第69話 王の影
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
うへ、アップが抜けていました。
すみません、、、
* * *
久しぶりの第3層だ。
ここのところ、時間停止の特訓ばかりだったので、おおよそ2週間ぶりだろうか。
「さて、今日も実験だな」
俺は肩に担いだバットを軽く叩き、深呼吸する。
今日はゴブリン相手に時間停止の実験だ。
『できるだけ少数を狙いましょう。
また人型に対して、どこを停止させると致命的なのかも実験の対象です』
「だな。
時間停止すると空間に縫い付けたみたいに停止できるけど、他の部分は動けちゃうしな。
手とかを停止させても、あんまり意味なさそうだよね」
『はい、できるだけ体の中心線に沿った部分が効果的でしょう。
耳や鼻も効果的だと思いますが、第一候補は目です』
「目か。
確かにそこまで質量ないし、目が動かなくなったら手足も伸ばせる範囲が限られるもんな」
『とにかく、たくさん試しましょう。
目程度の大きさであれば、合計5分程度止めることができます。
1回5秒程度に分割すれば、60回試すことができます』
「了解!
よし、まずはゴブリン探しだな」
* * *
視界の端で、草むらをかき分けて進む複数の影を見つける。
「いたな、ゴブリンだ」
『3体ですね、ちょうどよいです。
とはいえ、時間停止と身体強化はまだ併用できません。
ゴブリンとは言え、油断しないように』
「わかってるって。
いくぞ、イチカ!」
俺はバットを構え、ゴブリンに駆け寄る。
音に気付いたゴブリンたちが、ぎらりと光る目をこちらに向ける。
ゴブリンが甲高い声を上げ、錆びた短剣を振りかざして突っ込んでくる。
『今です』
「止まれ!」
空気が一瞬、張り詰めた。
3体のゴブリンがそれぞれ手足を振り回してじたばたするが、そこから動けない。
右目だけがまったく動いていないのが、なんだか不気味だ。
「……おおおおお! 止まった!」
俺は思わず声を上げた。
ゴブリンは怒り狂い暴れるが、まったく進むことができない。
『成功です。魔素残量、現在478』
「おぉ、ゴブリンたちもいけるのか。
魔素の消費量も他のと変わらないな」
『別の部位を止めてみましょう』
「だな、足の指にしてみるか」
俺は念じて、目から足の指に対象を移す。
「ゴブゴブ!!」
一瞬、ゴブリンが駆け出すが、片方の足が動かず、一歩しか踏み出せない。
「やっぱり足の方が行動範囲は大きくなるな」
『そうですね。
武器の場合はどうなりますか?』
「わかった、武器な」
今度は、足の指からゴブリンが持っているダガーの一部に対象を変える。
ゴブリンたちはしばらくジタバタと暴れ、足元の土を蹴り上げていた。
焦りの声を上げながら武器を構え必死に力を込めるが、まるで見えない鎖に縛られているかのように動かない。
やがて、その事実を悟ったのか、武器を手放し、黄色い牙を剥き出しにして素手で殴りかかってくる。
「はい、だめー!」
俺は即座に視線を鼻先へと移す。
ゴブリンの動きがピタリと止まる。
唸り声をあげ、唾をまき散らし、手足をバタつかせるが、頭が一向に動かせない。
「やっぱり顔がよさそうだな」
『そうですね。
直哉、魔素残量282です』
イチカの冷静な声が頭に響く。
「わかった、一旦こいつら倒して考えよう」
止まったままのゴブリンにバットを振り抜く。
鈍い衝撃音とともに、ポリゴンが弾けた。
その時、スマホの通知音が耳に心地よく響く。
レベルアップだ。
レベル:14→15
体力:54→61
筋力:55→63
敏捷:65→74
器用:45→52
知力:44→51
特殊能力:現象伝導、時穿つ瞳、瞬閃四連撃
特殊能力:分体生成
内在魔素:361→534
内在魔素:173→332
