第87話 縫門鬼《ほうもんき》
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私にガソリンをください!!
武虎が突出し、それに合わせて3匹の餓鬼が群がろうとする。
その中で、ぬるりと動いたひときわ異様な影に向って銃を放つ。
ひょろりと長い四肢。
骨ばった輪郭。
病的なほど白い体表。
縫門鬼だ。
縫門鬼は長い手足を使い、まるで四足獣のような姿勢で、一気に距離を詰める。
「……そっちは、通さない」
グロック17の銃口が、迷いなく縫門鬼を捉えていた。
パス、パス、パス――!
乾いた発射音が連続する。
武虎の横合いをすり抜け、白い影の進路を塞ぐように、魔素弾が弾けた。
縫門鬼の動きが、ぴたりと止まる。
次の瞬間、首がぎこちなく回り――
視線が、真弓へと切り替わった。
* * *
「ほらほらほら、遊ぼうぜぇ白モヤシ。
てめぇの相手はあたしだよ」
両手に構えた2丁のグロック17で銃撃する。
グロック17。
シンプルなデザインで、かつ高い信頼性と耐久性をもつ名器だ。
様々な映画やゲームに登場しており、真弓もそういったものに影響されて使っている。
市販のエアガンに大量の魔石を使って強化した銃だ。
魔素だけで撃つこともできるが、BB弾を使うと魔素量が減るため、通常はBB弾を使用している。
射速も実銃の半分程度まで出せており、将来的には実銃を超えるのが当面の目標だ。
真弓の銃撃に対し、縫門鬼の毛穴が、一斉に開いた。
シュッ、シュシュシュ――!!
無数の針が、空気を裂いて放たれる。
一本一本は細く小さいが、その数が異常だった。
しかも――
針は直線では飛ばない。
まるで意思を持つかのように、弧を描き、魔素弾へと吸い寄せられていく。
カン、カン、キンッ!!
空中で、弾と針がぶつかり合い、火花を散らす。
縫門鬼は止まらない。
こちらに向って走りながら、針を放ち続けている。
「チッ、迎撃しやがる……!」
真弓は舌打ちを重ね、引き金を引き続ける。
だが、手数が違う。
針、針、針。
四方八方から降り注ぐ細い死。
「クソ……数で押すタイプかよ!」
次第に、真弓は撃つよりも、避ける比率を増やさざるを得なくなった。
頬を掠める風圧。
地面に突き刺さる針。
魔素を削られる感覚。
「……うっざ。
ほんと、うざっ。
そういうネチネチした攻撃、性格出てんぞ、白モヤシ!」
その瞬間――
縫門鬼が、跳んだ。
一気に距離が詰まる。
「――翼界」
真弓の背後で、魔素が爆ぜた。
背には光の奔流が翼のように伸び、彼女の身体がふわりと浮く。
次の瞬間、地面を蹴り、空へ。
「下、ガラ空きだぞ?
どうした、追ってこねえのか?」
空中で体勢を整え、銃口を下へ向ける。
引き金を引く。
ドンッ――!!
今までとは、音が違った。
魔素を多量に込めた一撃。
圧縮された魔素弾が、縫門鬼の肩口を掠め、白い体表を抉る。
初めて、縫門鬼の動きが鈍った。
「……効いてる、効いてる」
真弓の口元が、歪む。
「ほらほら。
さっきまでの余裕、どこ行った?
針飛ばすしか能がねえ雑魚が、イキってんじゃねえよ」
空中から、連射。
針が迎撃に回るが、弾の威力が、明らかに勝り始める。
針が砕け、弾が通る。
白い体に、いくつも焦げ跡が刻まれていく。
「いいね……。
その顔。
やっと、狩られてる自覚出てきたな」
だが――
縫門鬼は、動きを止め、両手を広げた。
掌が、異様に膨らむ。
「……?」
次の瞬間。
ズズズズ……。
掌の皮膚を突き破り、
五寸釘よりも太く、長い針が、何本も生え出した。
「……へぇ」
真弓が、目を細める。
撃つ。
掌で魔素弾を受けとめ、針で突き刺す。
――その瞬間。
魔素が、吸われた。
「ッ……!」
弾が、霧散する。
「吸収型、かよ……!」
縫門鬼の背中が盛り上がる。
ドンッ、ドドドドッ!!
