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最前線  作者: TF
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- side C - 無能な司令官

どうして俺の代で、こんな事件が起きる?今までもこれからもずっと、この砦は平穏で仕事がなく、無駄飯ぐらいと言われるくらい穏やかに過ごしてきたじゃないか!どうして、俺の代になってこんな、こんなことが…


胸につけられた勲章を触る、この勲章なんて俺が直接、陛下から賜ったものではなく、俺の父や祖父が長年、平穏無事にこの辺り一帯を治めてきた、ただ純情なる愛する陛下の犬として下僕として勤めてきた褒美として下賜してくださったものだ


そう、誰でも長年、勤勉に犬として機能していれば貰える。武勲を上げたものだけが貰えるような上等な物ではないのだよ。


はぁ、俺っていう存在を良く知る人物であれば、みな同じ評価を下すだろう、無能だと、俺自身、一族の恥だと自負している。


剣もダメ、槍もダメ、弓もダメ、鍬すらまともにふれん。

学が無い、研究する意欲もない、術式なんて下々に使わせればいい、策も計略も過去の戦術も知らない。


跡取りが俺しか生まれなかった、その一点だけが斧が人生における最大の幸運だろう。


その幸運のおかげで、何もできない何も才のない俺がこうやって偉そうにできているし、仕事もある、形だけの砦だがな。

野党なんていない、犯罪を犯すような出来事は砦の兵士が取り締まるようなことじゃない各々の村で解決しろ

人類の敵だと言われる死の大地の獣がこんな南部へと現れることなんて天変地異が起きない限りない


そう思っていたんだ、思っていたのに!この形だけの砦にどうして、こんな、こんな、天変地異が発生するのだ!?


誰でもいい、誰でもいいから助けてくれ!!

この砦を失ってしまったら俺の家は、俺の人生は終わってしまう!!

無能だと烙印を押されて領地もこの地位も、この仕事も全て失う!!誰でもいい!!助けてくれ!!


このところ、ずっと心の中にある言葉は助けを請う言葉だけ、平静を装おうが俺のストレスは過去類を見ないほどのストレスを感じている。


報告で上がってくる被害の数々、敵の多くがこちらに向かってきているのだと知る、知れば知るほど、逃げだしたくなる…


待ち望んでいる応援、そう、王都騎士団からの返事がない、大量のハトを飛ばしたというのに!どうして誰も来ない!どうして…馬だって送ったじゃないか!王都からも馬が来たから返事を馬に括りつけて返したじゃないか!!


どうして、どうして誰もこない?王都からここまでだったら急げば、もう到着していたもおかしくないだろう?


王都は、陛下は、敬虔なる信徒を見捨てるというのですか?俺は、私は、ぼくはぁ、一生懸命、いっしょうけんめい、何もしなかった、なにもしなかったけど!平穏無事に領地を治め続けましたよ!得られた作物も…それ以外も、村の綺麗どころをとか…しっかりと治め続けたじゃないですかぁ!?


俺が出来ることは無能だろうがなんと罵られようが、頼れる英雄が現れるのを待ち続けるのみ、その為に安い安い最低限の装備しか与えていない死んでも何も影響がない俺のような無能な者どもを永遠と突撃させるだけだ。


時間を、時間を稼ぐんだ!お前らの命で敵を1秒でも足止めできれば僥倖!頼むから命で時間を稼いでくれぇ、頼むからぁ…


近隣の村から非難してきた村人たちも、もう、新しく逃げ込んではこない、そろそろ門を閉めて籠城でもするべきだろうか?

だが、門を開けておかないと王都からくる王都騎士団様に門を開閉するという無駄な時間で足止めをさせてしまいかねない!!

でも、でも!!件の獣が砦に一匹でも入ってきたら、俺が集めた無能共では到底太刀打ちできるものではない、蹂躙されて俺らは獣の糞になる。


決断が出来ない、いつだって、決断ができない!周りに流されるままに生きてきた俺がこんな決断が出来るとは、一生できるとは思えない。


度重なるストレスで俺の頭皮からどんどん、毛が日に日に減っているのがわかる、ただでさえ少ない毛が抜けていく…


俺の唯一の美点である黒髪が抜け落ちていく、唯一、褒められたんだぞ?父から、祖父から…陛下から。その自慢の毛が少しずつ抜けていく…


希望を待ち続けていると、常に傍にいる伝令係も務めてくれる腹心の声が聞こえる

「お客様がいらっしゃいました、お通ししてもよろしいですか?」

この非常事態にくるような客なんて、この天変地異を解決する英雄しかこないだろう!!心の中で思い浮かべる屈強なる男、白く輝く栄光の鎧を着た清廉なる騎士!!

