幕間 多忙な1日 -騎士の巻-
騎士団員といえどもその仕事内容は一律ではない。特にここクルセで創設する騎士団は、所謂騎士の数をそう揃えることが出来ないだろう。1人の騎士を隊長として、その下に数名の従騎士が付く。更にその下に兵士が付ついて1個師団を構成する。これを騎士隊という。本来、基本隊長が騎士と言うことなのだが、ここクルセではそうも行かないので、元々クルセの防衛隊であった隊長2人には、この騎士隊長を任せることにしている。勿論ソフィアも騎士隊長を務める。俺? 俺は騎士団長だから総括だ。自分の騎士隊は持つ予定はない。だって、管理とか大変そうでしょ? と言うことで、現状だと騎士隊が3個師団しかないことになる。出来れば後2つは欲しいところだ。なので、他の騎士団から移籍希望の騎士が、少なくとも2人くらいは来て欲しいと思っている。
「ヒデオ。1人で何ブツブツ言ってるの?」
「え? ちょっと説明を……」
「一体誰にしてるのよ。それ、さっきもやってなかった?」
「一応、念のために……。」
「何言ってるのか分からないけど、それよりもそろそろ時間よ。覚悟は良い?」
「準備じゃなくて、覚悟かよ。それって何の覚悟だよ。誰も来ないことに対してか?」
「そうかもしれないけど、そうじゃないかも知れないわね。」
「何? その禅問答チックな台詞は。」
「もう。御託は良いから行くわよ。」
そう言いながら、リナが席を立つ。
コンコン。
そのタイミングでドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」
返事をして入室を促す。多分、時間が来たから迎えの職員だろう。
「失礼します! 団長。騎士を志願される方々がいらっしゃいました。」
そう言って、入ってきたのは元クルセの西門防衛隊隊長のアルベルト・ロンドゲルだ。ちょっと予想外。
「え? 来た? って事は?」
「はい。移籍希望の騎士の方々がいらっしゃっているので、応接室へお通ししておきました。」
「マジか! やったな。で、アルベルトさん、方々という事は?」
「はい。5名来られております。」
「5人も!? マジで!? 凄いじゃない!」
「はい。流石は救世の勇者様が団長を務める騎士団です。素晴らしいです。後、それと、いい加減アルベルトとお呼びください団長。」
「あ、そうだったね。ごめんごめん。それにしても5人かぁ。」
アルベルトに5名の応募が来たと知らされた俺は、素直に喜んだ。たった5名と思うなかれ、何と言っても騎士だ。アルファ騎士団のように一騎当千とまでは言わずとも、兵士100名には相当するだろう実力の持ち主が、5名もいるのだ。
これで、騎士隊が少なくとも7個隊はできることになる。これは大きい。その中から、副団長を任せられる人材を選べば、ほぼ完璧じゃないか?
俺は、ウキウキした気持ちを抑えつつも、彼らが待つ応接室へと足を運んだ。
しかし、そのウキウキとした気分が一転、俺の身が怒りの感情に支配されるとは、その時は思いもしなかった。
「何でおまえらがいるんだよ!!」
「なんでって、お前の騎士団に入りに来たんじゃないか。なぁ。」
「はい!」
「なぁ、ってお前馬鹿じゃないのか? そこのお前! お前もハイとか言ってないで、ちゃんと止めろよ。」
俺が今、怒りをぶちまけている相手、それはサラとブルーノだ。
「何でだ? なぜそんなに怒られるのだ?」
「お前、それ本気で言ってんのか? 何でも何も、お前自身が騎士団長だろうが! 他の騎士団に入れるわけないだろう!」
「え? そうなのか? てっきり兼任できるとばかり思っていたぞ?」
「え? そうだったんですか?」
サラの言葉に驚いたのは、俺ではなくブルーノだ。はい。アウト! ブルーノは分かってて遊びでサラに付き合ってここまで来たね。
「ブルウノォー?」
怒りを込めながら、ブルーノの名を呼ぶ。
「は、はい?」
「お前、分かっててここまで来てるよな。なんで、そんな馬鹿なことするんだ?」
「え? だって……、サラ様の行くところブルーノありですので……。」
「巫山戯んな! 出て行け!」
ブルーノは、俺に切れられ泡を食ったようにサラを引き連れて部屋から出て行った。それでも、サラは何で俺が怒っているのか分からない表情をしていた。サラ天然すぎるぞ流石に。まぁ、折角来たんだから、屋敷にでも行って待ってて貰おう。
さて、と言うことで応接に残っているのは3名と言うことになる。とりあえず、 立って待機していたその3名に席を勧めて俺も着席する。勿論リナも同席している。なにせ、騎士団長秘書兼監査役だからな。
「今回は、我が騎士団へ転属希望を出していただき感謝します。」
そう言って、俺は3名の騎士に感謝の意を伝える。本来は、ここで本題へと入るのだが、まずはこの人達だな。
「その前に、グラハムさんとベリングさん。なんで、あなた方がここにいるんですか? 冷やかしなら、サラだけで充分なんですけど?」
そう、残った3名の内2人は、先日(と言っても、こちらでは1か月以上立っているけど……)俺と魔物討伐作戦を共にした、グラハムとベリングさんだった。
「嫌だなぁ、ヒデオ殿。いえ、もうそんな呼び方は出来ませんね。アストライア卿。決して冷やかしなどではありませんよ。」
そう答えたのはベリングさんだった。まぁ、グラハムよりはベリングさんの方が年上だし立場も能力も上だろうから彼が答えるか。
「そうですか? でも、あなたた方はアルファ騎士団の所属ですよね。ベルグランデ王国の中でも最強と謳われるアルファ騎士団から、未だ出来てもいないクルセの騎士団に移籍するんですか?」
「そのつもりだよ。」
「もちろんです!」
ベリングさんは柔やかに、グラハムは真剣な表情でそう応える。しかし、そう言われてもなぁ。俄には信じがたい。
「それで? ジェームズ団長の許可は?」
「取ってますよ。寧ろ団長にこの移籍を勧められましたから。」
そう言うのはグラハムだ。ジェームズさん何考えてるんだ?