太い針が、垂直に撃ち出される。
まるでミサイル。
真弓は急上昇し、かわす。
だが、下から、横から、上へ――
針が、空間を埋め尽くす。
真弓は瞬時に銃口を走らせた。
引き金を引くたび、乾いた連射音が空を裂く。
弾丸は正確無比に飛来する針を撃ち抜き、空中で火花を散らせて弾け飛ばす。
細長い弾体が粉砕され、破片が雨のように落下していくが、次の針はすでにその隙間を縫って迫っていた。
真弓は身体をひねり、反動も利用して射線を切り替える。
1発、2発、3発――
迎撃は完璧だが、数が多すぎて攻撃が通らない。
縫門鬼は地上で、ゆらりと立つ。
針を生やしたまま、こちらを見上げている。
互いに、次の一手を探っていた。
* * *
「……チッ」
真弓は舌打ちした。
縫門鬼が戦法を切り替えた瞬間――それが“それなりの相手”だと理解したからだ。
掌から突き出す太針。
背中から撃ち上がる、ミサイルみてぇな代物。
「ったく……。
やっと歯ごたえあるのが出てきやがったじゃねえか」
翼界の出力を叩き上げる。
背中の魔素が爆ぜ、身体が弾丸みたいに空を蹴った。
「あたしについてこれるかな!
置いてかれんなよ、白モヤシ!」
次の瞬間、縫門鬼の背中が膨れ上がる。
ドンッ、ドドドドドッ!!
太い針が打ち上がり、空で散開、真弓を食いに来る。
軌道は歪み、逃げ場を潰す――クソみてえによく出来た誘導。
「はっ、ミサイルごっこかよ!」
真弓は空中で身体をひねり、背面飛行に移行。
視界を埋める無数の針。その全部が“死”だ。
急制動。
針が鼻先をかすめる。
即、再加速。
上下、左右、斜め――
空を走る軌跡は、戦闘機のドッグファイトそのものだった。
「遅えんだよ!
その反応じゃ、あたしのケツも拝めねえぞ!」
引き金を引く。
ドン、ドン、ドン!!
魔素弾が正面から針の群れに叩き込まれ、爆ぜる。
空に火花と衝撃波が広がる。
――弾切れ。
「……っと」
真弓は銃を躊躇なく放り投げた。
空中で、だ。
落下する銃。
同時に、腰から新しいマガジンを引き抜く。
身体を一回転。
落ちてくる銃を逆手でキャッチ。
カシャン!!
空中リロード。
「悪いな。
まだ終わりじゃねえ」
即、反転射撃。
背後から迫っていた針を至近距離で吹き飛ばす。
ドォンッ!!
爆炎の中、縫門鬼がよろめいた。
白い体に確実な焦げ跡。
「ほらどうした?
さっきの勢いはどこ行ったよ」
真弓は笑う。
快楽混じりの、底意地の悪い笑みだ。
縫門鬼は無言で針を生やし続ける。
だが、もう隠せない――動きが鈍っている。
「バレバレなんだよ。
数に頼り始めた時点で、てめぇは負け犬決定だ」
翼界で旋回。
縫門鬼の頭上を取り、上から撃ち下ろす。
ドン、ドン、ドン!!
魔素弾が白い肉体を貫き、爆ぜる。
「ワンワン吠えながら避けろよほら!
――あ? できねえ?
そりゃ残念だな!」
1発、また1発。
針は迎撃に回るが、弾の威力に粉砕されていく。
真弓は距離を詰める。
逃がさない。
殺し合いの主導権を、完全に掴んだままだ。
縫門鬼は、追い詰められていた。
それでも足掻くように、
掌と背中の針をさらに肥大化させる。
* * *
ドドドドドドッ!!
