Fine 街 13
「ぁ、ぁ…ぁ…」
目の前で消えゆこうする命に彼女は立ち尽くすだけで何も出来なかった
自身の頬が、手が、真っ赤へと赤く赤く拭い切れなくなるまで染まってしまった。
降り注いだ赤が心を乱し腕の中で消えていく熱が…彼女の思考を狂わせていく…
極度のストレスによって、思考が鈍磨し冷静な判断が出来なくなってきていた彼女の思考が狂うのは時間の問題だった。
友人っと言えるほど仲が良いわけではないが、この街を守るために共に生きてきた隣人。
死とは無縁の生き方をしてきた彼女が、死の大地という意味に真に触れてしまったがゆえに、白く染まった思考が黒へと染まっていく…
何も言わずに彼女が立ち上がると心は一つの言葉だけを発していた。
【殺せ】
黒い感情がある一点を見つめさせる。
【滅ぼせ】
見据えるは命を奪った憎き獣
【愛する娘が殺されるぞ】
声にならない声が彼女の喉を通っていく、それを見た周囲の人が彼女が正気を失ったのだと判断し共に連れて行こうとするが出来なかった、彼女が放つ術式によって止めるという行動を許してくれなかった。
振りほどく様に動かすと視界に赤がちらつき憎悪が溢れ出てきてしまう、抑えきれない【ころせ】殺意が心の形を変えようとする。
手に残る【ころせ】赤い色が彼女の中にある【ころせ】守らなければいけない【ころせ】大切な【ころせ】ものを【ころせ】穢された【ころせ】のだと【ころせ】イメージが【ころせ】重なっ【ころせ】てしまう【ころせ】。
【殺さなければ大切なものを失うぞ】
追い詰められる様な思考の渦に彼女の心は耐えきることが出来なかった。
自身には獣と戦うための知識があり
研鑽してきた日々が獣を殺す術を教えてくれる
使う時が来るかもしれないと保管されていた獣を殺す為の道具もある
全てが揃っている
黒く染まった感情が求める答え
その全てがここには揃っていた
正気を失った彼女が動き出す、周りがその動きを見て彼女を止めようと声を掛け続けるが、止まることは無かった。
何故なら、黒に染められし彼女の思考には僅かな隙間もなく
ただただ、彼女の頭の中は、黒から赤へと染まろうとしている
狂気へと堕ちた彼女を止めれるものはもう誰も居ない
例え、それが人ならず者でも止めることは不可能だった
狂気へと満たされ破滅をもたらす使者として、彼女の手には最悪の魔道具が握られていた。
「っく、こ、のぉ!!」
突き刺した剣を獣の体を引き裂く様に強引に引き抜くと白い体液が地面へとぶちまけられる。
幾重にも重なるように獣の死体が積み重なっていくが、獣共は動かなくなった獣を遠くへと放り投げ戦いやすい環境を整えている。
合理的に効率よく、僕を追い詰めようとしてくる。
こいつらは、何れ僕の体力がなくなるのをしっかりと待っている。
全員で飛び掛からず、此方の動きを見て観察している、味方が切られて死のうが一切気にしていない。
統率が取れた獣というモノはこうも、厄介なものなんですね…
魔石の交換も何度も行い、もう手持ちには魔石は残されていない…
限界が近いのだとわかっている、この先どうなるのか想像も容易い…
段々とですが、剣の鋭さが消えてきています、魔力が尽きたら最後となるでしょう。
魔力を吸い出そうと魔石に意識を向けるが、魔力の流れが感じ取れない。
「限界が、近い…」
そう感じてしまったからなのか、まだ、魔力僅かに、感じているのに…
体が重く、剣を持っているだけでも辛く指揮棒は握るだけで天を指すことが出来ない。
魔力が無くとも!体はまだ動かせれる!
そう信じ、極限の状態でも動き続けるのが戦士であるのだと己自身に激を飛ばし歯を食いしばる。
歯を食いしばって必死に剣を振り続ける。
襲い掛かってくる獣をいなし剣先で敵の軸を奪い取り地面へと転ばせ、最小限の動きで急所を突き殺す。体の中を巡っている僅かな魔力を集中させ、その一瞬だけ、刃に魔力を乗せる。
突き刺すときだけ魔力を使い、抜くときは魔力で刃を覆っていない、故に、突き刺した剣は直ぐに抜けない、次の獣が無防備な僕へと襲い掛かる前に「っはぁはぁ、ぁ、ぁぁああああああ」引きちぎるように強引に剣を引き抜き、無防備な僕に攻撃するために飛んできた鰐を切る為に少ない魔力を刃に乗せ、空中で胴体を真っ二つにして鰐を切り捨てる
一振り一振りが重く、足に…いや、膝に力が入らなくなってきている。
まだ、獣が多くいるというのに、集中力がおちて、いるのでしょうか?