「え? だって、グラハムは、アルファー騎士団のホープって言う触れ込みじゃなかったっけ? それで武術大会にも出たんだろ?」
「そうですが、先日ヒデオ様と同行させていただいた際、自分の力の無さに不甲斐なさを感じました。今後は是非ヒデオ様の元で鍛えていただきたいと思い。志願いたしました。私の想いはジェームズ団長にも理解いただき、了承していただいています。」
いつの間にか、俺のこと様呼びになってるよ。でもまぁ、騎士爵と自由伯だから貴族位から考えるとそんなもんか? それにしても、本当に良いのか? ジェームズさん。 いや、俺のことを考えてのことなのかな?
「まぁ、グラハムのことは一応それでも良いとして、ベリングさんはどうなんですか? ベリングさんは、アルファー騎士団の中でも特殊な役割だったんじゃないんですか? そんな方が、出て行っても大丈夫なんですか?」
「私は、ベルナドッテ公爵のお声掛かりだ。」
「ベルナドッテ公爵?」
また、久しぶりに聞く名前だな。あんまりあの人得意じゃないんだよな。え? 待てよ? てことは……
「それは、偵察任務も兼ねていると言うことでしょうか?」
俺が考えてたことをリナが訊ねる。ズバッと直球勝負だね。俺にはそれ無理だわ。リナ男前だよ。そう言や、リナってベルナドッテ公爵のことあんまり好きじゃなさそうだったもんな。
「まぁ、そう取られても仕方がないでしょうな。そんな思惑が全くないわけではないでしょうが、実のとことはあれでも公爵はヒデオ様のことを気にかけておられるんですよ。」
「え? 公爵が?!」
思わず声が出た。不敬になるかも知れないけど、それが正直な気持ちだ。まぁ、ベリングさんもあれ呼ばわりだしな。
「まぁ、そうでしょうね。あの方はわかりにくい方ですから。それと、私も是非ヒデオ様の元で働きたいと考えています。」
「それはなぜですか?」
リナが、不思議そうに聞く。まぁ、俺には何となく予想が付いているけどな。
「まぁ、私の研究というか嗜好というか、そう言った物に関しては、ヒデオ様と一緒の方が良いという判断です。」
リナが未だ不思議そうにしているので、こっそりと耳打ちする。
(なんか女神とかに興味があるみたいよ。)
(あ〜あ、なるほど。)
「分かりました。それでは、お2人には是非当騎士団に所属していたくと言うことでお願いいたします。実績もあるアルファー騎士団のお二人に来ていただけると、私たちも随分助かります。」
「もちろん。こちらこそよろしくお願いするよ。」
「本当ですか! ありがとうございます。」
まぁ、元々こちらに断る権利はないんだけどな。多少の疑問は残るものの、戦力としては申し分ない。何せ一騎当千だからな。だよね?
