15-2 蝕まれる家族
父さんがなにか母さんに言い返している。舌足らずな妙なしゃべりかた。まるで別人のような響きだった。
なにごとだろうかと、僕はそっとリビングに近づきなかの様子をうかがった。
夜間の少し暗めの室内で、グラスを片手に父さんがソファーにもたれていた。そのかたわらに母さんが立っている。
僕はどきっとした。父さんの顔が真っ赤だった。体調が悪いのだろうか。表情は、苦しそうというよりは眠そうに見えた。
「お酒なんか飲んでどういうつもり?」
非難する母さんの言葉で僕は合点がいった。
お酒。授業で習ったことがある。大人が娯楽のために飲む飲みものだ。アルコールを体内に取り込むと「酔い」という状態となり、顔が紅潮したり普段と態度が変わったりすると教わった。お祭りの夜でしか見たことがない。
「コクーンの夢で飲めないんだ。ここで飲むしかないだろう」
「船にもしものことがあったときにどうするのっ」
母さんは声を荒らげる。
学校でお酒のことを聞いた日に、父さんたちは飲んだりするのか尋ねたことがあった。
船のフードメーカーはお酒も製造可能だけど、大きなお祝いごとの席で少し出される以外はまったく飲まないという。不測の事態に備えていつでも対処できるように、実物は避け、コクーンの夢で夜、出かけたときに飲んでいると聞いた。




