2.5 試験対策の夜
「今日こそメッセージくれるでしょうか」
家に帰り参考書を開いていたが集中できず、ベッドに寝そべりながら七海はスマホを睨んでいた。
先ほどの勉強会でメッセージをくれると約束してくれた。しかし、夜ご飯を食べ終わってしばらく経つが一向にくる気配はない。七海自身自覚はなかったがかなり焦れていた。
「こういう場合はやはりこちらから送るべきでしょうか」
何度かメッセージアプリを起動しメッセージを書き込もうとするが七海は最初の言葉が思いつかないでいた。落ち着かず、スマホを抱えてゴロゴロとベッドを転がる。今や恋人からの返事を待つかのような気分になっていた。
「やはりこれはこちらから送らねばいけませんかね。テストでわからないところがあると言ってましたしこちらから確認してみましょう。それよりも先ほどのメイクのお礼が先でしょうか……」
結局一言目が思いつかず、画面は動かないまま胸にスマホを抱えて思い悩む。
不意に胸に抱えていたスマホからメッセージの受信音。おどろいた七海はスマホを取り落とす。慌てて拾い上げた画面にはヒナからの画像。
七海の顔には意図せず優しい笑みが浮かぶ。
「相変わらずすごい顔です」
七海の笑顔? の画像。
それから立て続けに通知音。続いてメイク直後の画像とメッセージ。
【美少女一人締めは世間に申し訳ないからおくっとくー 今日もありがとね】
スマホの画面を見ながら七海はしばらく止まっていた。たったこれだけのメッセージだが七海の心が大きく満たされていくのを感じていた。
「あ、こういう場合はすぐに返信しなければいけませんよね」
【こちらこそありがとうございます。家族以外にメッセージを送るのは初めてなので緊張しています。そういえば、テストでわからないところがあると仰っていましたがどの問題でしょうか? それから私の画像もありがとうございました。少し恥ずかしいですが大切にいたします】
何度も見直して失礼な内容ではないと確認をした。送信をタップしようとする指が震えている。
「返信いただけるでしょうか」
七海の頭はヒナでいっぱいになる。勉強を教える相手でもあるヒナという存在が、七海の中では憧れの存在と言えるほどに大きくなっていた。ほどなく帰ってきたメッセージは
【ビジネスメールかよ!】
【さっきやってみたら解けたよー】
【もう数学マスターしたかもしれん】
【美少女はちゃんと笑えるようになれよー】
立て続けに送られてきたヒナからのメッセージに対処できなくなっていた。
「こういう場合は一つずつ返せばいいのでしょうか……ルールがわかりません。しかし、失礼のないよう返信したつもりが業務連絡みたいになってしまうものなのですねぇ。数学マスターは早いかもしれませんし私は美少女ではないですよ」
七海はブツブツと呟きながら返信メッセージを考えている。
【すみません。こういったやりとりになれていなくて言葉選びが難しいです。数学できるようになって私も嬉しいですこれからも頑張りましょう】
七海はヒナからの『美少女』という言葉は見なかったことにして返信する事にした。それから文章の途中に読点を入れ忘れたことに気づく。
【すみません。まる忘れました】
慌てて送ったあとにさらに意味がわからないことに気づいて困惑していると、
【そんな細かいこと気にすんな】
【明日もよろしくね】
メッセージのあとに「よろしく!」 と言ってる猫のイラストのスタンプが送られてくる。
【はい。明日もよろしくお願いします】
「なんとかやりとりできました。うまくできたでしょうか……」
七海の胸の高鳴りは止まらない。
「楽しいです。メッセージで語らうというのはこんなにも楽しいものなんですね。初めての気持ちです。また新しい発見です。向井さん。ありがとうございます」
メイクや私の笑顔の話、見回りの先生がなぜか困惑して向井さんが楽しそうにしていたこと。七海は先ほどの勉強会でのやりとりを思い出していた。
「暖かい気持ちになれました。さて、私も頑張らないと。向井さんがなんとしても再試験に合格できるように……」
七海はテーブルに向かい明日の課題を考え始めた。




