絶望の中にも希望はある 3
「起きて」頬を叩かれ、体を揺すられる感覚で目を覚ます
朝が来たのだと、瞬時に理解しガバっと体を起こし、今の状況を知るために周りを見る。
どうして、焦って状況を理解しようとしているのか、単純に普段ではそうそうなく珍しい現象が起きているから。
だって、私の体を揺らして起こしてくれたのは珍しく姫様だから、緊急事態の可能性を考えて車内を見渡すけれど、車内には私後姫様以外、誰もいない。
かといって、周りからざわめきが聞こえてくることもない、つまり、純粋に私が寝坊しただけってこと、かな?
一瞬だけ張り詰めた緊張を緩ませ、目覚めたばかりの思考を告げてくる、他の人は何処に行ったのかと?
どうして二人だけなのか不思議に思いつつ、時計を見る、朝食を食べる時間よりも少し早いくらいかな?早朝だった。
時刻を見て、周りの状況を見て、姫様に視線を向けると
「ごめんね、いっぱい、無理させちゃったよね」悲しそうで涙を浮かべながらこちらを見ている、まだ魔力欠乏症が治りきっていないのだろうか
魔力測定器を取り出して姫様に握らせる測定するが、特に問題は無く、昨日よりかは数値が良くなっているが、低い数値なのは変わりは無いが、欠乏症っという程ではない…
先ほどの言葉の意味が何を意味するのか考える
何に対して謝っているのだろうか?昨日までの欠乏症のことだろうか?
言葉の真意がわからないので、ひとまず、その言葉の意味を探ったり考えたりすることは、置いといて、全員の所在が気になるので周りを見渡しながら
「みんなは、ご飯?」姫様に質問をすると、窓の外に向かって指を指すので窓から外を見ると女将と戦乙女ちゃん達は体操をしている様子だった。
戦士部隊所属の人達にとって、大事にしないといけないのが体
何時だってどんな時だって戦う為に備える、戦士として体が資本だから、常に戦えるように備えるもので、今だって何時だって、しっかりと体をいつでも動かせれる様に習慣づけていることが多い。
その姿を見てお互い頷きあって、車から出る、出たら当然向かう先は決まっている、朝の清々しい空気を肺にたっぷりと入れて体を目覚めさせるために二人一緒に、体操に参加させてもらう。
医療の父が考案した【清々しい朝に動かせ全ての関節、全ての筋肉、目覚めろ筋肉体操】をみんなで元気よく動かしていく。
凄く良く考え抜かれた体操、その全部が終わるころには汗が体から迸るくらい汗が出る、のが普通だけれど、ここでは違う土地柄的に朝は冷えるので、程よく汗がにじむ程度でいい感じに体が温まったのを感じる。
全員の体が適度に温もり、目も完全に冷めたので、昨日の夜から始まった絶望的な作戦会議を再度開始するために車の中に入る
各々が昨日と同じ定位置に座ると、戦乙女ちゃんからご飯として栄養素だけが詰まった丸薬と水を渡してくれるので、それを齧りながら作戦会議が再開される。
「取り合えず、作戦内容はある程度、固まってはいるけれども、敵の出方次第ってところになるの、だからね、私自身もちょっと整理しきれていない部分が多いので、一度、皆で意見を出し合って整理するために、質問タイムにしたいと思います」
非常に落ち着いた雰囲気で会議がスタートする。昨夜は混乱・絶望・魔力欠乏症からくるネガティブ思考などのマイナス要素が幾重にも重なって会議どころじゃなかったから、体も心も魔力もそこそこ回復した今だからこそ、今一度、冷静になって、思い返していこう
まず、寝て起きてから一番最初に気になったのが、作戦開始する前に聞こえてきた
犠牲とは何か?
あの呟きは何を意味するのか確認したい
手を挙げてその事を伝えると姫様は気まずそうな表情で答えてくれる
「ぁー、んー聞こえてたのね、犠牲は 未来 だよ」
…?
