プロローグ 1
そうして勇者はついに、魔王を倒したのです。
めでたし、めでたし。
――子供向けのお話なら、それで良いのだろう。だが現実は、そう甘くない。むしろ面倒臭さなら、戦中より戦後の方がよほど上だ。
例えば、街や村の復興。例えば、荒れた街道の整備。例えば、野盗と化した元傭兵団の処理。
だがそれでも。面倒臭くても。異世界から呼ばれた子供たちが命を懸けて取り戻した平和だ。守る価値はあるはずだ。
野盗連中にだって、理由はあるのだろう。が、こっちには、奪われる理由は無い。
「悪いが――とは言わんよ、おっさん達。行くぞ、シールドライノ」
俺が乗り込んでいる獣衛機……ビーガードと呼ばれる、全高4メートル以上の、獣の特徴を持った人型機兵。
俺の契約したコイツは、犀のビーガードで、名前はシールドライノ。頼れる相棒で、何度も共に死線を乗り越えてきた。
「おいおい、そいつは魔王と心中した、英雄ヨウスケの乗機の名前だぜ? 兄ちゃんよ」
「はっ、フカシならもっとマシな名前にしとくんだったな!」
「だが高く売れそうな機体だな。野郎ども、操者狙いで行くぞ」
生憎だが、本物のシールドライノだぜ? S級下位のビーガードだ。傭兵崩れの乗る、ロクに整備されてないB級じゃ相手にもならんよ!
「ライノ。索敵を厳に。一人も逃さない」
「了解だヨウスケ。一匹も漏らさない……レーダーとモニターに光点で反映した」
渋い親父を思わせる声が返る。こいつは喋る。しかも、頼れる。
――この落ち着いた声音に、何度救われたことか。
目の前に3機、後ろに2機、目視可能な範囲は量産型の犬のビーガード。左右に1機ずつ……高所に潜んでいるのか。位置と距離から見て……猫型のビーガードか?
「火砲は肩部のエネルギーキャノンが使用可能。実弾兵器は全て弾切れだ、アンカーワイヤーも含めてな」
「右、左の順で隠れている奴を撃つぞ。その後、力場をシールド展開して前方の3機をぶっ飛ばす。後方のは逃げだしたら、エネルギーキャノンで砲撃。向かってきたら――叩き潰す」
「了解。カウントダウンでロックオン同時射撃」
ロックオンアラートなんて積んでる高級機じゃない。なんて油断はしねぇか。流石だねぇ、ライノ。
「いくぜ……3、2、1――スタート!」
その後は……正直、弱い者いじめのような展開だった。
隠れていた猫型ビーガードたちは、ライノの火砲をまともに受けて爆散。棒立ちになっていた前方3機は、ライノのシールドチャージを受け止められるわけもなく吹き飛ばされ、振り向いた先に居た後方2機は――逃げようとしてこちらに向けた背中を、リチャージしたエネルギーキャノンで撃ち抜いた。
「ライノ。生き残りは?」
「ビーガード反応は無い。人間の生体反応は……今全部消えた」
息を吸って、吐いて、残心を解いた。
……敵は倒せ。だが、殺すことに慣れてはいけない。そう教えてくれたのは、誰だったか。
「――よし。こいつらのアジトに行くぞ。攫われた村娘を助けなきゃな」
「待て、通信だ。ローレライからだな、繋ぐぞ」
《ヨウスケさん? お疲れ様です! こちらマリン、野盗のアジトから攫われてた人達を救出しました!》
通信機から、まだ幼さの残る声が響く。
「マリン? なんで出撃してるんだ。大人しく待ってろって言ったろう」
《だって、ひょっとしたら、攫われた女の人達、可哀想な事になってるかもしれないじゃないですか……そしたら、ヨウスケさんより、私の方が……》
「それは……でも」
《もう! 何度も言ってるけど、私もう子供じゃありません!》
大人でも無いだろ。その言葉を呑み込む。……実際、可哀想な事になっていたら? ……助かったのは、事実だ。
《あ、でも可哀想な事になってる人は居ませんでした! うふふ、ヨウスケさんのモテモテチャンス、潰しちゃいました!》
「なんやてー!? いいや、まだだ! 村に帰れば、野盗から村を救った英雄としてモテモテにー!」
まー、最悪や最低の事態になっていない事は、声音で予想はできてた。マリンは人の痛みがわかるいい子だからな。
《モテモテ? すいません、それ売り切れなんですよ。ちゃんと根回ししたので……》
「なんでじゃー!!」
そうして勇者はついに、魔王を倒したのです。
けれど、めでたしめでたしを作るのは、勇者のおしごとではありません。
――今を生きる者たちの、おしごとなのです。