ベリングさんとグラハムは、諸々の準備もあるので先に退室していく。 さぁ、後は1人だ。
「お待たせ致しました。それで、貴殿は?」
リナが残りの1人に名前を尋ねる。
「俺はクレメンス・ザッハだ。」
クレメンス・ザッハ? あぁ、何処かで見たことがあると思ったけど、武術大会にクルセ代表で出ていた冒険者だ。
「どちらの所属ですか?」
「リナ、違うよ。この人は冒険者だよ。」
「え? 冒険者? あの……申し訳ありません。今日は、騎士団所属の方の移籍を確認する為の面談なので、冒険者の方はちょっと……。」
流石にリナも、ここに騎士以外の人間が来るとは思っていなかったようだな。それにしても、確認位しとけよな。っていうか、アルベルトなら分かるだろうに。後で厳重注意だな。
「俺はミスリル級の冒険者だ。騎士に準ずる扱いを受ける権利がある。それとも何か? 冒険者は騎士団には入れないとでも言うのか?」
「灰輝銀級の冒険者で騎士に準ずる扱いがされると言いましても、実際は騎士爵とは違いますので。それと、冒険者の方でも騎士団には入れます。ただ、騎士となるかどうか、それは別の話です。」
リナはあくまで事務的に説明をする。この感じ、多分怒ってるな。因みに灰輝銀級とは、冒険者ギルドの最上位ランクのことだ。
「騎士団に入るのと騎士になるのとでは違うんですよ。」
追い打ちをかけるように、俺が言う。
「何とかならないのか?」
それでも、しつこく言ってくるザッハ。彼は騎士団に入りたいのだろうけど、やり方が上手くない。どういうつもりかは知らないが、騎士対象の面談に冒険者が来ることも勿論だが、俺(貴族)を前にした態度じゃないしな。リナはあくまでも低姿勢で対応しているけど。
「おい。おまえ……」
「あなた、仮にも貴族であるアストライア卿の前で、その態度はあまりにも不敬ではないですか?」
俺の言葉を遮るようにリナが怒気を隠さずに言い放つ。あ〜あ、リナを怒らせちゃった。此奴はもう騎士団には入れないな。それにしても、仮は無いんじゃない? まぁ、自分自身其程貴族だという自覚はないけどさ。
「あ、いや、すまない……、いえ、申し訳ありません。言い過ぎました。ただ、どうしてもアストライア卿の騎士団に入りたいのです。」
意外とすんなりと素直になったな。ちょっと予想外。
「どうして、そんなにこの騎士団に入りたいんだ?」
「私は、前回の武術大会に出場しました。」
「あぁ、知ってるよ。」
「ご存じでしたか。ありがとうございます。」
嬉しそうに破顔するザッハ。こう言う顔も出来るんだね。
「まぁ、1回戦で負けてたよね。」
ちょっと嫌みを言ってみる。
「はい。私はクルセの冒険者ギルドでは敵無しの存在でした。灰輝銀級にもなり、さらなる高みを目指して武術大会に挑戦しました。本選に進むことも出来、喜んだのもつかの間。結果はご存じの通りで……。実際に対峙してみて、冒険者と騎士との格の違いを感じました。あれほども違うとは予想だにしていませんでした。」
まぁ、騎士が皆あんなに強いとは限らないけどね。彼処に出てきた人たちは、曲がりなりにも各騎士団の誇りをかけて選出した代表者達だしさ。
「私も彼らのように強くなりたい。そう強く想いました。しかし、どうしたら良いのか。そんなことを悶々と考えて日々を過ごしていたときに、アストライア卿がここクルセに騎士団を新たに創設するという話を聞きました。私は、これしかないと思いました。それで、使えるあらゆる伝を使って何とか本日ここにお伺いした次第です。」
なるほど、だからか。アルベルトは確信犯なんだな。しかし、アルベルトはそんな不正のようなことをするような人物ではないと思うのだが……。
「なるほど、あなたの思いは分かりました。」
リナがザッハの演説を聴いた後にそう言う。
「本当ですか! ならば、」
「しかし、それとこれとは別物です。この面談はあくまで騎士団移籍を確認するためのものです。あなたは、その対象外です。」
「そんな……。」
あからさまにガッカリとするザッハ。リナも容赦ないな。
「しかし、騎士団に入るだけでしたら、騎士である必要はありません。あなたが本当にやる気があるのなら、一兵卒から始めてもよいのではないですか?」
意外にもリナがザッハに助け船を出した。スパッと切るかと思ったんだけど……。しかし、いくら何でもザッハにも灰輝銀級のプライドがあるだろう。流石に、これは断るだろうな。と思っていたのだが……。
「本当ですか! 是非お願いします。騎士団に入って、自分を一から鍛え直したいんです!」
ザッハは俺の予想に反して、それでも騎士団に入りたいらしい。意外と素直で良いヤツなのかも知れないな。見た目はそうでもないけど。
「分かりました。あなたの熱意に免じて、今日の不敬は不問にします。是非騎士団員として、クルセの為にアストライア卿の為に精進してください。」
こうして、ザッハは一悶着あったもののクルセの新設騎士団に入団することが決まった。ザッハは、それはもう嬉しそうに部屋を出て行ったよ。
「意外だな。」
「なにが?」
「いや、リナならそのまま突っぱねるかとも思ったんだけど。」
「そう? なら、まだまだあなたは私のことを理解していないのね。」
思ったことをそのまま正直に言っただけなんだけど、そうリナに突っ慳貪に言われてしまった。あれ? 余計なこと言った? 自爆した?
「それはそうと、次は今の人たちも含めた騎士と騎士団員の任命式よ。さっさと着替えて、次の準備しなさい。」
俺は、リナにせっつかれるようにして、席を立つ。
「あ、それと騎士団の名称それまでに決めときなさいよ。」
「え? マジで?」
「マジで。これでも結構待った方よ。流石に任命式をするのに、騎士団の名前が未だ決まっていないのは格好が付かないでしょ?」
確かに、そりゃそうだな。まぁ、皆と考えた候補はいくつかあるし、紋章も決まったからあれで行くか。俺は、騎士団の名称に思いを馳せながら、次の準備のために部屋を出た。




