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「……俺が、怖いか?」


「!? そんなっ、こと」


「声も、体も震えてる」


「そ、それは……こ、こんなに、たくさん血……見たこと、無い、から」


「……嫌なものを見せて、悪かった」


 頭ではわかってる。これが、私のためにやったことだって。




 ……それなのに。




 すぐに、受け入れることができなくて。まともに目を合わせられないほど、私は動揺を隠せないでいた。




「……こういう時、どうしたらいいんだろうな」




 小さく呟かれた言葉。とても弱々しいその声からは、さっきまで血の海に立っていた人と同じとは思えないほど、別人の声に聞こえた。




「しばらく……君には触れない」




 何か言ったと思えば、叶夜君はすっと立ち上がり、私との間に距離を取る。


「――叶夜です。日向さんが処理の現場を見てしまって」


 そして背を向けながら、誰かに今の状況を電話していた。

 まだ体が動かなくて、視線だけをなんとか向けて見ると――ちょうど話が終わった叶夜君と、目が合ってしまった。


「っ!? あ、あのう……」


「大丈夫。オレはもう、触れないから」


 途端、叶夜君の周りが、黒い光に包まれる。なにが起きたのかと見ていれば、光は、男性の体からも発せられていた。よく見れば、それは地面に広がっていた血も同様に光りを発していき――治まった時には、死体も血も、跡形もなく消えていた。

い、今の、って……。

 困惑する思考。再びパニックになりそうな気持をなんとか静め、これ以上取り乱さないよう、気持ちをしっかり保とうと努めた。


「帰りは、他のやつに頼んだから」


 しばらく待っててくれと言う叶夜君の言葉に、私は首を傾げた。

 わざわざ呼ばなくても……一緒に、帰ればいいんじゃないの?

 どうしてだろうと表情を曇らせれば、それを察したのか、叶夜君は私の方を向き、




「触れるのは……怖いだろう?」




 一歩。たった一歩、こっちに近付いただけなのに――本能的に、体は叶夜君から逃げていた。


「これで、他のやつを呼んだ理由が分かっただろう?」


 考えを見透かすような言葉。自分では大丈夫だと思っていても、実際にはまだ、恐怖が体を支配していた。


「多分、ミヤビが来るだろう。だから日向さんは、ミヤビと一緒に帰ってくれ」


「……すみません」


「謝るのは俺の方だ。怖い思いさせて悪かったな。――ミヤビ、手出しはするなよ」


 叶夜君が立ち去ると、背後に人の気配を感じた。振り向こうとした途端、背中が温かくなるのを感じた。


「ったく、オレだって簡単に手出ししないっての」


 ちょっと拗ねた様子の雅さんが、後ろから抱き付いていた。

 い、いつの間に来たんだろう。

 相変わらずの登場に、私は一瞬、恐怖を忘れていた。


「オレが送るけど、問題ないよね?」


「あ、はい……でも」


 また体が震えてしまって、なかなか治まる気配がない。

 不快な思いをさせるんじゃないかと心配していれば、


「っ!? み、雅……さん?」


 突然ひょいっと、体を抱えられてしまった。


「変な気とか遣わないの。色々あった時は考えない! ね?」


 ニコッとやわらかな笑みを向けられ、思わず、その言葉に頷いてしまった。

 そう、だよね……。

 色々考えても、仕方ないことだし。

 そう思ったら、なんだかどっと、疲れがきた気がする。

 でも、今寝てしまうのは怖い。

 また変なものが見えるんじゃないかと思うと、ぎゅっと、雅さんの服を掴んでいた。




「怖いなら、そばについてていよっか?」




 窓から部屋に入ると、雅さんはそんなことを言った。


「ってか、念のため家の周りにはいるけどね。美咲ちゃんはどーしたい?」


「……いて、ほしいです」


 子どもみたいだってわかってるけど、今は、そばについててほしい。


「なら、寝るまでこーしててあげる」


 ベッドに寝かせると、雅さんは右手を握り、私の頭を撫で始めた。

 いつもは恥ずかしいと思うこの状況も、今はとても落ち着く――。


「今度――お礼、しますね」


 ここまでしてくれてるんだから、何かしたくなった。

 でも、さすがに血とかキスって言われたら困るから、


「好きな食べ物とか、ありますか?」


 言われる前に、そう聞いていた。


「ん~甘いもの、かな?」


「だったら、今度作りますね」


「ホント? じゃあ甘めでお願いねぇ~。あ、そうそう。オレも近々、学校に行く――?」


 徐々に、眠気が強くなっていく。

 話すのも億劫になり、私は目蓋を閉じていた。


「疲れちゃったんだね。――ゆっくり休みな」


 その言葉を最後に、私の意識は、眠りへと落ちていった。


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