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「わからないことは、ムリしてわかろうとしない。でないと、自分が壊れちゃうからねぇ~」


「ほんっ、とに――わからない、こと、だらけで」


「よしよし。今は考えないでイイから」


 涙が引くまで、雅さんはずっと宥めてくれた。一定のリズムで頭を撫でたり、背中を擦ったり。


「――――あのう」


「ん? どーしたの?」


「も、もう大丈夫ですから……離して、もらえませんか?」


「えぇ~せっかく二人きりなんだから、もっとこのままでいようよ」


「さ、さすがにずっとは――。ここは、どこなんですか?」


「オレが住んでる世界。ちなみにこの時間、危ないやつらがうようよしてるんだよねぇ~」


「それって……影も、ですか?」


「美咲ちゃん、影見たの?」


「はい……家の、前で。そしたら、なぜかここにいて」


「――――ヤバいね」


 真剣みを帯びた声に、体が引き締まる。

 私を抱えながら立ち上がると、雅さんは急いで走り始めた。


「雅っ、さん。どうして急に――」


「気付かなかった? って言ってもムリか。――後ろ、見える?」


「――――っ!?」


 肩越しに後ろを見れば、黒いなにかが私たちを追っていた。

 定まった形のないそれは、あの影のように思えた。


「――やっぱ、見えるんだね?」


 頷くと、私は雅さんの服を握りしめた。

 影は、まだ私たちを追って来る。雅さんの足が速いおかげか、追い付かれることはなく、距離は一定に保たれたまま。

 でも、このまま抱えた状態で走り続けるなんて――。

 雅さんはなにも言わないけど、疲れないはずがない。


「ちっ、まだ来るか」


 どれだけ逃げても、影は追うことをやめてくれない。このままだったら二人とも――。


「隠れる……ことは」


 どこかに身を潜めていることはできないかと思い聞いてみると、そうするしかないか、と言い笑顔を見せる。


「じゃ、ちょっと充電させてね」


 顔が近付く。すると額に、ちゅっ、と音をたててキスをされた。


「こ、こんな時にっ!」


「ははっ、こんな時だからだよ。――しっかり掴んでな」


 いつもり、少し低めの声。

 真剣な様子が伝わった私は、しっかりと、雅さんの首に腕を回した。

 途端、雅さんは速度を上げた。

 そして軽くしゃがんだかと思うと、一気に、空へ向かって飛び跳ねた。

 目も眩むような高さ。これだけでも驚きなのに、雅さんは木のてっぺんを伝い、森を駆け始めた。

 後ろを見れば、影はもう見えない。でも、まだ安心はできなくて。雅さんを掴む腕に、力が入った。




「大丈夫。さすがに追ってはこれないはずだから」




 ぽつり呟かれた言葉に、私は間の抜けた声をもらした。


「でも、さすがに限界かも」


 そう言って、雅さんは手頃な洞窟に入り、私を抱えたまま腰を下ろした。


「はぁ~……。体力落ちたかなぁ?」


「あ、あのう」


「どーしたの?」


「私を抱えたままだと、重いんじゃあ……」


 と言うより、もうこんなにくっつく必要はないと思うんですけど。


「ダ~メ! 疲れたんだから、美咲ちゃんにはオレの体力回復を手伝ってもらわないと」


「? なら、私を抱えたままだと余計――」


「イイの! このまま抱かせてよ。オレ、ホントに疲れてんだから」


 ぎゅっと、体が更に密着する。


 左肩に雅さんの顔がきて、あの艶のある声が耳元で囁かれた。


「多分、美咲ちゃんはオレたちが探してるメイカだと思うんだよねぇ」


 それって……あの影が言ってたのと同じ。


「だからイイ匂いがするし、こんなに惹かれる」


「あの、影も……同じこと、言ってました」


 途端、雅さんは顔を見合わせた。驚きの表情で、それは確かなのか? と聞かれた。


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