言葉の意味が良くわからなかった、全ての言葉が言い終わるまで待つことにする、下手に口を挟むのは良くないからね、姫様が気まずそうな表情のままゆっくりと説明してくれる
「まず、散布した毒の種類について詳しくお話したいと思います。あれの情報を知らない限り言葉の意味へとたどり着けないので」
毒の種類、散布してからの敵の動きから、何となくだけど、予想は出来ている。出来ているけれど…あんな危険な毒を持ち出せる?…姫様なら許可が下りるか。
「あれはお察しの通り、敵から奪った毒を精製する魔道具から生み出された物質で、特殊な二つの毒を混合した特別製の毒です」
ごそごそと、ポケットから取り出された指輪型の魔道具を二つ取り出す。
見覚えがある、薬を創る時の原材料になる毒を精製することが出来る、昔から研究塔にある魔道具だ。
それを見て、毒の種類が何と何なのかすぐにわかった。
ある程度、予想はしていたけれど、これかぁ…納得、これを使うということは確かに未来が失われる
もしも未来の話で、あの大地に毒の存在を知らないで人が住み始めたとすると、あの散布した土地を開拓し、畑、または、畜産などを営んだ際に悲劇がはじまってしまう、何故なら、毒が散布された大地で生まれる作物は、どうしても毒性を帯びた作物になり、人が食べれるようなものが生まれなくなるし、畜産に至っては謎の衰弱死を遂げるだろう。
だから、あの土地の未来を奪う、未来を犠牲にするっということになる。
姫様がこちらを見ながら、私がその魔道具が何を意味するのか気が付いたのだと感じているけれど、ゆっくりと言葉を続けていく
「団長は医療班だから気が付いたと思うけど、皆の為に説明しておくね」取り出した指輪を見せながら丁寧な説明が始まっていく。
一つが、通称、神経毒で、体の動きを鈍くさせて動きを徐々に阻害させ、最終的には全てを停止させる毒
この毒をたっぷりと全身の細胞に漬け込ませると、呼吸や内臓の動きも停止させることが出来るので、いずれ、毒が全身を回っていき、心臓も脳も停止します。
対処方法は、第一に触れないこと、後、口に含んだり傷口に塗らないこと、後は粘膜からも吸収しちゃうかな?
二つが、通称、浸透毒で、体に触れるとじわじわと成分が染み込んでいって血管内にまで浸透する作用があり
血管内に到達するとある成分と結合して血管の中で塊になり、その塊が血流の流れを阻害していき、その小さな塊がいずれ、心臓や脳に栄養を送る為の小さな血管を詰まらせて殺す毒です。
対処方法は、絶対に触れないこと、少量であれば血管にまで液体が浸透しないので触れた瞬間に水で洗い流す事、後は、この毒を分解し中和させる成分、血管内で塊を生み出させなくさせる薬を即座に血管内に投与することで対処が可能です。
この二つを特殊なバランスでカクテルすると、体に染みわたる神経毒に血管の流れを阻害し、尚且つ、一定の熱に触れると気化して、空気中にも毒をばらまき、肺からも成分を摂取させてじわじわと体の外からも中からも臓器不全、筋肉停止、心臓停止、脳停止を誘発させる劇毒になるのです。
考案者はみなさんご存じ、毒の開拓者 No2だよ。
なお、余りにも危険すぎる配分なので、ごく一部の人にしか口伝していない特殊な劇毒で、王都には秘密にしている隠し魔道具のひとつ。
こんな毒を王都のど真ん中に散布するだけで、王都滅びます、それ程までに凶悪な品物…なので、絶対に他言しないように!!
最後にがっつりと危険性について念を押されるけれど、そもそも、その指輪を使用するときは研究塔の長が居ないと使用許可が下りないほどの危険な魔道具だから
持ち出したり、毒を生み出して運んだりなどの悪さなんて出来ないようにしっかりとセキュリティも万全。
そう、あの街からこの指輪を持ち出す行為自体が咎められる、かなり危険な魔道具。
因みに、敵から奪った魔道具の類は発動するのに非常に多くの魔力を消費するのだが、毒を発生させるタイプのものは比較的楽に、そう、個人が保有する魔力でも反応する
そう、この毒を精製する魔道具の発動は、非常に簡単で、魔力を流せば流した分だけ毒を含んだ液体が指輪から染み出してくるので誰でも扱える
入所経緯も眉唾すぎて信じていないのだけれど、人型と対峙した瞬間に突如人型が倒れ絶命したというありえない与太話があって、その際に入手したという逸話がある…
なので、傷一つなく手に入れることが出来たレアケースの魔道具…
…目の前で自分が持っている魔道具で絶命するなんて、そんな間抜けな姿を見てしまったら低脳と嘲笑ってしまうのは致し方無い気がする。
恐る恐る、女将が手を挙げて質問をする
「そ、その毒が染み込んだ大地ってのは、その、何年かかるのだい?毒が消えるのに、作物を、育てることができるのは」
最前線の街、その全ての胃袋を支える畜産を担当する、畜産と作物の偉大なる父である旦那を持つ女将だからこそ気になる内容なのだろう…
「…最低でも50年、絶対に消えると確信が持てるのが100年、あの量でそれくらいは必要、たぶん、全ての獣の軍勢を退けたとしても、あの大地は毒の大地になる。人が絶対に住めない大地になるの…未来を奪う行為、多大な犠牲でしょ?」
そんな劇毒を使用する許可をどうやってここの領主から許可を得たのだろうか?…流石は姫様の手腕と言う事かな。
途方もない年月に、女将は言葉を失い、自分が何を散布していたのか知ってしまい罪の意識を感じている様子だった
「。。。だから、説明したくなかったんだけどなぁ、団長が悪い」女将が悲しむ姿を見た姫様が責任を私に投げつけてくるが女将なら大丈夫だよ。
まぁでも、うん、そうだね、何となく予想は出来ていたのだから、知らせなくてもいいじゃないの?って責めたくなる理由もわかるよ?