空が、針で埋まる。
逃げ道を潰すように、包囲するように、数だけを頼りにした全力の飽和攻撃。
「……必死だな」
真弓は鼻で笑った。
翼界で高度をずらし、半身を捻る。
針が頬をかすめる。
髪を切る。
だが――当たらない。
引き金。
ドン、ドン、ドン!!
迎撃、迎撃、迎撃。
「どうしたよ。
全力なんだろ? その程度か?」
縫門鬼は吠えない。
ただ、攻撃の密度だけを上げる。
だが――
いくら撃ち、いくら放っても、真弓には届かない。
届かない代わりに。
削られていくのは、自分自身だ。
白い体は、すでに傷だらけだった。
* * *
縫門鬼の身体が、ぎゅるるるると歪んだ。
骨格が軋み、四肢が折り畳まれ、肉が削げ落ちるように収束していく。
「……は?」
真弓の声が、わずかに低くなる。
白い影が、一直線に伸びた。
二メートル級。
太く、鋭利で、歪な――
一本の巨大な針。
縫門鬼は、自分自身を“武器”に変えた。
ドンッ!!
空気を叩き割り、巨大な針が突っ込んでくる。
「なるほど……そう来たか!」
真弓は即座に射撃。
ドン、ドン、ドン!!
だが――
弾は、逸れる。
硬い。
異様なまでに硬い。
しかも、角度が悪い。
斜めに走る針の曲面が、弾道を滑らせる。
「チッ……強度もかよ!」
とはいえ、速くない。
巨体ゆえの鈍重さ。
直線的な突進。
真弓は半回転し、軽くかわす。
「デカくなっただけで、当たらなきゃ意味ねえんだよ!」
かわした、その瞬間。
バシュッ!!
針の表面が波打ち、無数の小針が散弾のように弾けた。
「……ッ!」
回避の“先”を狙った置き土産。
真弓は翼界を瞬間噴射し、空中で身体を捻る。
頬を裂く。
肩を掠める。
耳元を、死が通り過ぎる。
「チィッ……!」
それでも致命傷はない。
血を滲ませながら、真弓は笑った。
「やるじゃねえか……」
* * *
ドッグファイトが始まった。
巨大な針は直線的だが速い。
だが、真弓は逃げない。
急降下、急制動、反転。
針が通った直後の空間へ、あえて飛び込む。
すれ違いざまの風圧。
背後から、また小針。
上下左右、逃げ場を潰す。
縦に落ち、即横へ跳ぶ。
重力を裏切る軌道で、針の網をすり抜ける。
「当たんねえよ!」
小回り、姿勢制御、加減速。
空を走る軌跡は、戦闘機そのものだった。
ドン!
撃つ、弾かれる。
なら――同じ場所。
ドン、ドン!!
白い針の側面に、ひび。
「見ーっけ」
そこからは、早かった。
その一点を、しかし次の弾は直進せず、空中でわずかに軌道を変えながら、ひびへ吸い寄せられるように向かう。
ドン、ドン、ドン!!
ひびが広がる。
白い針に、蜘蛛の巣状の亀裂。
縫門鬼の軌道が、乱れる。
「どうしたよ!
スピード落ちてんぞ!」
ドッグファイトは、完全に真弓のペースだった。
旋回して、背後を取る。
「――終わりだ」
ありったけの魔素を込める。
引き金を、引き絞る。
ドドドドドドドッ!!
次の瞬間――
白い巨大な針が、内側から砕けた。
爆ぜる魔素。
悲鳴にならない断末魔。
縫門鬼は、空中で崩壊し、白い破片となって、地面へと落ちていった。
真弓は空中で減速し、ゆっくりと着地する。
「……ふぅ」
肩の血を一瞥。
「軽傷、軽傷」
口元を歪め、笑う。




