第37話 砦攻略戦 ― 毒霧の巨影
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石畳に着地した瞬間、足裏に硬い衝撃が走った。
視界の先――弓兵が列をなし、矢を番えてこちらを狙っている。
背後には黒いローブを纏ったマジシャンが3匹。
赤、青、紫の魔法陣が浮かび、空気が歪んでいた。
さらに、ホブゴブリンが2体。
筋肉質な体躯に血の染みがこびりついた皮鎧、黒鉄の槍を握る手は節くれ立っている。
その目は、獣のようにぎらついていた。
「……数が多い」
息を整える間もなく、矢が放たれる。
俺は靴底の《蜻蛉飛び》を起動し、空中に足場を生成。
二段目を踏み、軌道を変える。
矢が石畳に突き刺さり、破片が散った。
(「イチカ、敵数!」)
(『ゴブリン21、マジシャン3、ホブゴブリン2。火球、氷槍、雷撃を確認』)
(了解)
その時、背後から声が飛んだ。
「右は任せろ!」
水城さんが駆け抜け、ゴブリンの列に斬り込む。
素早い剣戟で、2体のゴブリンが崩れ落ちる。
左側では3人目の同行者、田端さんが槍を構えてホブゴブリンに突進していた。
槍先が鋭く突き出され、ホブゴブリンの肩を貫く。
獣のような咆哮が響くが、彼は一歩も退かない。
彼らの背後では――松岡さんが弦を引き絞り、矢を4本同時に放った。
矢が弧を描き、マジシャンの詠唱を遮る。
「させねぇよ!」
彼が笑う声が聞こえた。
「フラッシュ!」
俺はホルダーにチャージされたエネルギーを使い、閃光弾を射出する。
閃光が炸裂し、ゴブリンとマジシャンが一瞬で目を覆った。
「今だ、おらぁ!」
俺は紅蓮の豪撃を握り、身体強化を最大化してゴブリンの列へ突撃する。
魔石で強化されたバットに魔素強化が乗り淡く光り、敵の防御を容易くかち割った。
1体、2体、3体――矢を放つ暇もなく崩れ落ちる。
背後で水城さんが声を上げる。
「右は片付いたよ!」
田端さんがホブゴブリンを押し込み、松岡さんが再びつるべ打ちで援護する。
連携は完璧だった。
* * *
2本、一直線に矢が俺の顔面を狙っている。
(『防御壁展開』)
イチカのサポートで腰の装置が淡く光り、青色の半透明なエアバックが展開。
矢が弾かれ、石畳に転がった。
「助かった……」
息を吐く間もなく、青い光が膨らむ。
氷槍だ。マジシャンが詠唱を終え、槍をこちらに向けて放つ。
冷気が走り、石畳が砕ける。
俺は蜻蛉飛びで軌道を変え、氷槍を回避。
背後で白い破片が散った。
「イチカ、反撃ルート!」
(『右斜め前、弓兵3体の間に隙あり。突入推奨』)
「了解」
俺が跳躍する瞬間、松岡さんが再び四射を放つ。
矢が弧を描き、3体の弓兵を射抜いた。
絶好のタイミングでのちょうどいい援護がありがたい。
水城さんはホブゴブリンの背後に回り込み、刃を振り抜く。
田端さんは突き上げるように槍を放ち、敵の胸を貫いた。
3人の動きは、まるで一つの生き物のようだった。
* * *
背後で声が飛ぶ。
「押し込め!」
直也たちの突入に追いついた第3部隊だ。
彼らは隊列を組み、城壁を制圧していく。
盾役が前に出て、弓兵の矢を受け止める。
その影に隠れた仲間が槍を突き、別の者が魔石を砕いて衝撃波を放つ。
俺達も動きを止めない。
最後のゴブリンを斬り伏せ、マジシャンを仕留める。
「城壁、クリア!」
水城さんが声を上げる。
(『城壁制圧完了。次は広場です』)
イチカの声が冷静に響く。
俺は視線を広場へ向けた。
そこには、次の戦場が待っていた。
500匹ものゴブリンが部隊をわけ、第1部隊、第2部隊と整然と戦っていた。
前列は盾を構えた歩兵、後列は弓兵が矢を連射し、さらに後方でマジシャンが詠唱を続ける。
竜巻や火球が空を裂き、周囲の部隊とも連係しながら獣に跨ったライダーが戦場をかき乱す。
その動きは、まるで訓練された軍隊のようだった。
