表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
断章 異世界からの侵略

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

239/270

第196話 血に染まる精霊

気づいたら主人公がまったく登場しない話になってた。

ということで、敵方がメインの話しは断章とし、話数を振りなおしました。

断章はメインの話しと同時並行、という感じです。

本日も断章とメインの話しをアップしています。

崩れ落ちる血の壁が、頭上を覆い尽くした。


「みんな、こっちだ!」


陽平が叫び、木刀を掲げる。

腰の壺に触れながら、声を張り上げた。


精霊顕装(アクア・レゾナンス)——水操(ミズノ・シラベ)顕装(けんそう)弐式 跋難陀(ばつなんだ)!!」


足元の水紋が一気に広がり、淡い水色の光が噴き上がる。

水の蛇が幾重にもとぐろを巻き、4人を包み込むドーム状の盾を形成した。


直後、津波が着弾した。


ドオオオオンッ!!


衝撃が広間全体を揺らす。

盾の表面が軋み、水が悲鳴のような音を立てた。


天井まで届いていた血の壁が、盾の丸みに沿って左右へ割れていく。

飛沫が四方の壁や柱を叩き、石が軋む音が重なった。

直哉たちは盾の内側で身を寄せ合い、耐えるしかなかった。


「うぐっ……!」

陽平が歯を食いしばる。

両腕に伝わる圧が、これまでとは比較にならない。


* * *


だが、異変はそこで終わらなかった。


盾の表面に、赤黒い染みが滲み始めたのだ。

血が水の膜へ絡みつき、じわりじわりと内側へ這い込んでくる。


(うぐ、これは難陀(なんだ)が侵食された、あの感触と同じ……!!)


「まずい、このままじゃ!」

陽平の声が上ずった。


血が水蛇の鱗を溶かすように広がっていく。

盾全体が赤く濁り始め、津波を押し返す力が目に見えて弱まっていく。


盾の向こうで、マグナス伯爵の声が愉しげに響いた。


「くはははは、あがけあがけ!」


盾の一部が、まるで消化されるように薄くなっていく。

水蛇の鱗が一枚、また一枚と血に呑まれ、輪郭が崩れ始めた。


「陽平、耐えられるか!」

直哉が叫ぶ。


「わかんね、けど——」


陽平は腰の壺を強く握った。

水の精霊へ、ありったけの魔素を流し込む。


「食われてたまるかよ!!」


* * *


その瞬間だった。


侵食していた血が、水の精霊に呑み込まれるように反転した。

消えたのではない。

溶け合ったのだ。


水色だった盾の光が、赤黒い脈を纏いながら禍々しく輝き始める。

水蛇の目に、赤い光が灯った。


『水の精霊に異常な魔素反応。……いえ、これは変質です』


水の精霊の体表に、赤黒い紋様が血管のように浮かび上がる。

目は爛々と赤く光り、穏やかだった水の精霊が、まるで別の生き物へ変わったようだった。


血を取り込んだ精霊が、それまでとは比較にならない力を放っていた。

盾を突き破ろうとしていた津波が、逆に押し返し始める。


「うおおおおおおっ!!」


陽平が咆哮じみた声を上げた。

盾がドーム状から一気に膨れ上がり、津波を四方へ弾き飛ばす。


ドバァンッ!!


血の壁が四散し、広間中に赤い飛沫が降り注いだ。


* * *


静寂が戻った広間で、陽平は肩を大きく上下させていた。

目の奥に、まだ赤い光が残っている。


「陽平、大丈夫か」

直哉が声をかけると、陽平は牙を剥くように笑った。


「大丈夫すぎるくらいだ……なんか、変な感じがする」


いつもより荒っぽい口調だった。

木刀を握る手にも、無意識の力みがある。


『陽平の精神状態に軽微な興奮傾向を確認。

精霊の影響と推測されますが、戦闘に支障はないと判断します』


「上等だ、そのまま行くぞ!」


陽平が木刀を担ぎ直し、真っ先に駆け出した。

その勢いに、直哉たちが一瞬遅れる。


「おい、陽平のやつ、なんか目つき変わってねえか」

武虎が小声で真弓に耳打ちする。


「今はそれよりワガハイ老害だ!」

真弓もまた、陽平の背中から目を離せずにいた。


* * *


マグナス伯爵が本気を見せてからの戦いは、これまでとは別物だった。


槍が空気を裂き、血の塊が絶え間なく飛来する。

4人は防戦と反撃を繰り返し、押しては押し返される攻防が続いた。


武虎の拳が肩を砕けば、マグナス伯爵の槍が武虎の脇腹をかすめる。

「ちぃっ、キリねえな!」

武虎が血の滲む脇腹を押さえながらも、足を止めない。


真弓の魔素弾をばらまき、その反撃にマグナス伯爵の血塊が真弓の頬を裂く。

「アタシに射撃で勝てるとでも!?」

真弓は頬の血を拭う間も惜しんで、次弾を装填した。


陽平の赤黒い難陀(なんだ)が胴を締め上げれば、マグナス伯爵の笑いが一段と深くなる。

「くはは、いい目をしている。

もっとだ、もっと見せてみよ!」


イチカは直哉のサポートをしながら、全員の調子を観察し続けていた。

誰か一人が崩れれば、そこから連鎖する。

そうならないよう、フォローを送り続ける。


一進一退。

どちらかが優位に立ったと思う間もなく、形勢は入れ替わり続けた。

削った傷はすぐに塞がり、受けた傷は確実に体力を奪っていく。

消耗戦の色が、じわりと濃くなっていた。


* * *


戦闘の合間、イチカがふと違和感を口にした。


『直哉、1つ報告があります』

「今か、あとにしろ!」

『重要です。

血のプールの水位——正確には量が、開戦時と比較して明確に減少しています』


その言葉に、直哉は一瞬だけ意識を広間全体へ向けた。

言われてみれば、足元の血の深さが心なしか浅くなっている気がする。


「減ってる……? 何度もあんだけ使ってんだから、当たり前じゃねえのか」

武虎が槍を弾きながら言う。


『いえ、伯爵が再生に使用した量以上に消耗しています。

攻撃と回復の両方に血を消費している可能性があります』


(このプールが、伯爵の回復の源だとしたら)


「待てよ、じゃあ……」

陽平が息を切らしながら振り返る。

「このまま削り続ければ、そのうち補充が追いつかなくなるってことか?」


『可能性はあります。

ただし、プールの総量が不明なため、確実とは言えません』


「不明でも十分だ」

直哉はバットを握り直し、伯爵を睨みつけた。

もし、この血が尽きたとき——伯爵は、これまでのように傷を癒せなくなるのではないか。


長期戦は望まない。

だが、勝ち筋が見えたのなら話は別だ。


「みんな、聞いたか。

あの再生能力、無限じゃねえかもしれない」

直哉の声に、3人の視線が集まる。


疲労で重かった体に、新しい火が灯った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