からない。だが実際、俺たちに呪いがあるのは事実だ。解除には命華の存在が必要だから、探してる」


「その呪いって……一体どんなものなんですか?」


 聞いてはまずかったのか、それきり、叶夜君は口を閉ざしてしまった。

 迷っているのか、時々頭をかき、ため息をもらしている。


「本当、答えられないものはいいですから」


「……いや、大丈夫だ」


 そう言って、叶夜君は深呼吸をする。


「昔話だと思って、気長に聞いてくれ」


 頷くと、叶夜君はゆっくり、話を始めてくれた。


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