第72話 ゴブリン王討伐 ― 草原の王
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私にガソリンをください!!
うへ、アップが抜けていました。
すみません、、、
* * *
道場の特訓から1か月。
学校、道場、ダンジョンと直哉にとっては濃密すぎる1ヵ月だった。
しかしその甲斐あって、身体強化と識界の併用もなんとかモノになってきた。
まだまだ実践レベルではないが、防御に徹しながらであればぼちぼち、という感じだろうか。
気がつけば、ゴブリン王討伐のイベントまで残りおよそ2週間だ。
ダンジョン課での調査も進み、今日はその報告とその作戦の共有があるということで、ダンジョン課に来ている。
ダンジョン課の大講堂。
そこに、今回の作戦に関わる探索者全員が集められていた。
天井の高いホールに、ずらりと並ぶ座席。
埋め尽くしているのは、200名を優に超える探索者たちだ。
(……すっごい人数だな)
直哉はそう思いながら周囲を見渡す。
年齢層も様々だが、共通しているのは「場数を踏んだ空気」だった。
誰もが静かに座り、雑談はしても浮ついていない。
それでいて、必要以上の緊張感もない。
「それでは、始めます」
壇上に立つダンジョン課職員の声が、講堂に響いた。
照明が落とされ、巨大なスクリーンに映像が映し出され、わずかなざわめきが走った。
「……ああ、これか」
「懐かしいな」
「去年は本当に大変だった」
映っているのは、去年のゴブリン王討伐作戦の記録映像だった。
ドローンによって撮影された上空視点のダンジョン内部。
映像は年単位で保存・分析されており、こうして再生されるのも初めてではない。
(……去年は洞窟型だったんだな)
(『はい。ゴブリンの規模は4,222体と記録がありました』)
(よんせん……)
画面に映るのは、草原フィールドの中央にぽっかりと開いた巨大な穴。
入口から地下へと伸びる竪穴の先には、想像以上の大空洞が広がっていた。
そこは、まるで地下都市だった。
天井の高い空洞。
無数に張り巡らされた横穴と通路。
岩肌に直接掘り抜かれたような広間や小部屋が、複雑に連なっている。
「ここを拠点にしてたんだよな」
「マジで迷路だった」
草原の入口付近の映像に切り替わる。
そこでは、数十体規模のゴブリン部隊が、規則的に入れ替わりながら哨戒を行っていた。
ただ立っているだけじゃない。
隊列を組み、交代し、周囲を警戒する。
(……組織的だな)
(『はい。王個体が存在する場合、ゴブリンの行動は明確に変化します。
知能の底上げ、連携行動、拠点防衛意識の発生が確認されています』)
(……ただの雑魚じゃなくなるってわけか)
洞窟内部の映像が続く。
広いが、入り組んでいる。
一本道では進めず、探索者側も複数班に分かれて進軍せざるを得なかった様子がはっきりと分かる。
「この時点で、もう分断されてたな」
「ああ、連絡取るのに苦労した」
そして、作戦開始から数日。
1週間近くをかけて、ようやく最深部へ到達する流れが、早送りで再生されていく。
「これが王の間での戦いです」
職員の一言で、映像が切り替わった。
広大な空間。
雑多に並ぶ岩柱と、中央に設けられた簡易的な玉座。
そして――
(……あれが、ゴブリン王)
直哉は息を呑んだ。
画面越しでも分かる異様な存在感。
3メートルを超える巨体。そして重装備。
主ゴブリンとも明らかに違う、圧倒的な威圧。
その周囲には、主ゴブリン級が十体以上整列しており、ゴブリンマジシャンやホブゴブリンなども列をなしている。
「この時は地獄だった」
「よく生きて帰れたもんだ」
探索者側も精鋭揃いだった。
魔素能力者が前線に立ち、後方から支援と範囲制圧。
篠崎さんの姿も、映像の中にあった。
熱波を迸らせ、敵陣を溶かしていく。
(……最上さんと指川さんは、参加してなかったんだな、この時は)
戦闘は苛烈だった。
一瞬の油断で崩れる陣形。
倒れていく探索者。
それでも、前へ進み続けた記録。
(……戦闘の桁が違うな)
(『はい。現時点で確認されている最大級のゴブリン討伐例の一つです』)
映像は、ついに終盤へ。
ゴブリン王が崩れ落ちる瞬間。
歓声と疲労が入り混じった、静かな勝利。
そして、最後に映し出されたのは――宝物庫だった。
「おお……」
「これだよ、これ」
画面いっぱいに広がる、魔石、魔石、魔石。
うず高く積まれ、淡く輝く結晶の山。
「稼げたよなぁ」
「人生で一番の当たり作戦だった」
会場のあちこちから、そんな声が上がる。
(……確かに、あれは……)
(『推定総額は、4億2,000万円規模です』)
(4億……)
直哉は無意識に息を吐いた。
映像が消え、照明が戻る。
「ご覧いただいた通り、ゴブリン王は強く、またその側近も大変厄介です。
去年は洞窟型という地形も手ごわい状態でした」
職員の声が、静かに講堂に響く。
「そして、こちらが今年の陣営です」
ドローンで撮影した様子が写される。
(……遊牧民みたいじゃない?)