しかし探索者も負けてはいない。
盾役が笑いながら突進し、ゴブリンの盾を弾き飛ばす。
槍を構えた探索者が、獣の突進を逆に利用して騎手を串刺しにする。
弓兵は矢を連射し、ゴブリンの弓兵を次々と射抜いていく。
別の探索者は装置に魔石をはめ込み、地面に叩きつけた。
砕けた魔石が赤く光り、炎の波が前方に走る。
ゴブリン十数匹が一瞬で焼き尽くされ、焦げた匂いが広がった。
さらに別の探索者は装置を掲げ、衝撃波を発生させる。
爆風がライダー部隊を吹き飛ばし、獣と騎手が地面に転がった。
その隙に仲間が槍を突き、獣を仕留める。
イチカが俺の意図を察し、煙幕弾を起動。
戦場を白い煙で視界を遮った。
「縛っ!」
俺はサイコロ型の装置をライダーの進路へ投げる。
瞬時に網が展開し、獣と騎手を絡め取った。
ライダーがもがく間に、別の探索者が一撃で仕留める。
戦場は混沌としていたが、勝利は疑いようがなかった。
それでも、奥にはまだ脅威が残っている――近衛隊と、主ゴブリンだ。
* * *
広場の中央で、ホブゴブリン10体が姿を現した。
その体躯はゴブリンより一回り大きく、筋肉が盛り上がり、目には獣の光が宿っている。
洗練された兵士ではない。
だが、野性的な猛者――その言葉がふさわしい。
皮鎧に血の染みがこびりつき、黒鉄の槍を握る手は節くれ立っていた。
10体は散開し、探索者の前に立ちはだかる。
その中で、3匹が同時に動いた。
似た装備――黒鉄の槍、革鎧、肩に巻かれた黒い布。
彼らは互いの動きを読むように、滑らかに連携する。
1匹が盾を押し、もう1匹が槍を突き、最後の1匹が横から斬り込む。
探索者の1人が防御を試みるが、槍が肩を貫き、盾が弾き飛ばされる。
次の瞬間、彼の姿はリエントリー光に包まれ、消えた。
「……やるじゃねぇか」
別の探索者が低くつぶやく。
その隣に立つ仲間が笑った。
「なら、俺たちも見せてやろう」
2人は同時に動いた。
1人は大盾を構え、突進して槍を受け止める。
衝撃で地面が震えるが、彼は踏みとどまった。
もう1人はその影に隠れ、懐から魔石を取り出す。
砕けた魔石が青白く光り、衝撃波が走った。
3匹のホブゴブリンが一瞬よろめく。
「今だ!」
盾役が体をひねり、槍を弾き飛ばす。
その隙に仲間が大剣を振り抜き、最初の1匹の胴を断ち切った。
2匹目が反撃に出るが、盾が再び前に出て軌道を逸らす。
大剣が2度目の閃きを放ち、2匹目の首が飛んだ。
最後の1匹は咆哮し、槍を突き出す。
だが、盾役が踏み込み、衝撃で槍をへし折った。
大剣が3度目の一閃を描き、血が地面に散った。
3匹の巨体が崩れ落ちる。
2人は息を整え、視線を交わした。
「……悪くない連携だったが」
「俺達ほどじゃなかったな。」
その背後で、残りのホブゴブリンも探索者たちの猛攻に押し潰されていった。
* * *
広場の奥で、異様な影が蠢いた。
主ゴブリン――灰色の皮膚、地面に届くほどの異様に長い腕、骨ばった足。
その巨体は病的な巨人のようで、背後には毒霧を纏ったゴブリンマジシャンが立っていた。
杖の先端に緑黒の光が脈打ち、地面を叩くたび、黒緑の霧が広がっていく。
(『毒霧濃度、急速に上昇。視界制限と呼吸阻害を確認』)
イチカの冷静な声が脳内に響く。
俺は砦の外壁の影から戦況を見下ろし、拳を握りしめた。
距離は100メートル以上、毒霧の壁が視界を歪め、俺には加勢する術がない。
探索者たちが10数名で主ゴブリンに挑む。
盾役が前に出て、槍を構えた者が横から突き、大剣を持つ者が背後を狙う。
だが、毒霧が彼らの動きを鈍らせていた。
靴底がぬめり、毒沼が足元を侵食する。
「くそっ、足場が……!」
盾役が叫ぶが、次の瞬間、濃密な毒霧が彼の顔を覆った。
視界が緑に染まり、肺に重い圧迫感が走る。
主ゴブリンは霧の中心で悠然と構え、毒をものともせず、腕を鞭のようにしならせた。
