アフターストーリー 4
注意をしたというのにスピカの後頭部に頬を擦り付け、更には全力で後頭部の匂いを嗅いでいるこの変態、困ったことに姫ちゃんの傍にいてただけあって、何を言われても良い様に隙がない!
こいつもある意味、現医療班団長と同種なのでしょうね…この変態をどうすればいいのかしらね?
どうやって懲らしめたらいいのか姫ちゃんと違って直ぐに良い塩梅の妙案が思い浮かばない。
寧ろ、こいつ対策として何かいい策を考えた方が良いかと、何か無いかと悩んでいると
『処せ』
もう一人の私のストレートな言葉に笑ってしまいそうになる。
そういうところが姫ちゃんと似てるのよね、もう一人の私は。
ダメよ、貴女も知ってるでしょ、こいつじゃないと回らない部署が数多くあるのよ…って、いい加減に…
「いい加減はなしてください~!」
縫いぐるみのように軽々と抱きかかえられ抱きしめられ好き放題されている息子の姿を見て呆れてしまう。
スピカもスピカなのよね!あのこったら無抵抗のままで!貴方なら軽々とその馬鹿を振りほどけるのに!
女性に言い寄られて困った顔をしているが何処か嬉しそうなあの顔!
スピカの困った顔を見ているとふと繋がってしまう、血のつながりを
…似てるのよね。
私達の愛してやまない人、徐々に似てきている。
はぁ…シヨウさんと似て、この子もまた女泣かせになりそうね…
そう感じてしまうと、これもまた美しさが故の罪なのだろうと、膨れ上がる怒りがしぼんでいく
「貴方、時間は大丈夫なの?用事があるんじゃなかったの?それと、夕餉には戻ってこれるの?」
「夕餉…?いえ、今日は赤道直下まで出向くつもりです、夕ご飯までに戻るとなると、難しい…かも?」
あら、スピカを敬語にさせてしまったわね、怒りが抜けたと思っていたけれど抜けきっていなかったのかしらね、つい感情が声に乗っかってしまったみたいね?いけないわね~、気をつけましょう。
会話をしていてもメイドの馬鹿がスピカを抱きしめ続けている、その状態にスピカも慣れてしまったのか呆れてしまっているのか、今も特に気にする様子がない。
思い返すと、こうなるのを見越してメイドのやつは動いていたのかもしれない。
何故なら、メイドのやつ、スピカがもっと小さなころから抱きしめ続けていたからなのよね。
慣れって恐ろしいわね…
「っというわけよメイド、救世主様は、救世主様しか!出来ない!救済という!尊く!気高く!誉れある!誰にも真似できない、いいえ、誰も無しえない彼だけの役目があるのよ、貴女のような俗物に付き合っている暇なんて無いのよ」
良いから離せと圧をかけてみるが
「俗物?っふ、であれば尚の事、女を知らないからこそ初手、そう初めてこそが特別だと感じてしまい、見知らぬその辺の造花に心を奪われてしまうのです!男というのはいずれ華に触れようとする。なればこそ!今のうちから華を知る!だからこそ!初手を美化しない!初手で愚物に汚染させないために!彼を害するような彼を悪用するような!…拐かす俗物に彼という無色透明を黒へと染まらせない為に!私が必要なのです!わかりますよね?ええ、勿論、貴女なら理解してくれますよね?いいですか?これは必要なことなのです、何れ興味が湧き上がってくること間違いなしなのです!だったら!興味が湧く前から!今から学べばいい!知らないことには一度、触れて!見て!感じる!その体験ことが大事。興味が沸き上がり、その想いを募らせてしまえば、こじれてしまい!それが弱みとなる!知ってしまえば次に何か起きたとしても、それは既知!彼はそれに固執しない!染まらない!囚われない!!特別な思い出になりませぬ!!そう、優雅で可憐で、この世に二つとない美を先に知ることで、愚物共を見たとしても、愚かなことは起きないのです。世界を飛び回るスピカくんが大事なら!彼は知るべきではありませんか?花園を!!彼を誘惑するような外の見知らぬ女!そんなのにただの欲望という下らない理由で彼の未来が縛られても良いのですか!?いやない!!そうでしょう?その様なことに愛する大切な息子が惑わされてもいいのですかぁ?」
早口でまくしたててくんな!目が血走ってんのよ!!
っていうか!俗物って!!お前が言うか?
っていうかね!ただ単に!貴方が!スピカの初めての相手になりたいだけでしょうが!
ったく、こいつは…会話の中にちょっとだけ一理あるのが腹立つのよ。
『こいつがせめて、あと、10年若ければ止めはしないわよ』って、意外と!?貴女はアイツの味方なの!?
『あら?一夫多妻制が私達の考えよ?始祖様のように愛するだーりんのように、多くを愛し、多くを娶る、その事に反対はしないわよ?貴女も、目の前のいる変態、彼女の才を認めているでしょう?稀有な才は途絶えさせてはいけないのよ?そう、私達、聖女の血筋はね』
それは、そうね、貴女の教えは間違いではないわね。こいつはなんだかんやと優秀なのは間違いないのよ。
でもよ!!!私の感情が許さないの!ああー!嫌なの!スピカのお嫁さん候補にこいつが入ってくるのが嫌なのよねー!わかる?わかってくれる?
