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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
異世界の余波

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第141話 3人目の転移者

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

情報をもたらしたのは、ラグナに定期的に立ち寄る行商人だった。

昼前の市場で、荷を下ろしながら、世間話の延長のような調子で口にした話だった。


「街道で、ちょっと変わった男を見ましてね。

服の仕立てが、この辺りじゃ見たことない感じで。

冒険者ってわけでもなさそうだし、ひとりで、ふらふら歩いてたんです」


それだけ聞いて、直哉の中に引っかかりが生まれた。

異世界で「変な格好」というのは、時に致命的な手がかりになる。


「いつ頃ですか?」

「朝方ですな。南から来る街道で」


直哉は礼を言い、その場で田所に連絡を入れた。


「わかりました。

もし例の件であれば、保護をお願いします」

「オッケーです。行ってきます」


直哉は、同じく暇そうにしていた陽平を捕まえ、2人で街道へ向かった。


しばらく進んだところで、遠方に人影が見えた。

ひとり。

歩き方に、冒険者特有の警戒がない。


「イチカ、あの服は?」

『地球の素材です。

化学繊維の混紡。異世界環境では製造不可能です』


距離を詰めると、相手も気づいたのだろう。

男は足を止め、こちらを見た。


40代前半で無精髭。

日焼けをしていて、身体中に細かな傷跡がある。

おそらく最近ついたものだろう。

堂々と歩いているが、そこかしこで虚勢を張っている様子が伺える。


直哉は一度呼吸を整え、言った。


「地球から来ました。

あなたも、そうですか?」


男は目を伏せ、長く息を吐いた。

「……やっと、やっと会えたか」


* * *


男はマシューと名乗った。

「イギリスに住んでいて、年は42、いやもう43になったのか……」

そう言う彼の表情は年齢以上に疲れているように見えた。


2年前、ダンジョン探索中に転移したという。


「最初は何が起きたのかわからなかった。

気づいたら森で、モンスターに追われて、逃げ回っていて……」


言葉だけは、最初から通じていた。

それが唯一の幸運だった。


だが金も身分証もなく、冒険者になる力もない。

彼は商人に雇われ、下働きから始めるしかなかった。


荷運び、雑用、野営の準備。

戦わずに生きる道を、必死に選び続けた。


それでも真面目に働き、少しずつ頭角を現した。

こちらの風習も覚え、人並みの生活ができるようになる。


そんな時、噂を聞いた。


――醤油。


この世界には存在しないはずの調味料。


「……もしかしたら、自分と同じ転移者がいるかもしれないと思いました」


金を貯め、噂を追った。

最初は乗合馬車で移動していた。


だが情報は曖昧で、移動ばかりが増える。


「もう2ヵ月以上探し回っていたのですが、途中で金が尽きてしまってね……」


それからは自転車操業だった。

短期で稼ぎ、次の街へ。

金がなくなれば歩くしかない。


街道では魔物に怯え、商人に便乗し、夜は眠れない。

心身ともに、限界に近かった。


「……それでも、ようやく同郷の者に会えたのですね」


彼はそれ以上言葉がでなかった。


* * *


ラグナに戻り、拠点へ。


「ただいまー」


奥から顔を出したアンドレとエレナが、マシューを見る。

「その人は?」

「同じ転移者です。マシューさん」


その瞬間、空気が変わった。

「……地球から?」

「はい」


短い沈黙のあと、エレナが言った。

「……私たちと、同じなんですね」

食卓を囲み、互いの話をする。


第1層だけ潜っていたこと。

転移した瞬間。

魔物との遭遇。


「あなたがたも似た感じだったんですね」

マシューはそう言った。


アンドレが静かに頷く。

「我々は、運が良かったのかもしれません。

いや、転移した時点で悪いのかも。

転移してから半日も経たずに、こちらのJPの方に保護してもらったんです。

ここに来てからは、少しだけ安らげました」


その言葉に、マシューは目を伏せる。

「JPというのは?」

「ギルド名です。

ここは日本から転移した人で作ったギルドなんですよ。

今は、全部で21人、いや、マシューさんも入れたら22人か。

で、日本人だけで19人います」


「そんなに……

日本からの転移は多いんですか?」


「あー、たまたま団体行動している時に集団で転移して。

ほら、マシューさんもダンジョンのモヤモヤっとしたので転移したんですよね?」

「ええ、そうです」


「俺達も似たようなものです。

ただ、そのモヤモヤに大人数で触っちゃって」

「なるほど」


「いろいろあって、商売立ち上げて軌道に乗ってきたので、どうせなら同じ転移した人を保護できればいいなあと探したりしているんです」

「そうなんですね。

私もそのおかげで……」


「でもよかったです。

いろいろ聞きたいこともあるでしょうけど、まずは休んでください。

空いている部屋使ってもらっていいんで」


「ありがとうございます」


同じ境遇の人間がいる。

それだけで、マシューの胸の奥の重さが、わずかにほどけた。


* * *


夜。

用意された個室で、マシューは喜びに震えていた。


ベッドと毛布だけの簡素な部屋。

「……十分だ」


扉が閉まり、外界が切り離される。

ゆっくり横になり、毛布を引き寄せる。


(……安全だ)


追われない。

怯えなくていい。


2年間、眠っても眠った気がしなかった夜。

だがその夜、久しぶりに思考が途切れた。


――朝。


鳥の声、そして体が軽い。


「そうか、ここは……」


夢もない、途切れない眠り。

マシューは天井を見つめ、小さく呟いた。


「……よく寝たな」


誰にも聞かれないその言葉は、確かにそこにあった。

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