視界が揺れる…
「ちからが・・・」
全身が虚脱するような感覚に包まれ動けなくなってくる。
「うごかないと・・・」
意識も薄くなり思考が鈍磨していく
「たおれるわけには・・・」
獣に囲まれているのに膝が地面へと触れ
「ここまで・・・」
頭を垂れ、思考が止まる…
もう…指一つ…動かせ…そうも…ありません…
後は、僕という贄を…獣達が遊びつくす。
その僅かな時間だけでも稼げれたのだとしたら
僕の命は…きっと役に立てたのだろう。
あみー…どるちぇ…
生きてくれ、僕の宝石たちよ…
彼女達の生末に輝きがあらんことを…
【ダメだよ】
何処か遠くで聞いたことのない音が聞こえる
不思議とその音が聞こえると心が穏やかになる
何も感じない僕の何がだめなのだろうか?
【手に取って】
剣を?タクトを?アナタは僕に何を望んでいるのかな?
僕にはもう何もない、どうしようもできないよ。
僕という存在は終わりの音が…閉幕のカーテンコールは流れた。
アンコールを望んでも、僕には何もできない。
【・・・】
無言の圧に僕の心は動かないといけないと魂を振るわせ腕に力を込めてみるが、手には何も掴めない
どうやら、剣を何処に置いて来てしまった、もう、僕には何も出来ないよ?なのに
「お願い!目を空けて!タイト!!」
音が僕の魂を揺さぶろうとする。
おかしい、こんな場所に居るはずのない彼女の音が聞こえる
「貴方がここにいるのを知らなかったの!お願い!目を空けて!」
悲しそうな声、タイト、懐かしいな、僕が幼き頃に
「おねがい、しなないで、おねがい」
王から、授けてもらった名前、僕が捨てた名前
「いや、いやよ、もう、だれも」
「あみー…きみの」
喉から音が零れ落ちていく手には力が宿らなくても最後に
「ぼくのなは、きみとともにある、なをさいごにきかせて」
「オリン!!いかないで!始祖様のもとへと旅立たないで!!」
君という音が僕の名前を呼んでくれた、嗚呼、姫様から与えられたこの大地での僕の名前…
この大地で生きたぼくの、あかし、
満足だよ…僕は…
世界は暗く
音は消えていった
【握って、掴んで、ダメだよ?】
まだ、僕に何を望むというんだい?
【お願い、心を殺さないで】
殺してなんかいないよ…でも、もう、動かない、ならさ、終わってもいいんじゃないかな?
【貴方の愛する宝石が消えちゃうよ?ほら、次の獣がきてるよ】
けも、の?…つぎの?
何も見えない筈なのに
一筋の光の柱が天へと昇っていくように見えた
縋るように、力の象徴である太陽へと手を伸ばすと暖かい何かが僕の指先に触れた
最初は指先だけしか動かなかった
でも
縋るように
そして
願うように
彼の光が、僕に力を与えてくれた
力があれば、あるのであれば、僕の体が動くのであれば!!
僕のタクトは天を突く!!
握らなければいけない、愛する人を守るために
僕の体がまだ動くのであれば僕はまだタクトを振り続けないといけない
目を開くと周囲には多くの獣が僕を睨み続けている
「オリン!!」
愛する人の叫びが聞こえる?不安なんて感じさせない、僕がここにいるから!!
「…」
大丈夫だよっと微笑み返し、僕はタクトを天へかざすと多くの演奏者が僕の周りに立ってくれる。
【さあ!合唱の始まりだよ!みんな!歌って!】【はい!】
【ティーチャーくんも指揮頼んだよ!楽譜を渡したから!】
『はい!姫様!皆さんの歌を僕が導きます!!』
一つの獣が此方へと飛び掛かってくる
タクトを振り下ろし歌ってもらう
『歌ってください、愛する人から離れたくないと願った歌を』
歌が周囲に響き渡ると僕達を囲んでいる獣達全員が鎖で抑えつけられ動かなくなる
『さぁ、次は、此方を歌ってください、寒さに震え肩を寄せ永遠に熱を感じていたいと願った歌を』
歌により鎖が熱を帯びていき周囲に焼ける音が広がっていく
【聖女に導かれし輝きを失った宝石よ、全ての源を断つ、発生源へと案内しよう】
見知らぬ紳士が僕に頭を下げてエスコートしてくれる、さぁ、僕たちのパレードを始めよう!
『どなたか存じ上げませんが、感謝します』
獣達が動かなくなり鎖が消える
『さぁ、歌ってください、体が動かなくなってしまっても、愛する家族と一緒に野を駆けまわりたいと願った歌を』
体が宙へと浮き、獣だったモノの上を通り過ぎていく
「おり、ん?ど、こに?ねぇ、まって!いかないで!オリン!!」
愛する妻が僕を呼び止める
『大丈夫、君を守るから、心配いらないよ』
振り返り笑顔で手を振り、僕は歌を奏でながら進んでいく
さぁ、最後のコンサート、いや、王者の凱旋パレードを始めよう…
終幕の歌をこの大地へと響かせましょう!!
獣達の叫び声を束ね、僕は進んでいく
体も軽く、心も軽い、痛みなんて何処にも無い
天には月が輝き微笑んでいる、まるでスポットライトのように…
僕という天幕が下ろされる時には、きっと、この街は拍手に包まれ
祝福と祈りによって王者の凱旋は閉められるでしょう
ありがとうございます。姫様
僕に力を授けて頂き
ありがとうございます。聖女様
そして
さようなら
僕の愛する宝石たち