でもね、知ってから使用するのと、知らないで使用するのは、罪の意識と覚悟が違うと、私は思うんだ。
女将なら受け止めると思うよ、だって、50年?100年?人類が生きている方が未来に繋がるじゃない、土地はあそこだけじゃない、あそこを開墾し開拓するような時代になるとすれば100年以上は経過しているだろうからね。
女将がぎゅっと手のひらを握り言葉を漏らす
「…生きる為さ、し、かたが、ない…ねぇ、元より、あの土地は…不毛の大地って聞くから…ねぇ」
毒の内容を確認したからこそ、毒の危険性を再認識できた、多用は出来ない、してはいけない。未来を考えれば、か…
私のナイフにも塗ってあったりする神経毒…それを広範囲に散布して気化する性質を付与しているから、肺からも吸収されるような地獄の大地を生み出してしまった
ああ、そうか、だから使用したのか、毒が散布した場所で停滞し、近寄ればその毒に侵されて持てる力の大半を失うような場所を作ることで敵の進行を遅らせる目的もあるのか…
理には適っている、最善だと言える手段、敵の殲滅+見えない罠として作用させる一投で二つの効果を生み出す。
だけれど、未来を顧みず子孫に多大な迷惑をかけてしまう作戦…っか、後の歴史家がこの毒の惨状を書物で知れば、姫様や私達のことを無責任な咎人と断罪するのだろう…この時代の地獄的絶望を知らないくせに身勝手に否定するのだろう。
何処か遠い未来で戦犯として否定されるなんてどうでもいいことから気持ちを切り替えよう
さぁ、私も気持ちを切り替えて次の質問をしよう
次に気になるのがどこかしらで絶対に絡んでいる策である、壁の存在
「仮に壁を創るとして魔力はどうするの?手段は?」
そう、今一番知るべきは、そこだ。
姫様が両手を合わせ指をおでこにつける
「…魔力は祈り」
祈り?神様からでも魔力を頂戴するの?何を言っているのか私には理解できない、今更、こんな局面で神頼みってこと?
祈りを捧げる姿勢から顔を上げ言葉を続けていく
「丸いオブジェの魔道具、アレを見てピンとこない?」
冷ややかな目をしながら質問を質問で返される…ぴんと、こない?何処かで見たことがあると言われたら、…もちろん、ある
先ほどの祈りの姿勢に丸いオブジェ…これで気が付かない人は敬虔なる信徒ではない。
そう、教会に設置されているオブジェ。月と始祖様を信仰しているからこそ生まれた信仰の証し、それが…何?
大きく手を、腕を広げて車内なのに、空を見上げるように天を仰ぐような仕草のまま説明を続けていく
「私がね、この大陸全土を駆け回って準備して来た策…人類が貧した時に、今の人類では対処できない厄災に、絶望の中で全滅する恐れに備えて、投資し続けてきた魔道具」
まどうぐ?あの丸いオブジェが?
