◇◆◇◆◇
体が、自分のモノでなくなる感覚がする……。
フェリスに触れられた左手が、段々と、別物に感じ始めた。
『ワタシには力がある。だから、ワタシなら終わらせられる。――でも、アナタには何もない』
……ぞくっ。
じわじわと、手が同化していく。左手だけでなく、腕の感覚も鈍くなる。
確かに自分はなにもできない。
だけど……みんなを護りたい。
恨むことで、この状況が改善するの?
そんなはずはない――。
もうこれ以上、誰にも傷付いてほしくない。
この気持ちだけは……間違ってない!
「――――まもっ、る」
その声に、フェリスは動きを止める。様子をうかがい、フェリスはゆっくりと言葉を発する。
『何も出来ない、ましてやただの命華に、何があるの? 何も無いから、ワタシをたよっ』
「だったら要らない!」
『っ!?』
叫んだと同時。周りに、強風が吹き荒れた。フェリスは後ろへ飛ばされ、自分から引き離された。
「護れないなら……傷付ける力なら、そんな力はいらない!」
『……そう。いらないんだ』
風が吹きやむと、再び目の前に来たフェリス。両手でゆっくり頬に触れ、相変わらずの無表情を向ける。
『どうして……恨まないの? みんなが救われても、ワタシたちは救われない』
「どうでもいい……。自分にあるのは、みんなを護りたいという意思だ。
確かに、あなたと自分は同じじゃない。相手を滅ぼすとか、恨むとか――あなたの方が、自分勝手だ!」
その言葉に、フェリスは初めて表情を変える。微かに悲しそうな表情を浮かべ、自分をそっと抱きしめてきた。
『誰も好きになれないのは……嫌。そんなものは壊したい。力があるなら、自分の為に使えばいいのに』
「――――そんな感情、自分には無い。
今必要なのはそれじゃない。日向美咲が選んだのは、そんな自分勝手に力を使うことじゃない。――それが、自分に残された意思だ」
その言葉に、フェリスは抱きしめる腕を緩めた。そして自分の顔を見つめ、ふっと、やわらかい表情を見せた。
『――いいよ。力、使っても』
「っ! 本当――?」
『でも、長い間はダメ。ワタシは、まだ覚醒の歳を迎えてない。だから、力はたくさん使えない』
「わかった。これから――あなたは、自分の中に?」
『ワタシは、アナタの力そのもの。覚醒をし、力を受け入れれば、ワタシはアナタ。そして、アナタはワタシ。――だから、会うのはこれっきり』
途端、フェリスの体が徐々に消え始める。これで本当におしまいだとわかった自分は、思わず声をかけた。
「フェリス――ありがとう」
声が届いたのか、フェリスは消える前に、笑みを見せてくれた。
――しばらくして、左手が石から離れる。その場に倒れてしまったものの、先程までの不快な感覚とは違い、今は、心地いい感覚が体を包んでいた。
「本当に――お前は無茶をする」
額に、誰かの手が触れる。
もうフェリスはいない。今ここにいるのは――?
「だが、おかげで会うことが出来た」
声は、いつも聞いている彼の声。だとすると――今目の前に見えているこの者がそうなのだろうか?
「時間が無い。今から言うことを、必ず覚えておけ」
なにを言うのかと思えば、彼は真剣な眼差しで自分を見つめる。
「お前は強制的に覚醒した。だから、今までどおりこの世界に繋げるのは難しい」
「――なら、自分も」
日向美咲のように、消えてしまうというのか?
それはダメだ。
消えるなら、やり遂げてからでないと。
「そうならない為に、力は使い過ぎるな。残る時間は三日だ」
「なぜ――正確な日数を?」
「それが決まりだからな。世界を創り、滅びる日数。オレたちは、昔からそれに縛られているからな」
「自分とあなたは――同じ?」
「オレはただ、お前をこの世界に繋いでいる者。それだけ知っていればいい。――力のこと、忘れるなよ?」
囁くと、彼も姿を消した。
おそらく、自分の中に戻り繋いでくれているんだろう。
フェリスと彼。この二人が在るから、自分はまだ存在できる。
「残り――三日」
それまでに必ず――終わらせる。




