第109話 終焉の炎
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私にガソリンをください!!
第2ラウンドが始まった瞬間から、流れは変わっていた。
直哉が正面へ踏み込み、ファイアージャイアントの大剣を引きつける。
武虎が横から飛び込み、脇腹の同じ箇所へ断裂猛襲の爪を叩き込む。
ズガァンッ!!
「……!」
ファイアージャイアントが、止まった。
動作が、ほんの一瞬だけ——止まった。
「今だ、真弓!!」
「わかってる!!」
空中から砕陣弾が連射される。
ドン、ドン、ドンッ!!
脇腹の傷へ着弾するたびに、小爆発が連鎖する。
ファイアージャイアントの巨体が、揺れた。
「……ッ」
「まだだ!!」
武虎が吠えた。
断裂猛襲を畳み込む。
同じ箇所へ、1撃、また1撃。
爪が走るたびに赤い閃光が弾け、傷口が削られていく。
しかし再生する。
また削る。
また再生する。
5撃目。
ようやく——傷口の再生が、遅れた。
6撃目。
再生が、止まった。
「まだまだまだぁぁぁ——!!」
武虎が叫んだ。
確かに——傷口が、再生していない。
魔素の防御壁が、ついに削り切られた。
断裂猛襲の消滅効果が、とうとう効き始めていた。
『ファイアージャイアントの魔素量が閾値を下回り始めています。
消失効果が発現しています』
「みんな、今が攻め時だ!!」
「わかった!」
「はい!!」
「任せて!」
4人が一気に動いた。
* * *
「オラァァァッ!!」
ファイアージャイアントの大剣が唸りを上げて振り下ろされる——武虎は蜻蛉飛びで空中へ跳んだ。
足場を空中に生成し、軌道を変えながら大剣の側面を駆け抜ける。
上から、横から、下から——立体的な軌道で接近し、死角からの一撃を叩き込む。
肩口へ爪を叩き込む。
——ズバァァァンッ!!
赤い閃光が切り裂き、肩口が消える。
それに合わせるように直哉も一撃を叩き込む。
「インッパクト!!」
モーニングスターモード&砕陣。
同じ箇所へ全力で叩き込む。
ガギィィィィィンッ!!!
傷が——広がった。
肩口が大きく削られる。
「……ッ、ッ……!」
ファイアージャイアントが、初めて声を詰まらせた。
炎の眼が、揺れる。
だが——大剣を振った。
ズドォォォンッ!!
床が爆ぜ、直哉は跳んで回避する。
落ちてきた岩塊を足場に踏み、さらに跳躍して距離を取る。
武虎は横へ転がり、崩れた石柱の陰に滑り込む。
「散れ! 距離を取るんだ!」
一瞬の間。
4人が広間の各方向へ散った。
ファイアージャイアントは中央に立ち、4人を見渡す。
炎の眼が——いつもより揺れている。
「……ツヨイ、ナ」
感心しているような——それでいて、どこか別の感情が滲んでいた。
「マダ……終ワラン」
大剣を両手で構えた。
* * *
『警告——ファイアージャイアントの魔素が急激に集中しています。
今までと規模が違います』
直哉は息を呑んだ。
ファイアージャイアントの体から、炎が噴き出し始めた。
関節から。肩から。胸から。
まるで、体の内側に閉じ込めていたすべてを解放するかのようだ。
広間の温度が跳ね上がる。
陽平の沙羯羅がみるみる蒸発した。
吹き抜けから差し込む夕暮れの光が、炎の色と混ざり合い、広間全体が深紅に染まっていく。
「……何する気だ」
「やらせるかよ!」
武虎はすでに走り出していた。
直哉は一瞬だけ迷い——蹴った。
2人が同時に、ファイアージャイアントへ向かって突っ込んだ。
ファイアージャイアントの体から噴き出す炎が、大剣へ向かって一気に収束していく。
炎が束になり、渦になり、ビルほどの巨大な竜巻を形成する。
さらに凝縮し——巨大な大剣の刃ほどに縮まった炎の塊が、刃に宿った。
真っ白に輝く炎。見ているだけで視界が焼けそうな、異常な密度の輝きだった。
「……ゴクエン」
大剣が振り上がった。
その瞬間、武虎が吠えた。
「——やらせるかぁぁぁっ!!!!」
武虎の魔素がこれまでにないほど膨れ上がり、巨大になった赤虎がファイアージャイアントへ向かって真っ向から——
大剣が振り下ろされた。
ズゴォォォォォンッ!!!!
白い炎の奔流と、赤い虎の魔素がぶつかり合った。
ドォォォンッ!!!!
広間が、揺れた。
吹き抜けの縁から岩が崩れ落ち、側壁が抉れ、床のひびが広がる。
白と赤。
巨人の炎と、赤虎が、拮抗した。
互いのオーラがせめぎ合い、漏れ出た力が周辺を溶かし、そして消失させる。
武虎は押し返されていた。
足が床を削りながら後退する。
「ぐぐぐぐ、負けねえ!!!!」
そして——
お互いの技が、同時に弾き合った。
ズガァッ!!