見上げた顔をゆっくりと下げ、視線を下げていく
「困窮する恐怖の時代、神に縋りたくなる想い、長年、根付く信心する習慣…利用するのが当たり前じゃない?」
垣間見えた顔は普段の姫様とは思えない程の悪辣とした行為そのものを楽しむ表情をしていた
天を仰ぐような姿勢から、普段通りの姿勢に戻りながらも淡々と説明を続けていく
「教会にある祈りの場という閉鎖空間、その閉鎖空間に祈りに来る人達から幾ばくかの魔力を貰い…私達の街に向けて流れて、あの街で魔力を貯めるシステムを構築したのよ」
その言葉で脳内で繋がっていく全ての出来事
あの奇跡ともいえる恐ろしい程の殲滅力、始祖様の秘術を再現するために必要な膨大で途方もない魔力、それを生み出したのは、この大陸全土にいる敬虔な信者から魔力を拝借していたってことになる。
「そう、理論は完璧だった、実験も問題なかった、ある装置に仕込んだ術式によって周囲に特定の姿勢をする人達から魔力を吸い取り、蓄えていく、その蓄えた魔力を魔石と同じ構造で作った魔力を反射させ一定方向に流す配線を作り、吸い取った魔力をその場に留めないでよそに流す仕組みを生み出した。長い実験の末、遠い街からでも魔力が流れてくるのも観測できていたし、その魔力を蓄えることも成功している…でもね、問題があるの、それはね、数多く設置しないといけないってこと、だって魔力の元である人類は一か所に留まっていない」
この大陸に村を街を築き住んでいる人達はあちこちにいる。王都の様に一か所に集中して栄えた場所は少ない。
「あとは、その装置をどうやってこの大陸全土にある街や、村に設置するのかという問題」
小さな村でこんな装置を作ったところで魔力を頂くための所作をするとは思えない。
「投資したのよ、教会に、教会の教えを大陸全土と言わず、他の大陸にも浸透させるという教会連中の思惑を利用してね…」
そして私にはある実績がある街道を作ったという大きな実績が、生み出し施工した張本人。
作ったからこそメンテナンスをするという名目が発生する
だからね、出来たのよ、通したのよ、街道の下に魔力を流す配線を
この企みはね、王族の誰もが知らない企み…って言いたいけれど、めちゃくちゃ協力してもらってます、ある王族の人に
俯いていた暗い表情から一瞬にしてにぱっと笑顔になり、先ほどまでの不穏な空気からいつも通りの姫様に戻る
「だから、使用する際は一応、一言だけでもその人に許可を貰ってから使用するのが礼儀であり礼節なんだけど、今回すっ飛ばしたから
たぶん、王都騎士団と一緒にこっちに向かってると思うよ!」
これはやらかしたなぁっと気まずそうな表情で自身の指をこちょこちょと動かして軽く焦った表情をしている。
あんな途轍もなく途方もない魔力の流れを王都上空を悠々と超えていったんだもの…
それはもう、王都では凄く問題になってると想像が容易いよね?あの魔力が何処に向かったのか、そして、その膨大な魔力という利用価値が非常に豊富なエナジー。
純粋たる暴力に変化してもおかしくない物質であり、それが狂気となって、王都に向けられないかと問題になるのは確実
不穏な感じだったけれど最後は、にこやかに説明する内容が大陸全土を巻き込んだ途方もない策で、姫様じゃないと絶対に出来ない策だった。
そんな大規模な策を、この人は何年かけて実現したのだろうか?待ち受ける絶望を困難を乗り越える為に、この人は何処まで考えて行動していたのだろうか?
途方もない、もしかしたら意味もなく終わる可能性だってある、それでも人類の為にただ一人で考案し未来を、希望を勝ち取るために奮闘してきたのだろう
その結果、王都全てを敵に回す可能性も、忘れずに考慮している。
そして、やろうと思えば人類を滅ぼすことだってできると宣言するような大それた事業を実現したことになる…
このシステムを利用すれば王都中の人々から魔力を根こそぎ奪うことだって可能のはずだ、それをせずに、特定の条件下の元だけ発動するようにしている辺り
許可が下りたのだろう、魔力を得る過程を限定的にしている、無差別的な状況ではない。だからこそ、相手も姫様のことを信頼している部分もあるからこそ許可が下りたのだと私は思うし感じる、それ程までに姫様は人類の為に貢献し続けているから。
許可を取らずにこっそりと仕込むことだって姫様だったら出来るはず、それをせずに真摯に向き合ってきたからこそ、この様な人類を滅ぼすことも出来る魔道具の構築や設置、運用するシステムを設置したりする行為を許したのだろう。
姫様が長年築いてきた信頼だからこそ成し遂げれた偉業だと知る
本当にすごいなこの人は…
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