『…っふ』
っく!鼻で笑いおって!これは、想定外ね、まさか、もう一人の私はそっちに対して、そういう考え方なのね…
こいつにお義母様って呼ばれるのだけは嫌よ~、嫌なのよ~…
「助けてもらった恩くらい返す気はないのかしら?」
つい、溢れ出る感情のせいで、ため息交じりに恩着せがましい言葉を漏らしてしまい、即座に失敗したと自分を戒める。
『失敗したわね』っと呆れた声が聞こえてくる、私だって失言したってわかってるわよ、滑らしちゃったのよ!
「っはぁ?助けて頂いたのは姫様ですけどぉ?体の中に残った僅かな毒をアナタが用意した解毒剤で解毒しましたが?それがなにかぁ?医療班として当然のお仕事でしょう?貴女は誰かを救うたびに!恩を着せるのですかぁ?」
そして、この話題を出すと何時ものように挑発してくるのよね…
感謝の感の字も感じさせないこの年増の態度に
「着せないわよ!ああもう!スピカ!お母さん命令です!速く出発しなさい!」
つい此方もむきになってしまう…
スピカに命令を出すと背筋を伸ばして口が達者なメイドの拘束を優しく振りほどくと「ぁぁん♪勇ましい~」嬉しそうな顔をするメイドの姿に苛立ちが溢れ出てきてしまう。
この色ボケメイドをどうにかしないといけないっという使命感を心の底から感じていると
「では!母さん行ってきます!」
愛する息子の声で邪悪な考えが吹き飛び、飛び去ろうとする息子に慌てて
「気を付けるのよ!お弁当はもった?」
手を振ると、聞こえていたのか腰元に向けて指を刺しながら助走も無く三歩ほど地面を蹴ったと思ったらスピカは空へと飛びあがり、一瞬で見えなくなってしまった。
物凄い速さで飛んでいくスピカの後姿を見送ると自然と心が落ち着いてしまう。
「もう見えなくなりました」
「ええ、そうね」
先ほどのイラついた感情も一緒に飛ばしてくれたのか、心が晴れやかになる。
先の光景を見るたびに思い知らされてしまう。
スピカの能力は私達の常識から大きく逸脱していることに…
まだ、7歳という年齢だというのに誰よりも強く誰よりも術に秀でている
身体能力が高いだけでは無く、武に関しても極まっている。
あのお義父様がスピカの武を見ただけで「勝てる気がせんな」っと、敗北宣言をするほどに…
超常なる存在を身近で…肌で感じてしまうからこそ、思ってしまう、考えてしまう、思い出してしまう。
何度も何時だって…
だって、私達は…彼女を忘れることが出来ないから。
「彼が居たら…」
メイドが震える声で溢してしまった言葉に喉を引き締め
「その先は言わない約束でしょ」
何とか震えないように木をつけて声を絞り出す。
スピカがあの日、傍に居たら、きっと多くの人を失わなかった…
私達の大切な人達が誰も死なずに済んだであろう…
そう考えない日なんて無い、それ程までに彼の力は私達の常識の外にある。
話題を変えよう、このままだと私達の胸の中にある大きな穴を覗いてしまう。
「そういえば、お爺様が来られるのは今日よね?」
本日の予定の一つとして、お爺様…そう、スピカのお爺様、つまりは、お義父様が激務から離れ一時の安らぎを求めてこの街に遊びに来る。
空を見上げながら隣に居るメイドに彼の予定を確認の声かけしたのだ…が!
「…?」
返事が返ってこないのでメイドが居た場所へと視線を向けると
「逃げたわね」
メイドの姿はなかった
あいつは未だにお義父様、ゼンケンさんの事が苦手なのか下手に関わろうとしない。
隙あらば逃げるのよね…
っはぁ、仕方ないわね、お義父様がこの街に来られたら誰か手の空いている人にお相手をお願いするとしましょう『逃げたわね』逃げた?いえいえ、私は薬を作りたいので!時間がなくてよ!ってわけにもいかないわね、誰も捕まらなかったら私がするわよ。
彼を持て成すのは少々、手を焼くのでメイドの一人や二人いてくれると助かるのにっと背を丸めて家の中へと足を進め、家の中に用意してある通話用の魔道具に魔石をセットして今となっては殆ど機能しておらず所属している人達も数少なくなってしまった騎士の部へと通達を出す
内容は簡潔に、手が空いてる人がいたら彼が来たらおもてなしをして欲しい、手が空いていないのだったら彼に私は家にいると伝えるようにと…
通達を出すと騎士の部に所属している騎士が快く了承してくれたので、階段を上がり…つい、ふと、考えてしまい思い出してしまう、共に戦った彼らの事を…
そう、あの戦いが終わり平和になった影響で、この街を離れて行った人達の事を
この街の治安を維持するだけが仕事となってしまった騎士の部…
多くの人が仕事が無く、やることが無くなってしまったので騎士という部隊から離れ、他の部署で働ける人は働き、女将のように自分で店がしたい人は店をしたり、戦士の人達と共に、毒の解毒処理をするために、人型が強襲し毒を撒いたあの浜辺、毒で汚染するしか防ぐ術が無かったあの南の大地へと、作業要員として出向いてくれていたりする。
もう、この街では戦う必要性が殆ど無くなったから。
姫ちゃんが望んだ獣という脅威がなくなり、戦う必要のない世界へと、この街は成ってきている。
剣を置き、必要な刃は、斧や鍬。それを握って大地と木々を相手取る。
そんな争いのない世界に、この世界は向かってるわよ…
姫ちゃん…