「おぉ、久々だ! イレギュラーぶりだから……3カ月?」
『はい、94日ぶりです。
修行でモンスターを倒す時間が少なかったからでしょう』
「それにしても、ステータスも大分上がったな。
もう少しで敏捷が80超えそうだし、なにより魔素だな!」
『はい。レベル14に上がった際は361でした。
15に至るまでに約200近く上がったことになります』
「やっぱ、会津ダンジョンのゴーレムがおいしかったな。
また行くのもいいかもな」
『そうですね、上限はあると思いますが、大変効率がよいです』
俺は足元に転がる魔石を拾い上げる。
淡い光が掌に宿り、冷たい感触が指先を伝う。
「んで、ゴブリン相手の魔素の減り方はどうだった?」
『無機物と同様でした。
質量によって変わり、その消費率も変わりません』
「そっか。生物もそうじゃないのも、魔素の減り方は一緒か。
時間の止め方も慣れてきたし、あとは識界の展開速度だな」
『そうですね、練習あるのみです』
「よし、次のゴブリン探すぞ!」
バットを肩に担ぎ、足音を殺して草原の奥に向かって進んだ。
* * *
だが、その後――。
探索開始から1時間、2時間……。
「……あれ?」
俺は眉をひそめた。ゴブリンが、いない。
1度集落らしきものを見つけたが、もぬけの殻だった。
戦闘跡も見当たらない。
「おかしいだろ、普段ならもっといるはずだよな」
『はい。通常、第3層ではゴブリンとの遭遇率は高いはずです』
結局、その日3時間探索して戦闘はたった2回。
「なんだよこれ……。いつもなら10回以上は戦ってるのに」
不満と不安が入り混じる。
魔石の収穫も少ないし、何より違和感が拭えない。
帰路につきながら、俺はイチカに問いかける。
「なぁ、これって何か異常じゃね?」
『はい。念のため、ダンジョン課に報告しましょう』
「だな……。こういう時はプロに聞くのが一番だ」
* * *
カウンターの向こう、職員が報告書を受け取りながら眉をひそめた。
「……またですか」
「え?」
「ここ数日、同じような報告が増えているんです。
第3層でゴブリンの遭遇率が急激に下がっている、と」
俺の胸にざわりとした感覚が走る。
「なんでそんなことが?」
職員は小さく息を吐き、ぽつりと呟いた。
「これは……王が生まれたかもしれません」
「王?」
「第3層にゴブリン王という特殊個体がいるのはご存じかと思います」
「あぁ、名前だけは聞いたことあるけど……」
職員の声が低くなる。
「ゴブリン王は、1年に1回出現します。
王が現れると、周囲のゴブリンを招集し、軍を作るのです」
「軍……?」
「はい。軍を作った後は王城に留まりますが、その規模は数千にものぼり、通常の探索者では太刀打ちできません」
俺は息を呑む。
「じゃあ、今ゴブリンがいないのは……」
「王のもとに集まっているのでしょう。
徘徊しているゴブリンの数が少なくなっているのは、そのためでしょう。
結果、魔石の収集数は激減します」
職員は真剣な目で俺を見る。
「そのため、王が現れた場合は早期に討伐しなければならないのです」
「なるほど……」
「上層部の判断次第ですが、おそらく近日中にゴブリン王の討伐イベントが告知されます。ぜひご参加ください」
俺は無意識に拳を握っていた。
「……やるしかねぇな」
* * *
帰り道、イチカと念話を交わす。
「まじか、ゴブリン王討伐イベントだってよ! 絶対に参加しないとな!!」
『そうですね。こちらでもゴブリン王についての情報を収集します』
「頼む! それまでに時止めが完成できればいいんだけど」
胸の奥が熱くなる。
未知の強敵――その言葉だけで、血が騒ぐ。
次の戦いは、きっと今までとは桁違いだ。
だが、それがいい。
俺は夜空を見上げ、笑った。
「面白くなってきたー!」




