第75話 ゴブリン王討伐 ― 草原に轟く
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
野営地に着くと、探索者たちは思い思いに足を止めた。
荷を下ろし、その場に腰を落とす者。
膝に手をついて大きく息を吐く者。
装備を外さず、周囲を警戒したまま立ち尽くす者もいる。
草原に仮設された野営地には、安堵と緊張が入り混じった空気が漂っていた。
直哉もまた、金属バットを地面に突き、静かに息を整える。
7時間の行軍。
疲労がないわけではない。脚の奥に、確かな重みが溜まっている。
だが、動けないほどではない。
(前半が終わって、ここから後半戦……そんな感じだな)
そう評するのが、いちばんしっくり来た。
(『心拍はやや高めですが、許容範囲です』)
(分かってる。休めるうちに休んどく)
水を口に含み、喉を潤す。
その、ほんの一瞬だった。
「――緊急連絡!!」
野営地の中央から、職員の張り上げた声が響いた。
その声色だけで、ただならぬ事態だと分かる。
「偵察班から急報!
ゴブリン王軍に動きあり!
全軍、出撃態勢を見せています!」
ざわめきが一気に広がる。
「もう来るのか!」
「距離は!?」
「このまま進軍された場合、接敵まで30分もかからない見込みです!」
通常、ゴブリンは異常なほど縄張り意識が強い。
集落で100メートル、砦で1キロ。
城を持つ個体であっても、5キロを超えて離れることはほぼない。
だからこそ、王の居住地から15キロほど離れたこの野営地は、安全圏として設定されていた。
しかし――今回は違った。
30分。
短い。あまりにも短い。
「迎撃は中止です。計画を切り替えます。――撤退しましょう!」
本来、こちらが主導権を握るはずだった。
ゴブリンを誘導し、周りから少しずつ削っていく。
だからこそ、300人で問題ないはずだった。
だが、6,000体がまとまって動くとなれば話が違う。
「この状況で防御に回れば、数で押し潰されます」
短く、しかし迷いのない判断だった。
「わかった。
職員の輜重隊を先行させろ!
探索者は護衛しながら後退だ!」
命令が連鎖する。
探索者たちは即座に立ち上がり、装備を掴んだ。
* * *
バイクのエンジン音が一斉に唸る。
バイクが荷車を引き、走り出した。
輜重隊が先頭。その両脇と後方を探索者が固める。
直哉は走りながら、呼吸の調子を確かめた。
脚はまだ動く。踏み込みも、致命的な鈍りはない。
だが、全力疾走を長く続けられる状態でもない。
(逃走戦には、ちょうど嫌な疲れ方だな……)
(『後方に反応急増しています』)
その言葉が終わる前に、警告が飛んだ。
「右から来るぞ!! ゴブリンライダーだ!」
小丘を回り込み、騎乗したゴブリンの集団が突っ込んでくる。
狙いは明白――輜重隊。
「前に出ろ! 止めろ!!」
探索者たちが即座に進路を塞ぐ。
槍が獣脚を突き、剣が騎手の胴を薙ぐ。
1体、2体とゴブリンライダーが転倒し、ポリゴンが草原に飛び散った。
「いいぞ、押し返せ!」
「職員を守るんだ!!」
探索者1人に対してゴブリンが3体。
この密度なら探索者が明確に有利だった。
連携を組み、確実に仕留めていく。
だが――。
「……まだ来る!」
切り抜けても、切り抜けても、次の群れが現れる。
倍、さらに倍。
波のように数が重なる。
1対5。
1対8。
やがて1対10を超えた。
「くそっ……!」
防ぐ。斬る。叩く。
それでも、同時に対処できる数には限界がある。
剣を受け流した瞬間、別方向から槍が突き込まれる。
防げても、間合いが崩れる。
そこに次弾が来る。
「下がれ! 隊列――」
言い切る前に、探索者の1人が包囲され、白い光に変わった。
リエントリーエリアへの転移。
それでも、探索者は踏みとどまる。
「止めろ! 輜重隊を守れ!!」
倒している。
確実にゴブリンを倒している。
草原には、すでに無数のポリゴンのきらめきが散っている。
だが、終わりが見えない。
地平線の向こうから、次々と新手が湧いてくる。
(『敵の密度がさらに上昇しています』)
直哉は歯を食いしばり、前へ出た。
低く振り、脛を砕く。
体勢を崩したところに踏み込み、顎を叩く。
即座に退き、別方向から来た個体を横殴りにする。
倒す。
また倒す。
善戦だった。
確実に善戦している。
それでも、少しずつ。
本当に少しずつ、探索者の数が減っていく。
「輜重隊、抜けたぞ!」
「最後尾、持たせろ!」
そのときだった。
――地響き。
「……来た」
誰かが呟く。
大柄なウルフに乗った、新手のゴブリンライダー。
その数、約100体。
全員がホブゴブリンだが、先頭を行くゴブリンだけは異様な雰囲気を発している。
体格は、通常のゴブリンと変わらない。
身長1.2メートル程度。
しかし、その体は強さというものが凝縮され作られたような威圧感がある。
あれがゴブリン王だ。
誰もが見た瞬間に直観する。
手には全長5メートルを超える巨大な棍棒。
それを軽々と掲げ、一振り。
轟音。
前線が一列、まとめて薙ぎ払われた。
悲鳴とともに、探索者が吹き飛び、白光が弾ける。
「っ……!」
直哉は息を呑み、バットを握り直した。
ゴブリン王の視線が、戦場を舐めるように巡る。
――本命が、ついに姿を現した。
この逃走戦は、まだ終わらない。




