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レンカさんから話を聞くたび、経験の無い感覚が体に走った。
今までなら普通に聞けてた話も、美咲ちゃんが関わってるってなるとおかしくなりそうになる。
多分オレは――恋をしてると思う。
きっと、これが初めてじゃない。生まれ変わる前の彼女のこともそうだ。そいつのことを考えると、それで頭も心もいっぱいになる。
今までなら考えられなかった。
エメを助ける為だけに生きているのに、他人に、ましてや恋をするなんてことは無駄にしか思えなかった。
――だが、今ならわかる。
早く会いたくて……この手で、触れたくてたまらない気持ち。
どんなことをしても、彼女を助けたい。そんな思いで、心は埋め尽くされていた。
「――着いたぞ」
レンカさんの導きで、美咲ちゃんの家付近に道が繋がった。
「この人数で行くのは迷惑だ。ひとまず私が――?」
途端、エメはここで抜けると言い出した。こちらに残っている影を回収するらしい。
「そうか。ならば雅だけだな。くれぐれも――」
穏やかにな、と念を押される。
頷くと、レンカさんは素早く屋根を駆けた。
続いてオレも、屋根を駆けた。いつもより軽やかな足。早く美咲ちゃんの様子を知りたくて、高まる心同様、駆ける速度も上がっていった。
◇◆◇◆◇
杏奈に連れられたのは、ある一軒家。そこは自分の家らしく、訪ねると、中からおじいさんが出て来た。
「夜分にどうも。あちらから、お子さんを連れて来ました」
理解したのか、おじいさんは自分たちを招き入れてくれた。
「美咲はゆっくり休んで。まだ違和感は続くだろうし」
頷くと、おじいさんが二階の部屋に案内してくれた。
お礼を言うと、おじいさんは微笑みながら、一階へ下りて行った。
ここが――自分の部屋。
十八年。日向美咲として生きた場所。
生活感はあるものの、やっぱり実感がわかない。
鏡に映るのは、茶色い髪に、茶色の瞳の人物。この姿が自分だということにも違和感がある。早く慣れなければと思えば、ため息がもれてきた。
とりあえず――着替えでもしよう。
クローゼットの中から、楽な服を選ぶ。あとは寝るだけなので、寝るのに適した半袖と短パンに着替えた。
――コンッ、コンッ。
ノックの後に、杏奈の声がした。ドアを開ければ、私は戻るから、と言われた。
「ここにいれば大丈夫。すぐにみんなが来てくれるよ」
「? みんなって」
「雅くんとエメさん。あとは上条って先生と、蓮華さんって人かな? 叶夜くんってのもいるけど、今は危ないと思うから注意ね。でも、雅くんあたりは覚えてないって知れたら泣くかもだけど」
「わかりました。――色々と、ありがとうございます」
「いいのよ。――それじゃあまたね」
笑顔で別れを告げる杏奈に、自分は軽く手を振って見送った。
――時刻は夜中の二時過ぎ。
部屋にある物を見ながら、これまでの自分を認識しようと起きていたが、さすがに疲れが出てきた。
自分は日記を付けていたようで、どんな日々を過ごしていたのかはわかってきたが――ここ数日。自分に初めて異変が起きた頃から、記す頻度が少ななくなっている。
肝心なとこがわからない、か。
杏奈が言っていた名前も、これには記してある。
叶夜君は、真面目で優しい人。
雅さんは、明るくてノリがいい人。だけど――時々、辛そうな雰囲気があると。
『護れなかった……オレはっ』
頭に巡るこの者が、ここに記されている雅という者なのだろうか。
「辛そう――。どうして、そんなことを思ったんだろう」
今その者を見ても、同じ感情がわくだろうか?
その者は、自分にとってどんな関係だったのだろう?
――まだ、彼等には会わない方がいいのではと考えが巡る。姿形は同じでも、中身は違う者。彼等を護るという思いが強くあるせいか、悲しませてしまうような行為はやめた方がいいように思えてきた。
手にしていた日記を、本棚にしまう。その時ふと、外に目を向けた。
「――――色が、違う」
綺麗な月が、ちょうど窓から見えた。
足が自然と窓に向き、縁に腰をかけ眺める。
さっきまでいた場所は青い月だったのに、ここから見るのは、白くてやわらかい、暖かな色をしている。
こうしているのは――好ましい。
静かなこの雰囲気は、余計な思考がなくなる。記憶にある、あの水の中にいたような感覚に近くて、心が軽くなっていく。
自分が自分として動いて、初めて感じた思いかもしれない。




