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「なら――雅さんだけにします」
その言葉が、簡単にオレの意志を揺らがせた。
今、美咲ちゃんはなんて言った?
オレだけにする?
そんなこと本気で――。
「自分が何を言ってるのか……わかってるの?」
「おそらく、本当に理解をしてはいないかと」
「だったらやめておきな。もしそれをしたら、君が後悔することになるかもしれない」
「雅さんは、後悔しないんですか?」
「…………」
「自分は――後悔はしないですよ」
思わず、間の抜けた声を出した。それに美咲ちゃんは、自分はそういう存在だからと言う。
「自分には、感情は付属されない。余計なものは削ぎ落とされ、最低限のモノしかない。その時々の状況で最善の判断をすること、それが、自分の存在と力を消すうえで優先的にあります。
だから――この判断は、最善の方法です。後悔をすることはありません」
再び、美咲ちゃんの片手が頬に触れる。
あれだけ固く貫こうとした心を、美咲ちゃんはいとも簡単に崩してくれる。
「顔を近付けた先を――雅さんは、望みますか?」
正直に答えろと言う自分と、言ってはダメだと言う自分。そのどちらかを決めかねていれば、美咲ちゃんは更に、距離を縮めてきた。
「雅さんが後悔をするならしません。そうでないというなら――」
目と鼻の先。
あと数センチという距離で止まり、
「雅さんには――笑ってほしいんです」
目を細めながら言う彼女に、完全に意志は砕かれた。
頬にある手を握り、それを自分の胸元へ持っていく。
「――目を閉じて」
静かに告げれば、美咲ちゃんはそれに従った。
そして呼吸を整え――距離を縮めた。
きつく抱きしめ、唇を何度も重ねる。
目を開ければ、ちょうど美咲ちゃんも目を開け、視線が絡み合った。
「――これでも、後悔しない?」
「後悔はないです。ただ――」
「どーした?」
「頭が、熱くなるというか。理解し難い感覚が――雅さんは、大丈夫なんですか?」
「オレは問題無い。その感覚も、ごく自然な反応だと思うよ」
ダメだ……。
今のでは終われない。
もっと、君に触れたい。
「もっと――君を感じたい」
美咲ちゃんの両頬に手を置けば、離れる様子はない。
今の気持ちは止められない。昨日よりも、激しくしてしまうかも。
「きっと――昨日より激しくなるよ。それでもいい?」
「それで、雅さんが安らぐなら」
「――わかった」
美咲ちゃんがなにか発する前に、その言葉ごと飲み込むキスをした。
本能に任せ、ただひたすら、キスを重ねる。次第に美咲ちゃんの呼吸が乱れ、こぼれる吐息がなんとも悩ましい――。それを聞いてしまえば、余計に感情が煽られた。
「んっ、……ぁ、ぅ」
唇をついばむたび、美咲ちゃんが声をもらす。
オレ自身も呼吸が乱れ、息の仕方がわからないほど、この行為に溺れていた。
「っ、……んっ、や」
吐息共に、言葉が聞こえる。
「みぃ、やっ……っん」
自分の名前が呼ばれている。それだけで、キスは更に激しさを増していった。
そのたびに、吐息と共に名前が呼ばれ続ける。
もう……どうでもいい。
今だけ……今だけでも、君を独占したい。
「はっ、ぁ……みっ、さき」
オレも名前を呼び、美咲ちゃんを求めた。
すると強く、胸元の服が握られた。
「んっ、ぅ……みやっ、ぅや」
頭が痺れる。
もっとしていたいが、そろそろ本当に息が危うい。
最後に数回口付を交わすと、美咲ちゃんの顔を胸元にやった。
お互い肩で息をし、今まで吸えなかった分の酸素を吸う。
「――激しくして、ごめんね」
やったことに後悔は無いが、優しくしてやれなかったことに罪悪感があった。
「毎回……こういうの、は、疲れますけど。――最初のであれば、大丈夫です」
つまりは、またキスをするのは構わないと――そう言っているのかと、胸が高鳴る。
「そんなこと言ったら、またするかもしれないよ?」
「事前に言ってもらえれば、大丈夫です」
さらっと肯定され、思わず間の抜けた声が出てしまった。
「そして最初に言ったとおり、これは雅さんにしかしません。だから、安心して下さい」
恋愛感情なんて無い。
ましてやオレを特別だと思ってない。
そうだとわかっていても……今の言葉は、とても嬉しい。
「――やみましたね」
その声に、空を見上げた。
さっきまで降っていた雨はやみ、空には星が見えている。
「――そろそろ行こっか」
美咲ちゃんを抱え、再び歩きだす。
帰り道はわかっていたけど、もう少しゆっくり、この余韻に浸っていたかった。