一撃で盾を弾き飛ばし、槍をへし折る。
1人が踏み込み、大剣を振り抜く。
だが、主ゴブリンの腕が横薙ぎに走り、その体を叩きつけた。
リエントリー光が弾け、探索者が消える。
(『2名が退場しました』)
イチカの声が冷たく響く。
ゴブリンマジシャンが低く呪文を唱える。
毒霧が渦を巻き、後衛の弓使いの顔にまとわりついた。
「ぐっ……息が……!」
男が膝をつき、必死に霧を払うが、濃度はさらに増す。
その隙に毒沼が広がり、退路を塞ぐ。
「下がれ! 霧が濃い!」
誰かが叫ぶが、声は毒霧に呑まれ、遠くまで届かない。
ゴブリンが死角から槍を突き込む――だが、探索者の一撃がそれを弾き、ゴブリンは崩れ落ちた。
残る敵は主ゴブリンとマジシャンのみ。
主ゴブリンが咆哮し、腕を鞭のようにしならせる。
盾役が受け止めるが、衝撃で地面が震え、毒沼が波打った。
ゴブリンマジシャンが杖を振り下ろすと、毒霧が一点に集中し、後衛の弓使いの顔を覆った。
「息が……でき……」
彼の声が途切れる寸前、仲間が肩を掴み、霧を裂くように引き戻した。
その瞬間、突破口が開いた。
槍使いが脚を狙い、大剣が胴を断ち、主ゴブリンが膝をつく。
咆哮が広場を震わせるが、探索者たちは退かない。
最後の一撃――大剣が首を断ち、巨体が崩れ落ちた。
だが、戦いは終わっていない。
ゴブリンマジシャンが毒霧を濃縮し、探索者たちを窒息させようとする。
「させるか!」
誰かが叫び、槍が閃き、杖を砕いた。
毒霧が弾け、マジシャンの体が宙を舞う。
剣が首を貫き、緑黒のポリゴンが地面に散った。
静寂が戻った。
毒霧は薄れ、広場に残るのは激しい戦いの跡と、そして探索者たちの荒い息だけだった。
主ゴブリンの巨体は崩れ、ゴブリンマジシャンの杖は砕け、敵影はもうない。
「やった……!」
誰かが声を上げた。
次いで、別の声が笑いを含んで響く。
「制圧完了だ!」
広場に歓声が広がり、剣を掲げる者、肩を叩き合う者。
重苦しい戦場が、一瞬で達成感に満ちた空気に変わった。
だが、俺はその輪に加われなかった。
視線の先、2つのリエントリー光が消えた場所に、探索者の影はもうない。
死なないと分かっている。
それでも――その瞬間を初めて見た俺の胸に、冷たいものが突き刺さった。
光が弾ける直前の、あの声。あの手の動き。
頭の奥で、何かがざわめく。
(……これが、戦場か)
探索者たちの笑い声が遠くで響く。
俺は拳を握り、視線を砦の奥へ向けた。
次の脅威が、そこに待っている。
* * *
広場に静けさが戻り始めた。
探索者たちが武器を下ろし、荒い息を整えていた。
だが、戦いは完全には終わっていない。
第3部隊が広場の端で残敵を掃討していた。
散り散りになったゴブリンが必死に逃げるが、槍を突き、剣が振り下ろされる。
短い悲鳴が響き、やがてそれも消えた。
戦場は、確実に探索者の手に落ちていた。
視線を横にずらすと、第1部隊と第2部隊が砦内部への突入準備を進めている。
盾役が隊列を整え、魔石を補充する者、武器の具合を確かめる者――
その動きには疲労の欠片もなく、余裕が感じられる。
次の戦いが、もう始まろうとしている。
(『死亡者は合計5名です。』)
(……5人か。少ないのか、多いのか……)
胸の奥に冷たいものが残る。
だが、立ち止まっている暇はない。
(『心拍数が上昇しています。精神的負荷と推定』)
(わかってる。でも、やるしかない)
(『その判断は妥当です。次の戦闘に備えてください』)
俺は深く息を吐き、ホルダーを確認した。
発明品はホルダーの効果で回収済みだ。
チャージもいつの間にかイチカが済ませてくれている。
(『私はできるサポーターなので』)
どや顔が見えた気がするがきっと気のせいだろう。
視線を砦の奥へ向けると、暗い通路が口を開けていた。
戦いは続く――




