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「―――行きます」
その言葉を聞き、蓮華さんは入り口まで、しっかりと手を握っていてくれた。
「私は、中には行けぬ。ここで、お前の帰りを待っていよう」
「はい。それでは――行ってきます」
振り返ることなく、ゆっくり、洞窟の奥へと進む。中は思った以上に寒く、奥に行けば行くほど、水の冷たさは増してく。
しばらく歩くと、開けた場所が広がっていた。真上には穴が開いていて、そこから中央に、日の光が注がれている。そこには球体の石が置かれており、そこに光が当たっていた。
ゆっくりと、深呼吸をする。
そして徐々に、左手を石に添えた。
……ぞくっ。
体に、冷たいなにかが走る。
それは内側から感じられ、初めて体験する感覚に、自分は胸をかきむしった。
「あっ……ぅ、ぐ!?」
左手は石に引っ付いたまま。焼けるような感覚が左手を襲い、その場でもがいていた。
『――――誰?』
声が聞こえた。
どこからするのかと見回した途端――声の主は、目の前に現れた。
白銀に、紅を足したような髪色。腰よりも長く伸びた髪に、自分と同じ服装で――。
その姿を見て、まずは自分と言う存在が現れたことに安堵した。
『――――』
「――――」
無表情のまま、赤の命華と自分は視線を絡めた。どれくらいそうしていたのか。黙っていると、赤の命華は再び、自分に話しかけた。
『アナタは……誰?』
「自分は――日向、美咲。あなたと同じ」
『同じ?――違う。ワタシはフェリス』
顔を近づけ、赤の命華……もといフェリスは、話を続ける。
『アナタは、力の無い命華。ワタシは、力がある命華』
「だったらお願い。その力を自分にも!」
『どうして、助けようとするの? 命華がこうなってしまったのは、あの人たちの責任なのに』
「あの人たちって……あなたは、なにを知っているの?」
『ワタシは力そのもの。だから、色々と知ってる。――命華がこうなったのは、王華や雑華の一族が悪い』
「そんなことはわかってる……。でも、日向美咲は、種族なんて関係ない。今共にいる人を救いたいと選んだ!」
反論する自分に、フェリスは表情一つ変えない。
『命華には自由が無い。どうして……いつもワタシたちが犠牲になるの? ワタシは嫌。滅びるなら――向こうが滅びればいい』
「あがぅ!?」
体に痛みが走る。それは、フェリスの言葉と連動しているのか。表情には出さないが、感情を出す言葉の時に、体は痛みを感じた。
『アナタも、心の底では恨んでいるはず。ワタシたち命華に、こんな呪いをかけた者たちを』
「そんっ、なこと――…」
エメさんから、話には聞いている。
でも、今の自分には、恨むとかそういった感情はない。ないはずだと確信しているのに――この瞳を見ていると、自分の思考がおかしくなりそうだ。
『呪いをかけたのは、アナタが助けたいと思ってる中の一人、雅の一族。叶夜も、命華の村を滅ぼした。――だから、カレらが傷付くことは償い』
雅の一族が……原因?
それに、村を滅ぼしたって……。
『雅の一族は、最初の赤の命華を殺した。その時の力が溢れて、他の命華にも呪いがかかった。ワタシたちは昔から、あの人たちにとって、利用するだけの存在でしかない』
知らないことを、フェリスは次々と話していく。本当にこれが自分の中にある部分なのかと疑いたくなる。
「きず、つくのが……償いなんて。……そんなのっ、ぁぐっ!?」
叫んだ途端、ズキッ! と心臓を鷲掴みにされたような痛みが走る。
呼吸がしにくく、まともにフェリスの顔を見れずに俯いていた。
『あの人たちが欲しいのは……ワタシの血。その為に戦って、そのせいで、叶夜が産まれた』
「? 血の……せい」
『あの男は、呪いを欲しがった。だから蓮華さんの血と自分の血を使って、叶夜を創った。ワタシの血を……命華を手に入れる為だけに、罪も無い命が、たくさん産まれては消えた。あの人たちは自分勝手。ワタシたちを手に入れる為なら、他がどうなろうと知ったことじゃない』
日向美咲は、この事実を知っていたのだろうか?
今の自分には、その記憶を知る術はない。
もう目を合わせていないのに、声だけでも、思考力を奪っていかれる気がする。
『蓮華さんも、命華のせいで苦しんでる。ワタシたちがいるから、誰かが傷付く。――いっそのこと』
そう言って、フェリスが背後に回る。なにをするのかと思っていれば、そっと、自分の左手に手を重ねてきた。
『全部……壊せばいい』
途端、左手が同化し始める。なんとか逃げようともがいても、手は、石から離れ素ことはなく。ただ、同化していくその光景を、見ているしかできなかった。