「通してくれ」

救世主様と正面から向き合うのだ、少しでも威厳を保ちながら相対せねば失礼というもの、こういった処世術だけは上手くなったと自信がある


ゆっくりと振り返るとそこには可憐な白髪の乙女がペコリをお辞儀をしている…誰だ?どこの村娘だ?今はそんな気分じゃないぞ?


「お久しぶりですね、この様な大変な時期に突然、失礼します。…助けに来ましたわ」

顔を上げてこちらを真っすぐ見据えてくれた瞬間に思い出す!!死の大地の姫だ!!!獣を蹂躙し、この世界に安寧と住みやすい暮らしを提供しその所業はまさに死と生を司る使徒さながらと噂され一部では畏怖の対象とされている。


し、死の大地に住まうひひひ、姫様ではないですか!?こ、これは勝てる!!

脳内が震える、待ち望んだ勝利がここに降臨したのだと確信する。


俺は武勲を上げて認めらえるぞぉ!!俺の幸運は一人っ子だったことじゃない!!今この瞬間こそ、幸運なのだと!痛感しております!!痛みを伴うからこその幸運!!!


いざというときに、使徒を使わせてくれる敬虔なる信徒だからこその幸運なのだ!!高い金を治め続けてきたからこそ、徳が高い!!おお我らが大いなる始祖様よ、始祖様を導きたもうた、神よ!!多大な寄付を今度お持ちします!!!


偉そうに「うむ、任せる、うむ、さすがであるな、うむ、任せる、うむ」だけの会話とよべるのかわからない受け答えをずっと続けていると気が付いたら

全ての作戦が決まっていて、直ぐにでも開始することになる、死の姫がにっこりと笑い部屋から出ていく。


俺の代わりに話を聞いていた腹心に声をかける「…話の内容は理解したか?」腹心はこちらを見ながら

「ええ、流石はあの街を統治している知恵者ですね、私達では到底理解できない世界に住んでいますね、さぁ!私達も現地にいきましょう!!」

そうかそうか、理解してくれたか、俺はほとんど話を聞いていなかったからな!…ん?気のせいかな最後の言葉、確認しよう


…ぇ?俺も外に出るの?


こくりと頷かれる…出たくない!!俺が戦闘なんて指揮なんて出来るわけがないだろう!!


腹心に引っ張られて外に出ていくとあれよあれよ設営されていき、気が付くと最前線で指揮を執るようなポジションに

うむ、今俺が出来るのは麗しの死の姫でも眺めるだけだな!!よくよく見ると幼い雰囲気で可愛げがあってよいではないか。

小ぶりな胸に、小ぶりな体型、顔も悪くない…うむ、俺は死の姫を眺める仕事をするぞ!腹心は旗を振って伝令係を務めつつ俺の代わりに仕事をしてくれ!


死の姫の指示通りに後方へと指示を送るだけの形だけの司令塔を続けていく


「獣軍勢沈黙!!作戦は成功です!!」腹心から聞こえてくるこの言葉に心の底から歓喜する!!


そして、ついに!ついに!!困難を、天変地異を乗り越えたのだ!獣の軍勢を俺が殲滅したのだ!!俺の類まれなる軍事指揮によって!!!

未曽有の危機を俺の采配で乗り越えたのだから、俺の家で唯一の武勲勲章を下賜してくださる未来を、栄光ある凱旋が脳内で再生される、栄光ある王都で華々しく鮮烈な社交界デビューが叶う!?


