第30話 夢じゃないんだ
今回はほとんど会話のみでの構成です。
「……デオ……。」
「ヒ……デオ……。」
「……ヒ…デオ。」
「……ヒデオ・」
「ヒデオ!」
「あぁ。亜利沙……。俺さ、なんか変な夢見てたよ。」
「どんな夢?」
「超美少女な駄女神に間違って召喚されてさ、勇者になって異世界に行くんだ。」
「ふぅん。それで?」
「チートな勇者のはずが、あんまりパッとした力も無くてさ。それでも戦いに行くんだけど、その戦場がひどくて…」
「どんなふうにひどいの?」
「もう、死体だらけでさ。見た目だけじゃなくって匂いとかもマジイヤで……俺のイメージでは、もっとこうスパって……あれ?」
「あれ? どうしたの? ヒデオ」
「ここは?」
「ここは、アガルテの要塞城よ。あなたの部屋。」
「アガルテ……俺の部屋……あ! リナ!」
「『あ! リナ!』 じゃないわよ。」
「てことは……。」
「残念ながら、夢じゃないわね。げ・ん・じ・つ 現実よ。」
「夢じゃないんだ……。」
「夢の方が良かった? ふぅ……それよりもヒデオ?」
「な、なにかな?」
「アリサって誰?」
「ア、アリサ? 誰だろ……な。」
「あなたがさっき言ってたわよ。『あぁ。アリサ』って」
「『ああ、ぁリナ』の聞き間違いじゃないのかな?……」
「聞き間違いではありません!……。ま、いいわ。それくらい。それより気分はどう?」
「う〜ん。なんか微妙……。」
「でしょうね。だから、言ったじゃない。頑張らなくて良いって。」
「そうはいってもなぁ……。あ、で、戦況は?」
「戦況? あぁ、勝ったわよ。大勝利って言ってもいいくらいみたいよ。まあ、アルファー騎士団から5人も出した上に勇者までいれば当然よね。」
「そうか、勝ったのか。……ん? 勇者?」
「そうよ。勇者。あなたよ。」
「俺?」
「あなたも大活躍だったそうね。もう噂になっているわよ。」
「えぇ!? 俺が大活躍? 嘘でしょ。」
「なによ。自分のことなのに、それも覚えてないの?」
「そんなに活躍した覚えはないけどな。」
「う〜ん。なんか、聞くところによるとね。魔物たちに触れるやいなや、くるくる回しながら地面に叩きつけてまわってたって話よ。覚えないの?」
「あぁ。覚えがあるな……」
「それって、どんな魔法よ。」
「あれは魔法じゃないよ。合気道だよ。」
「あ〜。合気道ね。あなた合気道してたのね。」
「こう見えても一応有段者なんだけどな。」
「ふぅん。そうっか。有段者がどれくらいすごいのか私には分からないけど、とにかく異世界人たちには、すっごい魔法のような力でなぎ倒してたって事になっているわよ。」
「あぁ……。」
「なによ。素っ気ないわね。」
「いやぁ。異世界にきたら、魔法とかチートスキルとかでバンバンやれちゃうんだと思ってたんだけどさ、意外とそうでもなくて……しかたがないから、地球で培った技を使ったらすごいって言われるってのもね……。」
「まぁ、案外そんなもんよ。私だって……ま、私のことは良いわ。とにかく 疲れてるんだから少しはゆっくりしとかないとダメよ。とは言っても、これからはちょっと忙しくなるかもだけど。」
「なにそれ?」
「あなたの噂が広まってね。」
「どんな噂?」
「だ・か・ら、魔法でもない、なんかすごい力をバンバン使うめっちゃ強い勇者って噂よ。」
「なんだかなぁ。」
「まぁ、受け入れなさい。で、その噂が広まって王様の耳にまで届いたらしいのよ。それで、王様があなたに会いたいって言ってきてるらしいわ。」
「えぇ? もう? 早くない?」
「何言ってんの。あなた丸2日も寝込んでたのよ? 2日もあれば王様の耳には届くわよ。色々情報網も持ってるんだから。」
「そっか。てか、2日も寝てたのか! それって、俺が異世界にきて過ごした時間と同じじゃないか。」
「起きてた時間とね。もう……仕方がないでしょ。でも私は良かったと思っているのよ。これで、大手を振ってここを出ることができるわ。さすがにベルナドッテ公爵といえども、王様からの呼び出しを無視するわけにはいかないでしょうからね。」
「そういや。リナはここにいるのはダメだって言ってたな。」
「そうね。ここにいると、あなたは常に今回みたいな戦いに投入されるわね。それだけで済めば良いくらいよ。何させられるか分かったもんじゃないわよ。」
「そうか。じゃあ俺は、素直に王都に言った方が良いのかな。」
「そうね。その方が良いと思うわ。いずれにしても、直ぐには無理だから暫くゆっくりしてなさい。その間は、私が面倒見てあげるから。」
「え? いいのか? リナだって仕事とかあるんだろ?」
「仕事は私がいなくても、店の者に任せてれば何とか回るわ。それよりも、あなたの方が心配よ。まぁ、他にすることがあるからずっと一緒って訳にはいけないけど。」
「そっか、ごめんな。」
「そういう時は、『ありがとう』でしょ。」
「あぁ、……ありがとう。」
「よし、じゃあ、私は色々準備があるから今日はこの辺で一度帰るわね。」
「あぁ、本当にありがとう。」
「うん。じゃあ。またね。」
「あ、リナ!」
「ん?」
「あの……。」
「なあに?」
「ギュッてして。」
「ふふふ。もう。しょうが無いわね。ヒデオは甘えん坊さんだね。」
「あぁ、俺は甘えん坊さんなんだよ。」
リナが俺を包み込む。彼女の体温とほのかな香りが鼻腔を擽る。体の力が抜けていく。なんだかとっても安心できる。
「リナ。とっても気持ちが良い。」
「そう? また今度、いっぱい甘えさせてあげるわね。」
「あぁ。」
リサは俺の頬にキスをすると、軽くあいさつしてそのまま部屋を出て行った。
それにしても大活躍か。良いも悪いもなかなか思い通りには行かないもんなんだな。
異世界に来てからの出来事を少し思い返してみる。
始め何もないところに転移されたときにはどうしようかと思った。シルビアに見つけてもらったのは幸運だったな。アガルテに来たことは良かったのか悪かったのか。まぁそれでも何とかなってるかな。と良いように考える。
「王都までどうやって行くんだろ。リナも一緒に来てくれないかな……。」
ヒデオは、リナが今の自分にとってなくてはならない存在になりかけていることを感じていた。
まだ見ぬ王都の事を考えながら、再び微睡みの中に意識を沈めていくヒデオであった。
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