第91話 翼界《よくかい》
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
俺たち4人は3層の人気のないところまで歩いていた。
「ここなら誰も来ねぇだろ」
武虎が周囲を見渡しながら言う。
「……うん。ここでいい」
真弓が静かに頷く。
陽平は木刀を腰に下げながら、少し緊張したように笑った。
「空を飛ぶ訓練って……なんかワクワクするね」
「だよな! 俺もめっちゃ楽しみだわ!」
俺は拳を握りしめる。
真弓はそんな俺たちを見て、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「じゃあ……始める」
* * *
真弓は3人の前に立ち、手を後ろに組んだ。
その姿は、まるで大学の講義を始める教授のようだ。
「それじゃ、翼界ね。
翼界は識界の応用よ」
「識界の応用……?」
陽平が首を傾げる。
真弓は軽く頷いた。
「識界に“空を飛ぶ”ルールをつければ、空を飛べる。
以上」
「……短っ! えっ、それだけ!?」
「そう」
「いや、姉ちゃん、ちょっと説明足りなすぎるよ。
識界だと、浮かぶことはできるんだけど、飛ぶことはできないんだよね」
「そうだな。それに、それだけだと消費が激しすぎて使いものにならない、だろ?」
武虎が腕を組む。
真弓は続ける。
「そう、識界の最適化が必要。
魔素の消費量が、もの凄く減る」
「最適化?」
「身体強化と識界。
どっちも魔素を使っているけど、波長が違う」
「あー、そういえば。
あれは苦労したな」
「あれと同じ。
波長を絞ると、消費量がものすごく下がる。
その波長を使って、魔素を後ろに向かって放出すると……スピードが出る」
「ジェット噴射みたいなもんか?」
俺が言うと、真弓は小さく頷いた。
「そう。
魔素の放出を翼の形にすると効率がいい。
識界の波長の最適化、魔素の放出……
それをセットにして型に落とし込んだものが――翼界」
「おぉ……なんか一気に難しくなったな」
俺は頭を掻く。
「じゃあ、まずは私がやってみせる」
* * *
真弓が一歩前に出る。
背には光の奔流が翼のように伸びると、彼女の身体がふわりと浮く。
「おおおおお……!」
俺は思わず声を漏らした。
次の瞬間、真弓は地面を軽く蹴り――
空へ。
風が巻き上がり、真弓の髪が揺れる。
その姿は、まるで天使か、あるいは戦場を駆ける魔女のようだった。
「……これが、翼界」
真弓は空中で静止し、ゆっくりと降りてくる。
「じゃあ……やってみて」
「急だな!!」
俺は思わず叫んだ。
「……やらないと、できない」
真弓は真顔だ。
「まぁ、そりゃそうだけどさ……!」
武虎が肩を回しながら前に出る。
「じゃ、俺からやるわ」
* * *
武虎は深呼吸し、背中に魔素を集中させる。
「……っし」
ブワッ!
武虎の背に光の奔流が伸び、身体が浮いた。
「おおっ、久々だけど忘れてないもんだな……!」
武虎はゆっくりと前へ進む。
速度は歩く程度だが、確かに“飛んで”いた。
「やるじゃん、トラ!」
俺が叫ぶと、武虎は得意げに鼻を鳴らした。
「まぁな。
でも、これ以上速くすると落ちるわ」
真弓が頷く。
「波長の最適化がまだ甘い。
でも……基礎はできてる」
「よっしゃ、次は俺だな!」
* * *
俺は深呼吸し、背中に魔素を集める。
(『波長はこちらで探します。直哉は識界に集中してください』)
(オッケー、頼んだぜ)
俺は識界を展開し、「飛べ!」と意志を込める。
すると、フワリと体が浮かんだ。
「浮いた!! 浮いたぞ!!」
真弓も小さく頷いた。
「……そこから前に進む」
俺は空中を平泳ぎするようにヘコヘコするが、一向に進まない。
武虎が笑う。
「神谷、めっちゃぎこちねぇな」
「最初はそんなもの」
* * *
陽平も挑戦する。
「えっと……こうだっけかな……?」
陽平の背に魔素が集まり――
ふわり。
「おっ……!」
陽平は俺よりスムーズに浮いた。
「陽平、やるじゃん!!」
「う、うん……でも、これ以上は無理……!」
まったく進まず、俺と同じようにその場でジタバタする陽平。
真弓は満足そうに頷く。
「……3人とも、基礎はできた。
あとは……自主練」
「自主練かぁ……」
俺は空を見上げる。
「1週間くらいで、飛べるようになると思う」
「マジで!?」
武虎は腕を組んで頷いた。
「よし、やるか」
* * *
――そして1週間後。
「ほらほらほら!!」
俺は空を歩くように進んでいた。
速度は歩く程度だが、安定している。
「直哉、やったな!」
陽平が下から手を振る。
「陽平も飛べてるじゃん!」
「う、うん……でも、まだ遅いけどね」
陽平は俺より数日遅れで飛べるようになった。
速度は俺と同じく歩く程度。
武虎はというと――
「おっしゃぁ!!」
ドッ――!
武虎は走るぐらいの速度で空を飛んでいた。
「トラ、速ぇ!!」
「まぁな!
波長の最適化がハマったわ!」
真弓は空中で静かに浮きながら、3人を見下ろす。
「……みんな、上出来」
その声は、どこか誇らしげだった。