脳内が光り輝く栄光の未来に浸されているときに突如「撤退はどうなってるの!?現状伝えて!!」呼びかけれてしまい慌てて確認をとると返ってくる答えが脳をパンクさせる


「報告!読み上げます!大量の獣が死骸の中から、死なない獣あり!こちらに向かって走ってきています!!」

まだ敵がくる?終わっていないの?理解しがたい現状に脳が言葉を飲み込むことが出来ずにいると、俺の言葉を待たずに各々が今すべきことを判断し動き始める。


「司令官様!ケース2!大急ぎでお願いします!人型が来ます!!」

叱咤激励と感じるような怒号が飛んできたのかと一瞬、母上を彷彿とさせる熱量を帯びた言葉を一身に受け、我に返り慌てて兵士達にケース2だ急げ!っと言うが


ケース2ってなぁにー?われしらなーい


自分自身が何をしゃべっているのかもう、わからない、どんなことを口にしたのか、何をしていたのか覚えていない


そんな俺の状況を察してか、予め、腹心が何かをしていたのか、俺が何をしゃべろうが次々と話が進んでいく。

呆けている俺は腹心に引っ張られていき、気が付くと砦の城壁、ぼうへきー?の上まで引っ張れていく、なんか目の前にまるいきゅうたいがあるなー

なんだこれ?


いや、見覚えあるな、死の姫が準備していた魔道具ではないか、それに、これはここ数年前から、教会から設置するように言われている月を模したオブジェに似ているな。造形師が同じの作品か?なんだろうなとまじまじと見ていると急に後ろに引っ張られると突如、球体が激しく光だし目が潰れると思い、引っ張られる力を借りて光が目に当たらないように後ろに振り返り背中を丸めて地面に視線を向ける。


必死に地面に屈んでいると、周りの兵士が騒ぎ出し始めるので何事かと平静を装いながらも、心臓は落ち着いていない、まだ光り輝いていたらいやだなぁっと


兵士達が指を指す方向を見ると、光の柱が天に伸びるのではなく地平線の彼方へと延びようとしている!

その光の指し示す方角を見ると、獣軍勢がその光に浄化されて消えていく!!

そして、辺り一面が清浄なる炎に包まれていくではないか!!


この絶対的な光景を見て、完全に勝利するのだと悟り近くにいる腹心に「宴の準備をせよと伝えてこい勝利は目前だ」と、人生で一番輝いている時にしか言えない決め台詞を伝えると旗を振り指示を伝えていく。


ハハハハハハハ、俺は、俺こそが絶対なる強者だ!神は俺を選んだのだ!このような絶対なる戦力を授けてくれたのだからな!!


この力をもってすれば、俺が王に成れるのでは!?っと野心が胸の内から湧き上がってくるが、死の姫を説得する方法が思い浮かばない、これはあれか?様々な村娘で鍛えてきた四十に渡る手練手管でひぃひぃ言わせて…した瞬間に俺の首と体はこの世から永遠に繋がらない袂を分かつのではなかろうか?

真なる手練手管の持ち主に俺は敵うのか?敵うわけがないだろう、冷静になっていくと、胸に宿った野心がすぼんで消えていく。


そうだよ、そうじゃないか、俺らの一族が繁栄できたのも犬として勤めあげてきたからじゃないか、飼い主を噛んだ犬はどうなる?

もれなく極刑ではないか…


さぁ、冷静にもなったことだし、宴を開催して、死の姫のご機嫌を全力でとり、媚び諂い、今回の手柄を少々掠め取らせていただこう!もしくは、おこぼれをいただこう!!


接待じゃー!王族を迎えるほどの大接待を開催するぞー!!!蓄えた私財を使い切るぞ!!!



こうして、保護した村人たちや、兵士達を労う場という形で徹底的に死の街から派遣されてきた死の一団に全力で媚び諂うことに専念することにした。


死の一団の中にいるある人物から目が離せない

あの大きな大きな大男一人で、この砦は陥落するだろうと近くで見れば見るほど戦慄したわ、近くにいるだけで生きた心地がせんわ!!

しかし、あの背中、なんという雄々しさ、俺が雌だったら抱いてと焦がれるほどの雄々しさ、素晴らしい物だな俺にはない絶対的な才能っというやつか…


最高の頭脳に、最高の肉体…っふ、死の一団に逆らうということはこの二つを相手取らないといけないっというわけか…


全力で腹を出して媚びよう!!!



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