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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第3層“転” ゴブリン王

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第79話 ゴブリン王討伐 ― 撤退

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

戦線からの撤退が完了した後も、探索者たちの行軍は終わらなかった。


敵影が完全に振り切れたと判断された地点から、さらに――約8時間。

夜の帳が下り、草原の冷気が肌に刺さる中、探索者たちはただひたすら走り続けた。


もはや隊列と呼べるものはなく、塊になりながら、互いの存在を確認し合うだけの移動だった。

転倒する者もいれば、仲間に肩を貸されながら進む者もいる。

それでも、誰一人として歩みを止めなかった。


「……あと、少しだ……」


誰かの呟きが風に溶ける。

だが、止まれる者はいない。


もしも、ここで減速すれば――

もしも、ここで足を止めれば――


再びゴブリン王が追撃してこない保証は、どこにもなかった。


やがて、闇の向こうに淡い光が滲む。


――ゲートだ。


第3層の入口ゲート。

人類側の領域と、地獄のような戦場とを分かつ境界。


それを視界に捉えた瞬間、誰からともなく吐き出すような息が漏れた。


「……着いた」

その一言が、どれほど重かったか。


ゲートをくぐり抜けた瞬間、緊張の糸が切れたように、何人もの探索者がその場に崩れ落ちた。

膝から倒れ、仰向けになり、天井を見上げる。


移動時間、合計およそ15時間。

途中の戦闘、逃走、再展開を含めれば、肉体と精神の消耗は計り知れない。


誰もが、限界だった。


* * *


ゲートを抜けた途端、休憩スペースの一角がやけに明るい。

見れば、リエントリー組がわらわらと手を振っている。


「おかえりー! 生還組!」

「こっちは先にシャワー浴びといたぞ!」

「思った以上にボロボロだな」


妙にフレッシュな笑顔。

肌ツヤもいい。

なんなら、ちょっと髪のセットまで整っているやつまでいる。


(……いや、なんでそんな元気なんだよ)


理由は単純だ。

このメンバーはほとんど全員、過去に何度も――死んでリエントリーエリアに飛ばされる、という体験を済ませている。

初回こそ肝を冷やしたが、回数を重ねれば「いつもの緊急帰還ボタン」くらいの感覚になる。

心身へのショックも、もう慣れたものだ。


結果として、今回リエントリーした組は、

「最初の行軍7時間+戦闘」で安全圏に帰還。

そのまま回復して、軽食まで済ませている。


一方の生還組はというと――

「最初の行軍7時間+戦闘+退却の行軍8時間」というフルコース。

合計15時間のラン&バトルだ。

足は棒、体力は空、顔色も悪い。


「おつかれー」

「くっそ、早々に離脱しやがって!」

「俺もしたくてしたわけじゃねぇよ」


生還組がふらふらとベンチに腰を落とすと、リエントリー組がテキパキ介護に回る。

タオル、飲み物、甘い物。

ついでに「背中流しましょうか?」まで出てきて、さすがに断った。


「……なんか負けた気がする」

冗談なのか、それとも本音なのか分からない笑いが、力なく漏れる。


生き残った者たちは、全身に重石をつけられたような疲労を抱えていた。

足は鉛のように重く、体力も底を突きかけている。


直哉も例外ではなかった。


身体強化を切ってしばらく経つのに、筋肉の内側に熱が残り、呼吸するたびに肺の奥が痛む。

バットを支えに立ってはいるが、手放したら、そのまま座り込んでしまいそうだった。


(……生きて帰れたな)


その実感が、じわりと胸に広がる。


* * *


探索者全体への指示は、極めて簡潔だった。


「――皆さん、ご苦労様でした、まずは休んでください。

情報については我々のほうでまとめておきます」


ダンジョン課職員の声に、異論は一切出なかった。

むしろ、誰もがそれを待っていた。


「明日、集まれる人は集まってください」


職員は続ける。

「今回の戦闘について、情報の整理と共有を行います。

ただし……300人が一斉に話し合っても、まとまりません」


全員が黙って頷いた。

それは、誰の目にも明らかだった。


「ですので、まずは小隊ごとに整理します。

各小隊には、それぞれダンジョン課の職員をつけ、進行を補助させていただきます」


探索者たちは、それぞれの小隊に戻り、散会する。

ようやく、本当の意味で――戦闘が終わったのだ。


* * *


翌日。


全員が集まれたわけではない。

疲労が抜けきらず、欠席する者も珍しくなかった。


それでも、小隊ごとの情報整理は順調に進んだ。


誰がどこで何を見たか。

ゴブリン王(エンバルム)や軍隊の行動パターン。

異常な回復・強化の仕組み。

戦力配分の問題点。


報告は錯綜しつつも、最終的に、議論は2つの焦点へと収束した。


1つ目――

現存戦力で、ゴブリン王(エンバルム)を打倒するのは極めて困難であること。


この点については、ほぼ全員の意見が一致した。


正面から削れば回復され、雑兵を無視すれば背後を取られる。

能力者が全力を投入しても、決定打に至らない。


そんな声が、あちこちから出た。


「次回は――4層の魔素能力者も動員します」

職員が淡々と告げる。


それは、事実上の戦力不足の宣言だった。

悔しさを見せる探索者もいたが、誰も反論しなかった。

むしろ、当然の判断として受け止められていた。


そして2つ目。

ゴブリン王(エンバルム)が、特殊個体な可能性が高いこと。


流暢な言語。

明確な怨嗟と目的意識。


「喋るモンスター自体は、過去にも報告例はある」

「でも、あそこまで“整理された思想”を持っている個体は……」


議論は慎重になった。


確かに、重要な問題だ。

だが――


「とはいえ、倒さなければならない相手であることに変わりはない」


第3層の魔石の供給が止まり、経済的損失がすでに出始めている。

ゴブリン王(エンバルム)が生きている限り、被害は拡大する一方だ。


「疑問や背景を考えるのは大事だが……」

「今は、早期討伐を優先すべきだ」


最終的に、その話題は“保留”となった。


倒す。

まずは、それが最優先だ。


* * *


夜。

簡易ベッドに身を沈めた直哉は、天井を見上げたまま、しばらく動けずにいた。


身体の疲れもある。

だが、それ以上に――頭が冴えている。


(……ゴブリン王(エンバルム)との戦い)

瞬閃四連撃(アクセル・バースト)

確実に通った、はずだった一撃。


「攻撃力が……まだ足りないよな」

『補う方法はあります』

イチカの声が、静かに響く。


分体生成(アバター)を組み合わせることで、瞬間的な出力を更に引き上げられます』

「アバターを?」


『はい、そうです。

現在、アクセルバーストは4連撃ですが、超巨大ゴーレム戦で見せたように、分体生成(アバター)による腕の増加。

これにって、6連撃に増やすことができます』

「たしかに!」


「あとさ、あのゴブリン王(エンバルム)

なんか俺たちに恨み持ってたよな。

記憶があるってことなのか……?」

『現時点では、わかりません』


イチカも、少し言葉を選んでいるようだった。

『ただし――情報の収集は可能です。

次までに、可能な限り整理します』

「あぁ、頼んだ」

直哉は目を閉じる。


その直前――

ほんの一瞬だけ、イチカの反応が遅れたような気がした。


違和感。

ほんの些細な、引っ掛かり。


「……気のせい、か」

直哉はそうして、意識を眠りへ落とした。

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