アフターストーリー 20
その姿を見て流石に呆れてしまったからなのか
「なんじゃい、枝すらも切れんのか、訛りすぎじゃないのか?もうちっと運動せーよ?情けないのー、金勘定ばかりしとらんと領主として最低限の武を磨いておかんかい」
ついつい、辛辣な言葉をぶつけてしまった。
「で、ですね…はぁ」
引きずるように剣を渡してくるので受け取り剣先についた土を払い落とし鞘にしまう。
「お、おみごと」
両手で漸く振り下ろせれた重い剣をわしが片手で軽々と振るのを見て小さな拍手を送ってくれるが
「何もしとらんわ!この程度で褒めるなんて嫌味にしか聞こえんぞ?っま、先の流れを見ていれば嫌味とは思わんがな」
「す、すみません」
小さく頭を下げてくる。
こやつの反応も段々と威厳が消えてきているのぅ…わしが悪いんじゃがな。
だからといって反省する気も無い。
従者に剣を渡すと従者も何とか剣を持ち上げて荷台に剣を戻している。
従者ですらしっかりと運ぶことが出来るその程度の重さじゃぞ?ったく、あの程度の重さでへこたれるのは少々情けないのう、炭鉱夫たちに一揆をおこされては対処できんぞ?
もう、お主の前にも後ろにも…姫ちゃんはおらんのじゃからな?っといった風に注意してやりたいが、姫ちゃんがいたからこそ、領地の経営が成り立っていたわけでもないからの~、こやつの領主としての手腕は王都に住まう一部の貴族達は知っとるからな。
それはさておき、これでこやつもこの大地が如何に過酷で辛く人が生きれぬ環境であるのか肌で感じたであろう。
「ここがどれ程までに過酷で、人が生きれない環境であったか理解したか?」
「…はい、わたしは…こんな場所に娘を」
そういうつもりで教えたわけじゃないのじゃが…いや、そういうつもりもあったやもしれぬ。
迂闊で人の心がわからない愚かなわしのせいで罪悪感に押しつぶされそうになっとる
「それを罪だと感じている間はまだこの大地に来るのは早かったのではないか?」
苦し紛れに言の葉を紡いでみたが、これ、逆効果ではないか?うーむ、わしはどうも、この手の状況が苦手じゃの。
「…かもしれません、ですが、俺は…向き合わないといけない、彼女をあの檻から救い出したものとして、そして、彼女が愛した娘をこの大地に送り出してしまった、後ろ指を刺され続けてきた父として」
このままじゃと、膝から崩れ落ちかねん、元気づけるように軽快な音を鳴らすように風船の肩を叩き
「ほれ、馬車に乗らんかい、ある程度進まんと明日には帰れんぞ?」
取り合えずその場の空気を乱すように風船を動かすことにした。
「そ、そうですね、ご意見痛み入ります」
背中を丸めた体はまるで風船に水を入れた水風船のようだった…
下っ腹を揺らしながら馬車へ移動し、椅子に座らせると項垂れ何も話さなくなってしまった。
その情けない姿につい、思ってしまった
後先考え無しかこやつは?っと…
王都から離れた辺境の地と言われれば事実そうではあるが
そこの一領主として、この大地の噂くらい把握しているであろうに…
っというかじゃ、こやつ、何度も王都に商材を持ち込んだり王に謁見しておったであろうに!この大地がどれ程までに過酷なのか知らんわけが無かろう。
わかっていたから、なのか?
姫ちゃんをこの街に置き去りにしてからずっと悩んでおったのかもしれぬな、その悩みが事実であるのだと身をもって体験し想像が膨らみ罪の意識が膨らみ続けておるのやもしれぬな。
もしくは…こやつは当然、知っておるからな、命短し運命の白き巫女を。
憂いたのかもしれぬな、僅かな余生くらい、外の世界を知って欲しいと願ったのかもしれぬな…
そう思って送り出したつもりが、まさか、予想をはるかに超えて長生きするとは思ってもいなかったのじゃろう。
その結果、血を分けた娘がこの過酷な大地で暮らし続け、生きる事すら困難な道のりを歩ませてしまった。
誰しもが逃げたいと願ってしまう程に辛い環境で生きなければいけなかった。
もしかして、こやつは、そうなったらなったであの姫ちゃんが泣きついて戻ってくるのかと思っておったりせんか?…そんなわけ流石にないじゃろ?親としてあの姫ちゃんの性格を見抜けぬほど、間抜けだったというのか?
このわしですら、姫ちゃんが普通の子供ではないと直ぐにわかった。
だとしたら、実の父親であるこやつが?っふ、想像する迄も無いの。それは流石にない。
無いのであれば、才能を生かし貴族としての位を高めようと野心を抱くのが普通ではないか?
じゃとしたら、もし、もしもじゃよ?
手元に…こやつが姫ちゃんを手放すことなく。姫ちゃんの才能を開花させたとすれば?
そうじゃな…今の地位を向上させ我らが王に強く出る事も出来たであろうな。
強かなやつであれば王の座を奪いかねれないほどの力を得る事も出来た。
誤算があるとすれば姫ちゃんが長生きしたということか?
幼き頃から才を示していたとみて間違いないじゃろ、あの姫ちゃんじゃからな。
ただ、白き乙女の運命、残り僅かしか生きれないがゆえに、駒として機能はしないと野心を消したのであれば?
