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30-8 宇宙生活の終焉

 海のものとも山のものともつかない母星に期待と不安を寄せる僕へ、マリーはなまめかしくほほえむ。


「私はクコと一緒ならどんなところでも平気だよ。クコがいれば幸せ」


 んっ、と僕はくぐもった声をあげた。マリーが上から唇を重ね、押しつけてきた。

 柔らかいような硬いような不思議な弾力。お酒くさい鼻息。パジャマ越しに胸から胸へ伝わる、彼女のものか自分のかわからない激しい鼓動。

 薄闇での密着に僕は背徳感さえいだいていた。それは、何度か見たみだらな夢を思い起こさせるから。


「セカンドキスしちゃった」長い口づけから顔を上げて、彼女はとろんとした目で妖しく笑った。「明日はいっぱいエッチしようね。私、お母さんから、男の人に喜んでもらえる方法、たくさん教わったんだ。クコもでしょ? 楽しみ」


 ああ、マリー、ごめん。僕は明日はコクーンの夢に逃げ込んで一晩明かすかも。アグレッシブな君の期待にとてもこたえられそうな気がしない。


 僕のそんな思いを読みとったように彼女はささやく。「大丈夫。だんな様に恥をかかせたりしないように頑張るから」


 ごろん、と彼女は枕に頭を乗せ、間もなく寝息をたてはじめた。僕は布団を肩までかけてやりながら、すでに尻に敷かれている気分になった。


 僕も横になる。隣の寝顔を静かに見つめ、それもいいかなと思いなおす。

 普段は主導権を握られて、いざというときに頼られる。そんな関係がちょうどいいのかもしれない。


 近くて遠い母星に思いを馳せる。

 あと半年だ。果たして地上でどんな景色を見るのだろう。星ではいったいなにが起きている、あるいはいたのか。

 大地に降り立つ僕たちは、千年以上も昔からタイムスリップしてきた、過去の人間も同然だ。想像もしない試練が待ち受けているに違いない。

 僕は、婚約者から奥さんになったこの子を、なにがあっても守り抜いてみせる。


 僕と彼女の宇宙生活の果てに待つ、その新しい世界で。

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