武虎が後方へ吹き飛び、崩れた側壁に叩きつけられる。
ファイアージャイアントの大剣が、反動で大きく跳ね上がり、体勢が大きく崩れた。
そして——大剣に、一本の大きなひびが、音を立てて走った。
「今だ——!!!」
直哉は叫んでいた。
『時穿つ瞳』
世界が、粘性を帯びた。
ファイアージャイアントの動きが遅くなる。
体勢が崩れ、腕が万歳のまま——立て直せていない。
直哉はがら空きになった胸に向かって飛び込んだ。
「瞬閃六連撃!!!」
『分体生成、腕を2本具現化します』
直哉の両肩から、淡い光が伸びた。
バールを持った2本の腕が顕現する。
敏捷特化の身体強化が爆ぜた。
青いオーラが全身を包む。
神速の6連撃が、ファイアージャイアントの胸へ集中した。
膨大な魔素の防御壁と堅い外皮を突き破り、致命傷を与える。
だが。
ファイアージャイアントは血を噴き出しながら、最後の力を振り絞って——崩れた体勢のまま大剣を、直哉めがけて叩きつけようとする。
「はん、甘えよ! 魔弾!!」
銃口から放たれた魔弾が——大剣のひびへ、吸い寄せられるように向かう。
そして大剣に当たり弾かれた瞬間に軌道を変えて、さらにひびに向かう。
ドガッ——ドガッ——ドガガガガッ!!!!
金属が軋む音が、広間に反響する。
ひびが——広がった。
亀裂が走る。
走る。
——ガキャンッ!!!
大剣が、折れた。
刃の半分が床に落ち、轟音を立てて転がった。
攻撃が空振りに終わり、ファイアージャイアントが——膝をついた。
広間が揺れ、床にひびが走る。
「……ツヨイ」
炎の眼が、揺れている。
体から噴き出していた炎が、弱くなっていく。
「……ダガ」
ファイアージャイアントの体から、魔素が溢れ始めた。
制御を失った魔素が、外へ外へと噴き出していく。
体が赤く輝き始める。
「……道、連レニシテヤル」
『警告——魔素の暴走が始まっています。爆発します!!』
「まずい!!」
「——水操:壱式 難陀!!!!」
陽平の木刀から、水蛇が飛び出した。
鋭く——ファイアージャイアントの頭部へ向かって奔る。
直哉は即座に難陀の軌道を視界に入れる。
イチカは直哉の意図を察して、識界を展開する。
(……空気の分子を止める——!)
難陀が識界を通過した瞬間——
パキパキパキッと水蛇が氷蛇に変貌していく。
牙が氷の結晶に変わり、鱗が霜を纏い——
白く、鋭く、巨大な氷の蛇が、ファイアージャイアントの頭部へ迫った。
ガブリ。
巨大な顎が、頭部を丸呑みにした。
バキバキバキッ——ッ!!!!!!
氷が侵食する。
牙が噛み砕く。
ファイアージャイアントの体から噴き出していた魔素が——凍りついた。
爆発が、起きなかった。
静寂。
氷の大蛇がゆっくりとほどけ、霧のように散る。
首がなくなった巨体が、前のめりに倒れた。
ズドォォォォォンッ!!!!
吹き抜けの開口部から、夕暮れの空が広がっている。
崩れた側壁の向こうに、風が流れ込んでくる。
* * *
砂煙が、ゆっくりと晴れていった。
直哉は膝をついていた。
腕が動かない。足が震えている。
全身が、鉛のように重い。
「……終わったか」
武虎の声が、岩塊の向こうから聞こえた。
「なんとか、ね」
吹き抜けから差し込む光が、砂煙の中で静かに輝いていた。
最初に気づいたのは、陽平だった。
「……涼しくなってる」
直哉は顔を上げた。
確かに——空気が、変わっていた。
さっきまで肺が焼けそうだった熱気が、じわじわと和らいでいく。
壁から滲み出ていた赤い光が、少しずつ薄れていく。
床のひびから漏れていた光も、消えていった。
「……こいつが熱源だったのか」
武虎が呟いた。
「みたいだな」
直哉は立ち上がった。
足が笑っている。それでも、立てた。
「イチカ、結晶体は?」
『確認します——』
少しの間。
『……魔素の暴走が、止まっています。
ファイアージャイアントが結晶体と繋がっていたのは間違いありません。
あの個体を倒したことで、熱源の原因が断たれたようです』
「じゃあ——終わった」
真弓がゆっくりと着地した。
銃を下ろし、肩で息をする。
「……案外、生きてるもんだな」
「ほんとに」
陽平がへなへなと座り込んだ。
「死ぬかと思いました、何回か」
「俺も」
直哉は正直に言った。
武虎が鼻を鳴らした。
「あのぐらいで俺らがどうにかなるかよ」
「へへへ」
陽平がくすっと笑った。
真弓も、口元を歪めた。
吹き抜けから、冷たい夜風が流れ込んできた。