(『はい。あれは、ゲルと呼ばれるものですね』)
「この様に、草原に拠点を構えています」
職員の指示に合わせ、スクリーンに広大な草原が映し出される。
草の海の中央には、無数のゲル――簡易的なテント状の建造物が円状に配置され、明確な“集落”を形成していた。
「都市型に近い構成だと考えたほうがよいでしょう。
また、ゴブリンの数も今までと比較して、抜きん出ています」
職員が一拍置く。
「その数、約6,000体」
一瞬、静寂。
次の瞬間――。
「6,000体かよ……」
「おいおい、そりゃやべぇな」
「去年の4,000体でも吐きそうだったのに」
ざわり、と講堂全体が揺れた。
肩をすくめる者、苦笑する者、腕を組んで天井を仰ぐ者。
中には、真顔で前のめりになり、スクリーンを睨みつける探索者もいる。
(……ろくせん)
直哉は、数字を頭の中で反すうする。
(『推定脅威度は、これまでの最大値を更新しています』)
(……だよな)
「映像の続きをご覧ください」
再びドローン映像が動き出す。
上空から見下ろす視点で、ゲルの合間を行き交うゴブリンたちの姿が次々と映されていく。
通常のゴブリン。
弓を背負った弓兵。
ローブ姿のマジシャン。
体格の良いホブゴブリン。
「……思ったより、偏ってないな」
「比率はいつも通りか」
誰かがつぶやく。
極端な異種構成ではない。
だが、それは裏を返せば、雑魚が増えているだけではない。
いつもの脅威度がそのままスケールアップしているということでもあった。
「ここです」
職員の言葉と同時に、映像が静止する。
画面に映っていたのは、集落の外れ。
そこには、いくつもの檻が並んでいた。
「ゲルの外れに、多数の檻が確認できました」
「その中には、ウルフがいたことも確認しています」
ざわり、と空気が再び波立つ。
「檻の数から推測するに、約2,000匹」
「敵の3分の1が、ゴブリンライダーとして編成される可能性が高いです」
「……マジか」
「草原で騎兵とか、最悪じゃねえか」
誰かが小さく舌打ちする。
別の探索者は、無言で自分の装備を見下ろしていた。
(……2,000騎)
(『平原戦闘において、機動力は致命的な差になります』)
(……わかってる)
直哉は背もたれに体を預け、天井を見上げた。
洞窟型とは、まるで条件が違う。
逃げ場はあるが、守りきれない。
「さらに、続けます」
ドローン映像が再生され、集落の中心部へと進んでいく。
しばらくは同じようなゲルが映り続けていたが――
突如、画面に映ったそれに、講堂が静まり返った。
明らかに豪奢なゲル。
装飾が施され、周囲より一回り大きい。
(……王の居所)
その瞬間。
――衝撃。
ノイズ。
画面が一瞬大きく揺れ、映像が途切れた。
「……撃ち落とされた?」
「この通りです」
職員は淡々と言った。
「豪華なゲルに近づいた際、ドローンが撃ち落されました」
「ドローンからゲルまでの距離は、約500メートル」
数字が出た瞬間、あちこちで息を呑む音がした。
「相当、腕の立つ射手がいると予想されます」
ざわつきが、今度は低く、重く広がる。
500メートルという距離が、意味するものを全員が理解していた。
「都市型の場合――」
職員は語調を変えず、話を続ける。
「比較的大部隊での総力戦が、段階的に複数回発生するのが、これまでのパターンです」
「今回はゴブリンの数も多いため、例年以上に探索者の方々へ協力を依頼しています」
スクリーンに、新たな数字が映し出される。
「探索者は約300名」
「魔素能力者は12名」
――少ない。
直哉は、直感的にそう思った。
「単純計算になりますが」
「1人あたり、約20体のゴブリンを討伐していただければよい計算です」
直哉はゆっくりと息を吐いた。
(……6,000体か)
簡単じゃない。
だが、砦の時も一人頭20体だった。
つまり同程度だ。
「では、当日の作戦や部隊編成を発表します」
ゴブリン王。
今回は、自分もその討伐隊の一員だ。
(……やべぇ、楽しみすぎる!)
(『あまり浮かれないでください。
去年の映像では、篠崎様も傷を負っていました。
厳しい戦いが予想されます』)
講堂に、次の説明が続く。
戦いは、もう始まっている。




