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「オレダケノ血! オレダケノモノ!!」


 そう叫ぶのは、血走った目をした男性。見知らぬその人に、私の体は勢いよく壁に押し付けられていて。そこまでされて、ようやく、逃げなきゃという考えが回り始めたものの――到底、男性に敵うはずもなく。


「大人シク、シロ!」


「っ!?……、、、…っ」


 暴れる私を、男性は更に強い力で首を締めあげていった。

 いきっ、が……!

 目に映るのは、怪しく笑う男性の姿だけ。次第に視界もぼやけていき、あの時のような、黒く深い闇に埋もれてしまいそうになる。


「アハハハッ! 血ダ。メイカノ、血ッ!!」


 微かに聞こえる声。それはとても、歓喜に満ちたものだった。

 本当にこの人……私が死ぬのを、喜んでるんだ。

 もう痛いとか、苦しいとかわからないほど。全ての感覚が鈍くなり、“私”という存在が曖昧になっていく――。




 こん、なっ……ところで。




 死にたくない。“死ぬわけにはいかない”と、消えかける意識が、“私”を奮い立たせる。




 終わることなんてできない。




 だって……だって私は。




『まだ――成し遂げてない!』




 強い意志を持った言葉。その声は、誰のものだったのか。

 私が思った気もするし、でも、声は私じゃないような気も――。


「赤イ……新鮮ナ血ッ!」


 ぐぐっと、一層強く締まる首。 

 かろうじて保っていた思考も薄れ、“死”という存在が大きくなった途端、




「――何してる!?」




 体は、地面へと放り出された。

 首にあった痛みが徐々に薄れ、ようやくまともに息が出来るようになった私は、肩で大きく息を吸った。


「っ!? ヤ、ヤメ、……ッ!?」


 近くで、声が聞こえる。

 呼吸を整えながら声の方を向けば――男性の首が、体から離れる瞬間を目にした。

 さっきまで、私の首を絞めていた男性の頭。ごとっ、と地面に落下すると、そのままどこかへ転がっていき、体は、崩れるように倒れていった。首からはとめどなく血が溢れだし、切り離した人物に、雨のごとく降りかかっていた。

 地面に広がり続ける、大量の血、血、血――。しばらくその光景を眺めていた私の脳は、ようやく、今の状況を認識し始めた。




 死んで、る……?




 嘘だと思いたい。嘘だって思いたいのに……。目の前の光景と鼻を衝くその臭いに、これは紛れもない現実なんだということを突き付けられてしまう。




「――ケガはないか?」




 冷静な声が、私に語りかける。

 視線を地面から徐々に上げ、呼びかけた人物に焦点を合わせてみれば、




「どこか、痛んだりしないか?」




 声の主は――叶夜君、だった。

 凛とした表情でまっすぐ私を見つめるその瞳は、とても強い印象を受けた。

 白だったYシャツが、鮮やかな赤に染まっていく。

 大量の血を浴び、目の前には死体が横たわっているにもかかわらず、叶夜君は表情一つ変えなくて――その姿はまるで、命を刈る“死神”のようだと、そんなことを考えてしまった。


「日向さん……?」


 目の前に来て、膝を付く叶夜君。

 反応を示さない私を心配してか、ゆっくりと頬に手が伸びていき、


「――っ!?」


 反射的に、体はその手から逃げていた。


「ご、ごめん、な、さい……あ、あり、がっ」


 結果はどうあれ、私を助けてくれたことに変わりはない。だからちゃんとお礼を言おうと思ったのに……声は、まともに出てくれなかった。


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