あやつの中で膨らみ続けているのがそちらであれば…
それを悔いている様であれば今後の付き合いを考えねばな。
わしはな、決めてるんじゃよ…姫ちゃんの敵となるようなやつは誰であろうと捨て置かないとな。
それが…あの馬鹿が望んだことでもあるからのぅ。
そう、あの馬鹿じゃ!エンコウ・センア・イレブン前王!!
自分が王としてするべき務め、その全てをやり遂げたと満足気に月の裏側へと旅立ちおって…お前の人生はこれからじゃというのに、引退したら幽閉されるかの如く狭い世界で生きるしかないと勘違いしておった節があるからの。
お前の父である、かの王は幽閉されているように見えて実のところ責務から解放されたと歓び悠々自適に過ごしておったぞ?
かの王は単純に外に出るのが嫌なだけの引きこもりなだけじゃったわい!
姫ちゃんが作った遊具、将棋やチェス、トランプじゃったか?それらの遊びに何度も何度も付き合わされてきたからな!お忍びで姫ちゃんが運営している宿泊施設にも何度も遊びに行ってたりするくらい悠々自適に暮らしておったぞ?
じゃからの、お前が想像している内容と現実は違うんじゃよ…
何故、お主らは思考の渦という自分という世界に閉じこもろうとするんじゃ?
もっと…もっと、わしに…想いの丈をひけらかしてくれていれば!!そう、そうじゃよ!あの安らかな満足気な死に顔を晒しおってからに!!
わしが気が付かんと思うてか!!あいつの唇に薄っすらと残っていた紅を見て察したわい!!!
まさか、あの二人が恋仲じゃったとはなぁ!!
思い出してきてしもうた…一度蓋を開けるととめどなく流れ込んでくるんじゃよなぁ…わし…あいつらに、いらんことしすぎていたってことじゃよなぁ?
あの死に顔を見てやっと理解してしもうたんじゃよ…
あいつらにとってあの小競り合いはお互いの愛を確かめるような世間では理解し貰えない歪な遊び、お互いの才覚を示し合わせるための歪な愛の…じゃれあいじゃったのだと…
当時のわしとしては、あの馬鹿に何度も何度も命を狙われ何度も何度も殺そうとしてくる、そんな相手を受け止めて何も怒ろうとしない計り知れない器を持っている姫ちゃんであれば、王としての資質はある!彼女の実績があれば王の座を狙う事も出来た!
だというのにそういった行動をしなかった、全てをこの手に治めることが出来たというのに!それを理解していないわけが無い程の素晴らしき頭脳の持ち主であるのにも関わらず!
彼女は自分の使命を第一と考えておられた!王でなくとも民を救い支えることは出来るのだと!
何とも素晴らしき器の広さ!ってな、そう思っておったんじゃが…
真相は誰にも理解されない二人だけの歪な愛の形じゃったというわけじゃ…
わしの知らない愛の世界があるのだと痛感したわい…
視野を広げ可能性を狭めてはいけないっとな、誰かの死でしかわしは気付きを得られん愚か者じゃ。
実の娘が王と恋仲にあったという事実!このことは絶対に目の前にいるこいつには話してはいかん!むろん!気取られてもいかん!
娘がまさか前王であり現王の父親…そして、最後の戦いで月の裏側へと旅立ち世間でも英雄として受け止められ、それを伝説として、今もなお王都では語り継がれている、彼の英雄であるエンコウと恋仲であったとはな…
口が裂けてもいえんわい!
やりようによってはこいつは悲恋を迎えてしまった者の意思を継ぎし者として王政へと打って出ることも出来るからの!!
そんな、不幸しか招かない人同士の争い何ぞ、今は絶対に起こさせはせん、火種なんぞ全て消してくれる。
孫が救世主となりて世界を統べるその日まで、わしが、裏で守ってやらんとな。
武力だけが守る手段じゃない、わしはそういう世界があるのだと知ることが出来たからの
溢れ出てくる過去の記憶、それが気づかせてくれる。
思い返してみれば姫ちゃんの行動全てに納得がいくわい
ああ見えてあの子は照れ屋さんじゃし、隠し事が多かった、いつの間にか王と恋仲になっていたとしても不思議ではない!それにじゃ!お互いの立場が故に!!表に出せやせん!!
故に…嗚呼、なんと奥ゆかしいのか!姫ちゃんは王都を良くしていたのも全ては愛する人の為!
そう考えると全てが腑に落ちるというわけじゃ…
白き運命の巫女は決して王族と交わってはいけない、その規律も重んじておったのじゃろう…
っく!一言!ひとこと!わしに相談してくれれば!いかようにもやってのけたものを!!
あやつもあやつじゃ!わしに相談せーよ!幼少期の頃から面倒見てやったじゃろうが!!!
どうでもいい任務の時だけ呼び出しおって!あの馬鹿は!!!
その様な悩みがあれば打ち明けてくれてもよかろうに!
あやつも!姫ちゃんと同じで!懐を何一つ見せんかったからの!
ん?あれ?…わし、もしかしなくても信用されておらんかったのか?
知りたくも無かった気付きに心臓を鷲掴みにされたような胸の苦しみが全身を駆け巡ってしまう。
その結果、目の前にいる同席者の事など考える余裕がなくなり、言葉を失い続けてしまった。
歳を重ねた二人が無言で尚且つ重苦しい空気を馬車の中に充満させ、平和となった大地をゆっくりと進んでいく…




